闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破格の歩む道は-⑤

 ばしんっ!!

躱してもよかったがその威力を知りたくて、かといって貰うのは面白くなかった為あえて左手で受けると手の甲にまで振動が伝わってくる。
「・・・凄いね。ここまで強くなってるなんて。」
「・・・そんな涼し気な表情で言われてもなぁ・・・」
本心から感心しているのに彼が猜疑を抱いたのは表面に出にくいからだろう。多少の言葉を交わした後カズキはそのまま近距離での攻撃を繰り出すとこちらも様子を見ながら反撃を交える。
純粋な力勝負なら分はありそうだが技巧を凝らした手足の使い方にはアルヴィーヌも舌を巻く程だ。
(・・・なるほど。ヴァッツはこれを真似したいのかな。)
殴るにしても蹴るにしても必ず地面を支点として放つ事で身体能力の全てを乗せているからより強い攻撃を放てているのだろう。
では空を飛ぶ者はどうすべきか。普段考えた事のない疑問が浮かんだアルヴィーヌは一方的に放たれていた攻撃から間合いを外すように一瞬だけ低く飛ぶとそこから一瞬で翼を顕現させた後、蹴りを放つと同時に思い切り羽ばたいた。

ぶふぉぉんっ!!!

つまり大地を掴む代わりになるかと試してみたのだが試みは思いの外当たっていたらしい。
自分の後方にいた見物人達が突風で飛ばされる中、カズキの方は攻撃の圧によって若干体勢を崩しつつこちらの攻撃を躱すも怯む様子は見られない。
むしろ負けじと地上から思い切り上空に蹴り足を返してきたので今度はこちらの体が若干傾いた。
面白い。面白いじゃないか。
『天族』ということもあるのだろう。闘争本能がますます刺激されていく中、カズキだけはしっかりと地に足をつけて、アルヴィーヌは若干体を浮かせた状態で攻防を続けていると一瞬で真横に姿を現したヴァッツが2人の手首を掴んで稽古を止めに入ってきた。

「はいそこまで!!」

「え~面白い所だったのに~」
「おお?!そうだよな?!いや~アルヴィーヌにも戦う楽しさが伝わってたか!!てなわけでもう少し続けさせてくれよ?!な?!」
「だめだめ!!もう周りが滅茶苦茶になってるんだよ?!よく見て?!」
指摘されてから周囲を確認すると広い訓練場の中央で戦っていたにも拘らず、周囲にいた見物人達は暴風と衝撃から逃れるように物陰へと潜んでしまっている。
だが彼らは勝手に集まってきただけであり自分達の稽古には全く関係ない筈だ。
「カズキ、あなたの任務はヴァッツ様との稽古でしょ?だったらここまでにしておきなさい。」
「・・・それもそうか。よし!!じゃあ次はお前とだ!!いいよな?!」
しかしフランセルが呆れながら諭してくるとカズキの方はよりやる気に満ち溢れてしまったらしい。
やっぱり彼と関わるのは控えた方が良いだろう。呆れ直したアルヴィーヌは悟られないよう訓練場の外に出ると今度こそ目的である彼らの稽古が始まるのだった。

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