闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-⑤

 ボトヴィとの出会いはアナが14歳の時だった。
自身の街にやってきた彼は正に新進気鋭の冒険者でその名が世界に轟き始めていた頃だ。
その時には既にルマーやカーヘンを引き連れており、アナは最後に加わった仲間なので付き合いは最も短いが彼の強さと優しさには誰よりも惚れ込んでいた。

いや、入れ込んでしまったという表現が正しい。

幼い頃、家を魔物に襲われて喉に大きな怪我を負い、家族を失ったアナは復讐の為だけに魔法の道に入った。
そして必ず根絶やしにしようと必死に勉強していたのだが一つ問題があった。それがいつ、どうやって危険な外界に旅立つかだ。
本人はか弱い少女で使える魔法も補助系だけであり、一人で旅をするのは無理がある。かといってさほど大きくもない街に頼れそうな冒険者などいなかった。
そこにボトヴィという期待の新星が現れてくれたのだからアナの心が崇拝にも似た気持ちで満たされるのも必然だったのだ。
彼と共に戦えれば魔物という魔物を一掃出来るに違いない。全てを奪った憎き奴らを根絶出来ると思えばアナも持ちうる全てを投げ打つ覚悟は出来ていた。
故にボトヴィの期待や要望には全て応えてきたのだ。
戦闘時の援護は当然として体を重ねる事など躊躇する考えにすら至らなかった。むしろ声が出なくて彼を満足させられているのかどうか不安になった程だ。

もはやアナの思考は完全にボトヴィに依存していた。

彼が彼女の全てでありルマーやカーヘンのように傍を離れる等有り得ない。まさに運命共同体といった状態であったにも拘らず彼の変化に気が付けなかったのはやはり距離が近すぎたからだろう。
眼前に手の平を近づければ前どころか周囲すら見えなくなる。そしてそれを指摘してくれる存在も今はいない。
「あっはっは!!弱いな?!それで俺の前に立ちはだかるなんて自己を過大評価し過ぎだろぉ?!」
黒威の力に飲み込まれているボトヴィの変化もあくまで長剣が馴染んでいるから程度にしか考えていなかったアナは心配どころか心酔していた。
やっぱり彼についてきて正解だったと。この力を得たボトヴィなら元の世界に戻った時、今まで以上に魔物を狩ってくれるだろうと胸を躍らせる。
「くっそぉ?!こんな下衆にやられたら・・・親父に会わす顔がねぇだろっ!!!」
そんな戦いの中で義足の青年は何やら訳の分からない事を叫んでいるがどうでも良い。この世界の事情など本当にどうでも良いのだ。
敵は既にいくつもの刀傷を受け、体を血に染め上げていたのもボトヴィの優しさなのだろう。でなければ今頃肉塊と化している筈だから。

「さて、試し斬りもそろそろ終わるか。アナ!!」

ああ、やっぱり彼は最高だ。まさか最後に活躍の場まで設けてくれるなんて。
名前を呼ばれたアナはすぐに付与魔法を唱えるとボトヴィの長剣には炎の力が、鎧には大地の力が宿る。後は面倒な2人を一瞬で斬り伏せるのか、まだまだ稽古に付き合わせるのか。
どちらにしても彼の勝利は揺るがないのだ。
いつの間にか妙な高揚をも共有していたアナは愉悦に顔を歪ませていたのだがそこに何故か先程逃げ飛んだ小柄な竜が降りてくると戦況は新たな場面に移行していた。

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