闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -夢に見た道-①

 ガビアムは生まれた時から辛酸を舐めてきた。それは全て自身の国を復興させる為だ。

父から与えられた知識や教育を駆使してネヴラディンに取り入ると敢えて愚鈍を演じ、何とか手に入れた副王の座。その立場を活かす為に機会を窺っていた時、スラヴォフィルという力の権化と遭遇出来たのは奇跡に近い。
そこから『ビ=ダータ』を取り戻すまでは本気で酒浸りになっていたくらいだ。
後は二度と自分の国が脅かされないように『リングストン』を完膚なきまでに叩き潰すだけだった。それで全てが報われると、終止符が打てると信じて疑わなかった。
ところがスラヴォフィルは侵攻の為の兵をほとんど動かさなかったのだ。『リングストン』の版図を切り取る事に成功はしていたものの滅亡まで追い込むことはしなかった。
これは別段おかしな事ではない。国家を滅亡に追い込めばどうしても混乱と怨嗟が生まれてしまう。
だから一気に滅ぼす事を避けたのだろう。生殺し、つまり勢力を衰えさせて不和や不満による内部からの瓦解という流れを作る。そうする事で陥落時の労力を大幅に削減出来る訳だ。
現に『リングストン』国内はネヴラディンの苛烈な独裁によって財政は火の車どころか消し炭と化している。
アンも独裁国家を再建する為だけに潜り込んだ訳ではない。ショウが掲げている覇者誕生に向けて下地を整える準備を進めているのだ。

つまり放っておけば仇敵は勝手に無力化、掌握されていく訳だがこれはガビアムの望む結末ではなかった。

姉を、祖先を踏みにじった奴らは何としてでも処断したい。じっくりと時間をかけて弱体化を謀る方法が最も合理的なのは十分理解しているのだが『リングストン』を自らの手で握り潰す事こそが自身の使命なのだ。
国家に関わる人間の首は一族郎党含め全てを斬り落としたいし『リングストン』という国家の形跡は跡形もなく消し去りたい。
そこまでしてやっとガビアムの心には安寧が宿るというのに『トリスト』はその野心を見抜いたのか、最近は露骨に警戒し始めている。
領土も『アデルハイド』や『ボラムス』に割譲するような流れが出来ており、クレイスを『トリスト』の次期国王へ推戴するような話も進んでいるので嫌疑を払拭せねば『ビ=ダータ』は取り残される形となっていくだろう。
もちろん忠誠を示せば立場の維持くらいは可能だろうがガビアムの願いは一生叶わない筈だ。

であれば自らが動かねばなるまい。

自分に課せられた、いや、自分の家系に課せられた祖国奪還に勃興、そして敵国の滅亡という呪われた悲願の鎖は自分の代で打ち切らねば。

もちろん聡明なガビアムがそのような話を他人に打ち明ける筈もなく、セイドと出会った時スラヴォフィルとの邂逅を思い出しつつ笑みを浮かべて黒威に手を伸ばしていたのだった。

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