闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-⑦

 フランシスカが大立ち回りをしている間、獅子は小賢しくも思考を働かせていたらしい。
周りは強風に覆われ、黒い竜達が大きな尻尾を使って援護のような形で攻撃を挟むと出る幕はない。だがどうしてもボトヴィを討ち取りたいアサドは一撃に狙いを定めたのだ。
アナには見えていなかったが進化して得た2足歩行を捨て、本能に従い4つの手足を地面に付けて身を伏した彼は正に獲物を狙う獅子の様相だったに違いない。
そして周囲が激しい攻撃を放つ中じっと機会を窺っていた。自身の牙を立てる瞬間を。
「おわっ?!」
もちろんそんな思惑など2人が知る筈もなかった。ボトヴィは黒い長剣の力に酔い痴れ、アナは飛ばされないように木々にしがみ付くしか出来ない。
それでも戦況は確実に動いていたのだ。アサドが再び本能に従い、強靭な顎と牙で長剣を持つ右手首に喰らい付くとフランシスカもそれに呼応して大槍を叩きつける。

ざむんっ!!

すると彼の右手は黒い長剣をしっかりと握ったまま切断されたのだが獣の動きは止まらない。
口に咥えられていた手首を速やかに吐き捨てた獅子は継続して襲い掛かり、今度は喉元に思い切り噛みつく。これも野生動物らしい動きであり、そして実に合理的だった。
痛みが走った瞬間なのか、叫び声を上げる前なのか、武器を失った事実に気が付いた時なのか、彼の気は間違いなく逸れた。
その隙に追撃を放たれたのはボトヴィの不注意であり怠慢に他ならない。戦いの最中であれば例えどのような状況に陥ろうとも敵を無力化するまでは決して油断してはならない筈なのに。

もしここでアナが飛び出せば彼の命は救えたかもしれない。

しかし自身の過去が。喉に大きな怪我を負った忌まわしい記憶が思考と感情を塗りつぶしていくと座り込んで震える事しか出来なかった。

故に数々の魔物討伐で名を馳せた冒険者ボトヴィの最後は大した抵抗も出来ないまま、何が起こったのかも理解出来ないまま、よくわからない世界でその人生に幕を落ろすのだった。

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