闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破滅へ続く道-②

 「ご無理を言って申し訳ない。実はボトヴィ殿が大切な長剣を失ったという話が気になっていたのでね。とある人物を連れて来たんだ。」

この日、ガビアム王と共に現れたのはやたら綺麗な金髪を持つ瘦せ細った人物だった。眼窩まではっきりわかる痩せ方には何かしらの病気を疑うもその声からは若々しさと元気を感じ取れるので訳が分からない。
もしかして危ない薬でもやっているのだろうか?こちらの世界に迷い込んでからはあまり聞かなかったが暇を持て余した権力者というのはどうしてもそちらに流されやすいのだ。
「初めましてボトヴィ様!実は私、様々な逸品を扱っておりまして。今回はその中の一点物を是非お試し頂ければと思った次第にございます。」
「ほう?それは願ってもない事、是非拝見させて下さい。」
これにはアナも頷くしかない。以前持っていた宝剣をカズキとかいう生意気そうな少年に壊されて以降、彼の腰には代用品しかなかったのだ。
その為にわざわざ国王自ら人物を連れてきてくれたのか。相変わらずの好待遇に再びこの御恩を返さねばと誓うがボトヴィからそういう気配は微塵も感じ取れない。
(・・・・・ルマーやカーヘンは元気かな。)
思い返せば彼女達は自分の意思でカズキについていったのだから心配する必要はないか?ボトヴィを独り占め出来ている現状を考えれば猶更だ。
それでも3年以上一緒に行動してきた仲間を綺麗に忘れる事は難しい。やっぱりいつかはカズキを討ち取って2人を取り戻すべきだろうしきっとボトヴィもそう考えている筈だ。

そこに来てこの話は正に渡りに船。もし彼が気に入る名剣なら明日にでもあの生意気な少年との決着を付けに旅立ってもいいだろう。

一人で妄想を走らせる中、セイドと呼ばれた人物が仰々しい木箱から取り出した長剣は自分達の世界でも見た事が無い形のものだった。
(・・・これが、長剣?)
その感想はボトヴィも抱いたのだろう。暫し2人で目を丸くする時間が流れた後やっと手に取った彼は更に驚いているようだ。
「・・・軽いね。それに細工も素晴らしい。でもこれは戦う為のものなの?儀式用みたいに見えるけど。」
「もちろん戦闘用に特化した長剣でございます。どうぞ、抜いて確かめてみて下さい。」
言われるがままお披露目された黒い長剣はそれを振るわないアナですら見事な業物だと感じずにはいられない。厚みは控えめなものの深みのある黒い刀身は何でも斬れるのでは?と錯覚する程に美しく、冷たい印象だ。

「ほぉ・・・・・これはいいですね。気に入りました。ところで私達は持ち合わせが無くてですね。」

「そこは気になさらず。ボトヴィ様の為なら長剣の一本や二本、私がご用意致します。」 
話がとんとん拍子に進んだことであっけに取られたが今回、ガビアムがこのような人物と長剣を用意した事には理由がある筈だ。
恐らく自分達の戦いが近いのだろう。そうなれば今度こそこの国とガビアム王の期待に応えねば。
ボトヴィの僅かな変化に気が付けなかったアナは密かに決意を固めるとその日を無事に終える。

しかし何かしらに目覚めていた彼は翌日、その剣の試し斬りをしたいと言い出したので何もわからないまま彼女も駆り出される事となった。

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