闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破格の歩む道は-⑨

 「ふむ。それは有事や任務の時にはフランシスカが『アデルハイド』から飛び立つ、と捉えて良いのかな?」
「うん。それでいい。帰ってくる時も『アデルハイド』ね。そうじゃないと皆が心配するから。」
その内容だとフランシスカがほぼ『アデルハイド』の人間みたいになりそうだがネクトニウスは気にも留めていない。考えてみれば『トリスト』で『剣撃士団』を率いているカズキが『ネ=ウィン』の4将を兼任しているのだから些細な問題なのだろう。
「い、いや・・・フランシスカが『ネ=ウィン』を離れると、なぁ?」
「・・・・・お前のいらない提案が悪いんだぞ?どうしてくれるんだ?」
むしろ提案してきた本人が一番戸惑っていたのはとても面白い。あまり見せた事のない焦る姿をくすくすと笑いながら眺めていると皇太子も口を挟む。

「・・・いいのではないでしょうか?黒い竜を乗りこなせればフランシスカの強さに磨きがかかる事は疑いようもありません。」

「ナ、ナイル様。お言葉ですが今の『ネ=ウィン』は大きな転換期を迎えております。そこを離れるというのはどうにも・・・」

最終的には当事者も不安から言葉を濁している。祖国を離れたくないという気持ちはわかるが、だったらこちらも話を切り上げるだけだ。
「じゃあこの話はおしまいで。」
「待て待て!!おいフランシスカ!!この好機を逃がすとお前マジで4将の足手纏いになるぞ?!」
「こ、こいつっ?!言ってくれるじゃねぇか?!」
「2人とも落ち着け。アルヴィーヌ様、このお話、少しだけ考えるお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「いいよ。あ、でもフランシスカだっけ?動物に優しく出来る?あの子達繊細だから乱暴な人はお断りだよ?」
結局最後はクンシェオルトが話をまとめるとフランシスカという青年は目を丸くしながら頷いていたが翌日には覚悟を決めたのか、旅支度を済ませて一緒についてくる事となった。



そして帰国当日には別の問題も発生する。それが彼の妹であるフランセルからのお話だ。
「アルヴィーヌ様、この度はお時間を取って頂き深く感謝いたします。」
「そんなに硬くならなくていいよ。ところでお話って何?」
彼女との接点など何もなく、2人だけでの話となれば兄であるフランシスカの事しか思い当たらなかったのだがその内容は刺激的で興味深いものだった。

「あの、実は私、カズキにどうしても勝ちたくて。そこで圧倒していたアルヴィーヌ様に何かしら彼を負かす方法、彼の弱点といいますか隙みたいなものがあれば教えて頂きたくお願いに上がりました。」

「ほほう?それはとっても面白い提案。あなたもカズキが邪魔で仕方ないの?」
「い、いえ。邪魔、という程ではないのですが一度鼻を明かしてやりたいとは考えているのです。生意気ですし・・・」
あまりにも愉快な内容につい質問を重ねていくとどうやら年上である彼女を敬う姿勢が全く見られないのが気に入らないらしい。しかし話せば話す程アルヴィーヌにも不思議な疑問が重なっていったので今度はそれを尋ねてみる。
「ふーん。でもあなた、カズキの事結構好きだよね?」
「えっ?!そ、そんな事はありません、よ?」
「そう?何か話してるととても楽しそうだし。」
するとフランセルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。よくわからないがこういう仕草や様子は好きな相手にしかしないのではないだろうか?
ますます不思議に思って小首を傾げていると彼女は今更周囲を窺ってから顔を近づけて来ると小声で告白する。

「あの、内緒ですよ?」

やっぱりそうなのか。フランセルは未だ自分が知り得ない気持ちを抱いているのだ。それが少しだけ羨ましかったアルヴィーヌは微笑みながら頷くも自身も早く妻としてその感情を手に入れたいと僅かに焦りを覚えるのだった。

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