闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -破格の歩む道は-①

 『リングストン』の崩壊と前王崩御は小躍りしたい程の僥倖だった。これにより弱体化に従属まで進められるとなればもはやクレイスの覇道に障害など無きに等しい。
にも拘らず帰国したヴァッツの様子が目に見えておかしかったので喜びなど一瞬で霧散したショウは友人や伴侶になるべき少女達とただただ顔を見合わせるしかなかった。
「確かにルバトゥールの件は悲しいけど元気出しなさいよ?あなたらしくないわよ?」
「・・・・・」
そんな中でも彼との距離が絶妙なハルカが優しく慰めるとヴァッツは力ない笑顔を返しながら不意に椅子から立ち上がり手招きをしてみせる。
「アルヴィーヌ。」
それからアルヴィーヌも呼んでどうするのかと思えば2人を優しく抱きしめたので周囲は目を丸くして言葉を失った。だが彼が見せた事のない行動には必ず大きな意味があるのは誰もが理解していた。

「2人とも二度と無茶はしないで。何かあればオレを呼んで。必ず、どこからでも駆けつけるから。わかった?」

「・・・約束はしかねるわね。」
「ハルカ!」
姉さん女房という言葉は彼女の為に存在するのだろう。リリーが堪らず口を挟んでくると悪戯に舌を出して胡麻化していたがアルヴィーヌでさえも感じる部分はあるらしい。
「ヴァッツ。何をそんなに怯えているの?」
しかしあまりにも意外過ぎる問いかけに周囲も驚愕が止まらない。
怯える?あのヴァッツが?ショウだけではない。友人達もその言葉に目が零れ落ちそうな程唖然としていたがヴァッツは無言を貫いたままだ。
どうする?どうすればいい?最も頼りになる友の初めて見せる姿を前に答えを探してみるが存在しえない引き出しを開けるのは不可能なのだ。

「・・・一度お休みになられてください。今ヴァッツ様に必要なのは休息です。」

故に最後は人生の大先輩でもあるレドラが最適解を導き出すとその場は収まったのだが妙に悔しくて仕方のなかったショウは退室後、次は必ず自身が声をかけられるよう様々な書物を怒涛の勢いで読み漁るのだった。







古来よりいきなり夫婦となる例は少なくない。それが王族なら猶更だ。

未だに恋すら知らないアルヴィーヌは甥っ子であり夫になるであろうヴァッツが随分と弱気になっているのを黙って見過ごす訳にもいかず、レドラの休息という言葉から寝かせつけるのだと受け取る。
「ほらおいで。」
それなら自分も十分手伝えるだろう。昔から泣き虫だった妹をよくこうやって宥めていたのも懐かしい。
優しく抱きしめてくれていた腕をゆっくりほどいて彼を寝具の前まで引っ張っていくと同じように抱きしめられていたハルカが目を丸くしていたがこの際彼女の力も借りるべきだ。
優しさとは無縁の力技でまずはヴァッツの外套と上着を引っぺがすとレドラの視線も気にせず彼を寝具に放り込む。次にハルカを放り投げて最後は自分がぴょんっとヴァッツの隣に体を沈ませれば完成だ。
「アル・・・これは?」
「うん。こういう時は一緒に寝るのがいいの。」
今回は自分の経験を最大限に生かせる筈だ。2人が違った驚きを見せていたもののアルヴィーヌは頬杖をつくとまずはヴァッツの頭を優しく撫でる。

「色々あったから疲れてるのはわかる。辛かったのも・・・少しはわかる、かな?だからゆっくり休んで?」

「・・・・・ありがとう。」

そうしてすぐに彼が寝息を立て始めたのだから自身も満足感と安心感で気持ちが大きく緩んだのだろう。気が付くとそのまま彼の腕に頭を寄せていたアルヴィーヌはハルカが呆れた様子で見守っていたのも知らずに深い眠りへつくのだった。

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