闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-⑫

 「よし!これで首への負担は減るんじゃないか?」

その内容とは黒い竜達の住む牧草地の手伝いだ。といっても前科者という扱いなので黒い竜達に近づく事は許されていない。
やる事と言えばアルヴィーヌ達の食事の御世話等、要は召使い的な立ち位置なのだが命が助かっただけでも御の字なのだろう。
少し離れた場所からフランシスカが出来立ての鞍をハジャルに装備すると彼も長い首を動かしながら付け心地を確かめている。彼らの絆はボトヴィを駆逐した事でより深まったらしいがそういえば尋ねられた答えが未だ見つかっていなかった。

「うん?ボトヴィが死んだ事を悲しまないのかって?そりゃ寂しさはあるけど・・・なぁ?」

アナの事が心配なルマーとカーヘンも時折様子を見に来てくれるのだが考えると彼女達からも悲壮感は感じない。なのでフランシスカからの問いかけをそのまま振ってみるとカーヘンからは思った以上にあっさりとした返答が返ってくる。
「・・・そうね。ただ・・・彼は悪い意味でこの世界に染まってしまってたから・・・私も気を付けないと、とは思うわ。」
対してルマーはしんみりとした様子で答えてきた。確かに彼女は『ビ=ダータ』の戦争に巻き込まれたくなくて国外に逃亡した筈なのに現在は『トリスト』の部隊に所属している。その辺りの矛盾点を気にかけているようだが雰囲気に悲壮感は無く、双眸には希望の光さえ垣間見えるのは何故だろう。

「戦いに身を投じたのなら常に死は付きまとうからな。それに今回は奴の方からわざわざ首を突っ込んだんだ。同情の余地はないぞ。」

そして尋ねてもいないのにカズキも持論を展開してきたのでアナはそっぽを向いた。友人2人は彼に惹かれているようだがこんな粗暴な青年の何が良いのか全く理解に苦しむ。
「ただ残された者の事を考えると命ってのは自分の物だけじゃないとは思う。だから俺達は絶対に死なないように立ち回らないとな。お前らもやばいと感じたらすぐ逃げろよ。殿は俺が務めてやるから。」
「カズキ君?『剣撃士団』の長がいなくなったらそれこそ損失や被害がどれ程になるか見当もつかないわ。あなたこそもっと自分の命を大切に考えなさい。いいわね?」
そのやり取りから見てもルマーの本気が伝わってくる。といってもカズキの様子から本人にはほとんど伝わっていない筈だ。
仕方がない。

「む?もしルマーを悲しませたら許さない?どういう意味だ?」

獣のような雰囲気は飾りなのか?それとも本当に理解していないのか?アナが彼の手の平を使って釘を刺すも彼はきょとんとしていたのでその欲望は戦いだけに特化しているのかもしれない。
ルマーが照れ隠しのように遮ってきたので話は終わるも依存から解放されたアナはアルヴィーヌやアサドという変わり者達に囲まれながら平穏な日々を過ごし、フランシスカの尋ねてきた答えがようやく見えてきた頃、水面下の動乱が頭を覗かせてくるのだった。

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