闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-④

 「ぴぎゃああっ!!ぴぎゃああっ!!!」
先程の小柄な竜の鳴き声に遠く離れていた竜達も呼応して声を上げるとボトヴィが止めを刺すよりも早く集まってきた。
であればこちらも多少の援護が必要か?
身構えるアナとは対照にボトヴィの方は有り余る余裕からか、小柄な竜に執着する様子も見せずに集まってくる黒い竜達のどれを仕留めようかと考えているようだ。
ところがこの牧草地には御世話役が存在するのをすっかり失念していた。

がんっがきんっ!!!

一頭の黒い竜から2つの人影が落ちてくるとそれらはボトヴィ目がけて攻撃を繰り出してくる。
もちろん彼は猛者と呼ばれる類なので不覚など取る筈もない。攻撃を難なく受け流すと地上に降り立った2人にゆっくり視線を向けた。
「あれ?獅子の方は知ってるけどもう一人は新人さん?変わった人だね?」
彼の発言にはアナも頷かざるを得ない。何故なら大きな槍を携えた青年は両脚に義足を付けてぎこちない動きを見せていたからだ。
「てめぇ・・・よくも俺の大切な竜を・・・生きて帰れると思うなよ?」
「フランシスカ、奴がボトヴィだ。」
前回は左宰相と呼ばれる青年に丸め込まれていた為気にも留めていなかったのだがどうやらこの獅子は人の顔と名前を覚えられるくらいには知能を持ち合わせているらしい。

「・・・だったら丁度いい。ハジャルに怪我をさせた罪も償ってもらおうか!!」

むしろ義足の青年の方が獣に近いのかもしれない。激昂を隠そうともせずボトヴィに襲い掛かる素振りを見せると何故か地面に大槍を突き刺したのだから困惑する。
だがそこから棒高跳びの要領で思い切り前に跳んで強烈な薙ぎ払いを見せたので今度は驚愕するしかない。
一瞬で考えを改めたアナはすぐに付与魔法を使おうと動いたがボトヴィからは焦りなどは感じられず、むしろ余裕でその攻撃に対応して見せたのでこちらもその手を止めた。
今回はあくまで黒い長剣の試し斬りだというのもある。こちらの正体がばれた以上無用の衝突を避ける為にここは引き上げた方が良いだろうし彼もそうするに違いない。
ところがボトヴィが退く様子は無く、むしろ2人と戦い始めたのだからアナも素早く理解した。試し斬りとはいえ戦意の無い竜より立ち会える者と戦った方がより実りが大きいだろう。
であれば自分はやっぱり見守るだけだ。念の為にいつでも魔法を放てるよう準備だけはするが近接戦闘を行わない彼女には彼らの戦いに明確な殺意が渦巻いているまでは見抜く事が出来なかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品