闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破格の歩む道は-②

 ヴァッツが普通でない事など出会った時からわかっていたのに今更何を悩んでいるのか、というのが率直な意見だ。

「ほらほら、お食事も一緒だよ。」
しかし良妻というのは夫によく尽くすという話を聞いていたのでアルヴィーヌはその日以降、アサドに断りを入れて黒い竜達の御世話する時間を少しだけ削る。
代わりになるべくヴァッツの傍にいるようにしてみたのだのだが彼は自分以上に自身の広大な世界観を持っている。
なので相変わらずふさぎ込んでいるというか、一人で何か悩んでいるようなので時折それを打ち明けてもらえないかと声をかけるも弱弱しい笑顔を向けて来るだけだ。

「・・・私達が御力になれないのでしたらせめて頼りになるご友人達にお伝えする事は出来ないでしょうか?」

時雨も見かねたのだろう。ある日の朝食の最中にそのような話を持ち出すと久しぶりにヴァッツが反応を示したのでアルヴィーヌの機嫌が僅かに悪くなる。
「む?友達には話せても私には話せないの?」
「こらこらアル、ヴァッツ様にはヴァッツ様の御考えがあるんだよ。そんな言い方をするんじゃない。」
「・・・・・そうだね。うん、ちょっとカズキに話してみようかな?」
「あら?クレイスとかじゃないんだ?」
よりによって出てきた名前があの戦闘狂とは。彼が苦手だったアルヴィーヌはますます機嫌を損ねていくがどうやら自身の感情は伝わりにくいらしい。
「カズキに何を頼るの?」
「ちょっと戦い方を教わろうかと思ってさ。」
「「「えっ?!」」」
不機嫌さを隠さずに質問を重ねるとやっと納得の行く答えが返ってきたので彼女だけは静かに溜飲を下げたのだが逆に他の3人は目を丸くして驚愕していた。
何故だ?恐らく彼は本当に戦おうと決意したのだろう。破格の力を適当に行使しているだけでは乗り越えられないと考えたからこその結論に何を驚いているのだ?
「・・・まぁあいつは小躍りする程喜びそうだけど大丈夫?あなたって他の人と比べものにならないくらい力持ちよ?加減出来る?」
「うん。教わる時はカズキと同じ力量で学ぼうと思ってる。」
「でしたら問題はないかと。今、カズキ様は『ネ=ウィン』で任務を遂行中のはず。日取りはどうしましょう?」
「もちろんこれを食べ終わったら行くよ!!」
突然の立案と実行は今に始まった事ではないし、何より自身もそんな感じで動く為咎めるといった発想すらない。
ただ退屈なプレオスが『王族が行動する時は事前に約束を取り付けたり護衛をつける』のが基本といったような話をしていた記憶もあるようなないような。

「それじゃ皆でマホリーに乗っていこう。」

しかし考えるのが苦手なアルヴィーヌは早々に諦めて自身が御世話する最も大きな竜の名を出すとヴァッツが久しぶりに目を輝かせて喜んでいたのだからこれこそが最善策なのは疑いようがない。
「アル、あたし達も一緒みたいな流れになってるけど大人数で押しかけるのは迷惑にならないか?」
「じゃリリーはお留守番で。」
「ま、待て待て!行かないとは言ってないだろ?!」
だったら余計な事を言わなければいいのに。慌てるリリーにジト目を向けたアルヴィーヌがおかしかったのだろう。周囲から明るい笑い声がこだました後、クンシェオルトが加わると6人はレドラに見送られて早速『トリスト』を経つのだった。

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