闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-⑪

 「アナ!何で黒い竜を襲ったんだよ?!」
それは元仲間であるカーヘンにルマー、そして義足の青年程ではないにしても憎悪の対象であるカズキだ。
「此度は本当に申し訳ございませんでした。アナとボトヴィの蛮行は私達にも責任があります。処罰も一緒に受けるつもりです。」
しかしルマーの発言により憎悪の順番が入れ替わると彼女をきつく睨みつける。というか2人はボトヴィの死を知っているのか?
久しぶりに仲間達と再会出来た喜び以上に不満が爆発したアナは感情の乱れから大粒の涙を流してそっぽを向くと最後の客人が姿を見せた。

「ふ~ん。あなたがアナか。私の大切な竜ちゃんを傷つけたんだってね?」

一度だけ顔を合わせている筈だが双方ともあまり興味が無かった為、初対面みたいな反応で邂逅が始まると誰よりも先に義足の青年から緊張した雰囲気が漂い始める。
どうやら彼女こそが『トリスト』王国第一王女アルヴィーヌ=リシーア=ヴラウセッツァーであり保有する力は大将軍ヴァッツに次ぐ程強大らしい。
といってもこの世界の事情に疎いアナが知る由もなく、見た目と雰囲気からこれまた可愛らしい少女だ、くらいにしか思っていなかったのだがアルヴィーヌは自身の感情を表に出しにくいだけなのだ。

「・・・・・どうしよう?血が飛び散るのは困るからどこかに連れて行ってから八つ裂きにしようか?」

故に静かに迫ってきた後ゆっくりと顔を覗き込むように近づけてきた仕草からは考えられない発言をしてきたのでやっと現実を垣間見る。
ルマーとカーヘンは慌てて跪くが、そんな2人の態度が更にアナを正気に戻しつつあった。これは自分達の軽率な行動が起こした結果であり責任を取らねばならないのだと。だからせめて・・・
「む?ふむふむ・・・ルマーとカーヘンは悪くないから処刑するなら私だけにして?なるほどなるほど。」
気が付けばアルヴィーヌの手を握り、その手の平にすらすらと気持ちを書き記すと2人が目を丸くしていたがこれでいい筈だ。これ以上他の人間を巻き込む訳にはいかない。

「おいアルヴィーヌ、まじで八つ裂きにするつもりか?そいつは一応ルマーとカーヘンの旧友なんだ。黒い竜達も死んじゃいねぇんだし出来れば穏便に済ませてやれねぇか?」

ところが憎悪対象から助け舟らしき提案が出ると再び頭に血が上ったアナはきつく睨みつける。これは余計なお世話だと言う意味ではない。一度保身に走ったが故に己の本能が安堵してしまった事への苛立ちを丁度良い相手にぶつけただけだ。
「むぅ・・・ルマーとカーヘンだっけ?わたしそういう事されるの苦手だから立って。ハジャルを傷つけたのはボトヴィって奴だったんでしょ?で、それをアサドとフランシスカが倒したんだったら今回はもういいよ。」
そう告げたアルヴィーヌの雰囲気は終始変わらないままだったがそれこそが彼女の恐ろしさなのかもしれない。
命が助かった事より旧友の泣いて喜ぶ姿とこれから自分がどうなるのかは気になっていたが罪人としての責任は免れないらしい。

しかし数日後に言い渡された贖罪の内容が意外過ぎて思わず聞き返しそうになったが声の出ないアナは瞬時に思い留まると素直に従うのだった。

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