闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-⑥

 アナの中では竜も魔物と一括りだった。
故に一掃して欲しい。目の前にある魔物は全て排除して欲しい。そしてボトヴィならそれが可能な筈だと信じて疑わない。
だから小柄な竜の行動には思考が真っ白になったのだ。
「ハジャルっ?!お前っ?!」
それはフランシスカにも予想外だったのだろう。驚いて声を上げてはいたが彼の体はハジャルと呼ばれる竜の長い首根っこに肩車されるような形で収まると再び急上昇する。
そしてすぐに急下降してきたのかと思えば何とボトヴィの周囲を低空で旋回しながら騎乗していたフランシスカが大槍を全力で振り回してきたのだ。
その威力は容易に想像がつくも何より驚いたのはその速さだ。小柄とはいえ巨体を持つ竜が竜巻を発生させかねない勢いで高さと位置を調整しながら飛び回るのだから飛行能力は相当高いのだろう。
更に地上では獅子が間隙を縫って爪を放ってくるとなればボトヴィでも油断はならない筈だ。
「面白い・・・面白いなぁお前達!!」
ところが逆境とも感じていないらしい。彼のとても楽しそうな声はアナを安堵させるが2人とも相手の力量を大きく読み間違えていた。いや、読み間違えていたのは彼らの感情か。
多少の手傷では一向に怯む様子を見せないフランシスカとアサドの姿勢に黒い竜達も自分達の為に戦ってくれているのだと理解し、様々な形で助力を始める。
それが強風だ。
これはハジャルという小柄な竜の速度を上げる為だろう。大きな竜達が巨大な翼で羽ばたくと周囲は嵐よりも酷い状態になっていく。
残る竜も数頭が地上に降りて彼を睨んでいる事から何やら攻撃を仕掛けようとしているのかもしれない。なのに満足に立っていられなかったアナは一人だけ吹き飛ばされないよう木にしがみ付くので精一杯だ。

(大丈夫・・・よね?)

まさか魔物がここまで連携した動きを見せて来るとは。ボトヴィには攻防が跳ね上がる魔法を施しているので心配はいらない。そう心に言い聞かせるも初めての光景を前に不安はどんどんと大きくなる。
そもそも強風で目も満足に開けていられないというのに戦いになるのだろうか?もしかすると黒い竜達の助力というのは彼らにも足枷になっていないか?
劣勢だと信じたくないアナは心を鎮める為にも思考と視界を巡らせて戦いの行く末を見守る。
そして何とかボトヴィが防戦一方だった事だけを確認した次の瞬間、気配を消していた獅子が獣らしい四足歩行からの強襲する姿を捉えると何年か振りに声が小さく漏れていた。

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