闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-⑨

 「お?お目覚めかい?」

次に視界に入ってきたのは見た事が無い程美しい翡翠色の長い髪を持ち、吸い込まれそうな紅色の眼、そして整い過ぎている顔立ちの少女だ。
自分よりも大人びた雰囲気から年上だろうか?声が出ないのも忘れて口をぱくぱくと動かしていると優しく微笑みかけてくれたので緊張していた心は一気に弛緩した。
「あんた、声が出ないんだろ?だから筆談?指でなぞってくれてもいい。落ち着いたら色々聞かせてよ。」
そしてそっと可愛らしい手の平を向けてくれるとまた驚いた。何と彼女は手も美しいのかと思ったらそうではない、明らかに刀傷と思われるものがいくつか走っていたのだ。
どうやらリリーという少女は奇跡的に目立たない場所に集中している為普段はわからないが体中にはそれなりの傷跡が走っているらしい。
その理由を知るのはもっと後になるのだが今はただ不思議で小首を傾げていると部屋の扉が軽く叩かれる。それから中に入ってきたのはあの憎き義足の青年だ。

「リリー様、どうですか?そいつの様子は?」

「はい。今目が覚めた所です。まだ何も聞いておりませんが・・・代わりましょうか?」

嫌だ。尋問を受けるのなら絶対にこの美少女がいい。伝えるより先に彼女に抱き着いて何とか意思表示を見せると2人は目を丸くしている。
「・・・いや、2人でやりましょう。おい、お前達『ビ=ダータ』の剣客扱いらしいな?って事はそんなに気にせず対応を決められるって訳だ。どうする?お前の態度次第では多少拷問が緩和される可能性も・・・」
「フランシスカ様、彼女が怯えておりますのであまりにも強い内容はお控えください。」
「えっ?!あっす、すみません!!」
2人の会話はそれこそ内容で伝わってくる。どうやらリリーと呼ばれる少女は衣装こそ大人しいものの相当な身分を持っているらしい。
あの義足がたじたじしている様子から多少の溜飲と気持ちが落ち着いたアナは小さく舌を出して挑発するも表情を曇らせるだけで何かをしてくる気配はない。
だったら猶更彼女の傍を離れる訳にはいかない。
彼女の腕をしっかり抱きしめながら何故黒い竜を襲ったのかという質問を受けると恐る恐るリリーの手の平にその理由を綴る。

「えっ?!そ、そんなくだらない理由で?!ってか黒い長剣って・・・」

それにしても時折とても口汚くなるのは何なんだろう?フランシスカに向けるような丁寧な口調を続けてた方が威厳や煌びやかさを感じるのに。
不思議だったがそれをこちらから尋ねるのはもっと落ち着いてからだ。何より彼らもまだまだ聞きたい事があるのだろう。しばらく質問に答え続けていたのだがリリーの様子が深刻なものへと変化していくのは気になるところだ。
「・・・何故『ビ=ダータ』王が黒威を扱える人物を知っているんだ・・・」
黒威とは何だ?よくわからないアナはただ不思議に思うだけだったがそれからすぐリリーが本国へ伝えねばと退室した事で室内には2人だけが取り残されてしまった。

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