闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破格の歩む道は-⑫

 働くと宣言した以上、雇い主もしっかりと精査せねばなるまい。
といってもフランシスカは両脚を失っており満足に戦うのは難しいと思われた。
「では行きます!!」
ところが地面に大槍を突き刺した後、それを支えに体を浮かせると反動を使って前に跳んだのだから大いに感心する。
そこから落下の勢いも乗せて思い切り叩き下ろしてきたのを躱すと地面に突き刺さった刃を支点に再び棒高跳びの要領で跳んで追撃を放つ。
両脚を失っているからこその低空戦術に思わず『天族』の血が騒ぎかけたがこれはあくまで採用試験なのだ。

「面白い。でもこうすれば・・・どうなるの?」

しかし興味の尽きなかったアルヴィーヌは試しに大槍を掴んでみるとフランセルも掴んでいた手の位置を穂先に向けて体ごと滑らせてくる。そして膝蹴りを放ってきたのだから嬉しくて仕方がない。
資質だけではない。恐らく相当な鍛錬を積んでこの術を身に着けたのだろう。それがわかれば試験は終了だ。
「うん。わかった。それじゃ今日からよろしくね。フランシスカ。」
とても興味深い人物を雇う事に成功したアルヴィーヌは改めて握手を交わし、アサドとも仲良くするよう伝えるとその日は牧草地でささやかな歓迎の宴が開かれる。

「おいおい?!フランシスカとアルヴィーヌの戦いくらいは見せてくれてもよかったんじゃないのか?!」

それからしばらくしてやかましい男とオンプが帰ってくるとこれ見よがしに溜息をついて見せた事でその日は幕を閉じたのだが翌日からのフランシスカの働きはアサドも唸り声を放つ程勤勉なものだった。
「両脚を失って尚生きようとするだけでも大したものだというのに。人間というのは本当に考えさせられるな。」
「そんな大したことではないですよ。死ぬのが怖くて生にしがみついてるだけです。」
家族を大切にしていた父親の影響もあるのだろう。義足の方が軋む程甲斐甲斐しく黒い竜達の御世話をしてくれるので彼らもいち早く打ち解けていくがやはりハジャルだけは中々心を開こうとしない。
「むぅ。まさかあんなにも引っ込み思案だったなんて。まるで昔の私みたい。」
「「えっ?!」」
自身の過去を知らないので無理も無いのだがそれにしても驚き過ぎではないだろうか?皆で海産物の食べ放題に向かう途中、すっかり竜の背にも慣れてきたフランシスカが獅子族に負けない大きな声を出したのだから黒い竜達も面白がってぴぃぴぃと鳴く。

「・・・・・失礼な人達。でもわからなくもないから今度私の話も聞かせてあげる。」

とは言ってみたものの自分の過去などほとんど話した事が無いアルヴィーヌはその機会をはぐらかしつつ、ハジャルとフランシスカが少しずつ距離を縮めていくのを嬉しそうに眺めていた。

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