闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-③

 何処へ行くのだろう。
行先も知らされないまま数日間かけて移動し、辿り着いたのは過去に訪れた事のある隣国の牧草地だった。
まさか黒い竜を得ようというのか。以前は簡単に引き下がってしまったが黒い長剣の対価として考えればそれくらいは必要なのかもしれない。
ところが今のボトヴィは以前にも増して欲望に忠実なのを見抜けなかった。アナが言葉を発せない為会話というものは無く、全ての意思決定を任せきりになる形も良くなかった。

「よし。早速一頭狩るか。」

基本的に黒い竜は各々が自由に放牧されている。ある程度の集団化している個体も見えるが性格もあるのだろう。
ボトヴィが孤立している黒い竜を見つけると無造作に近づいて行ったのでアナは呆気に取られた。まさか本当に狩るつもりか?
確かに素材として考えれば生死に拘る必要はない。だがそれを運ぶにしても他国の領土からではあまりにも目立ち過ぎる。
しかしこちらの考えがまとまる前に動き出した彼の脚は止まる事なくずんずん近づいていくと静かに黒い長剣を抜いて一気に駆け出したではないか。
こうなると見守るしかない。彼の目的はあくまで試し斬りであり下手に付与魔法などを使えば本当の真価がわからなくなるのだから。

久しぶりに魔物との戦いだ。

黒い竜の力は未知数だが強力な威圧感を感じない事や人間に飼い慣らされている事からさほど強く無いのは間違いない。
殺してしまった責任も所詮は家畜の一頭、代わりに馬を用意したり金銭で賠償したりといくらでもやりようはあるだろう。
「鱗、牙に爪は欲しいな。アナも運ぶのは手伝ってくれよ。」
既に彼の戦意は満ちている。後はあの黒い長剣がどれ程の力を秘めているのかをしっかり見極めるだけだ。
国家の関係など知った事ではない2人が遂に蛮行を犯そうとした時、狙われたハジャルはいち早く異変を察知して上空へ逃げようとしたのだが剣閃は竜の背中を深く斬り裂いてしまう。

「ぴぎぃっ!!」

いかにも動物らしい悲鳴があがるも絶命には至っていない。それでも黒い長剣に相当な手応えを感じたのかボトヴィは笑みを浮かべている。
よかった。これなら以降の戦いは十全に力を発揮出来そうだ。苦戦など有り得ないと決めつけていたアナは既に帰国の事を考えていたのだが彼らは仲間意識が強いというのをこの時初めて知る。

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