闇を統べる者

吉岡我龍

闇の血族 -念願叶って-

 「クンシェオルトよ。羨ましいぞ。まさか蘇る事を許されるとはな・・・」

最側近として働き始めた初日の夜にナルサスが夢に出てきたのは心の何処かで申し訳ない気持ちがあったのかもしれない。
二日目以降は全く見る事もなくなると気持ちを切り替えていよいよ夢に見た配下としての活動を開始する。といっても基本的にはヴァッツに付き従って様々な場所へ赴くだけだ。
「もし反乱分子に気が付いた場合はご報告下さい。」
ただショウからは内密にそのような事を告げられたので少し驚いた。国王スラヴォフィルが御子を授かった事とクレイスが17歳の誕生日を迎えた時に王位に就く、もし不和が生まれるとすればここかと考えたが『トリスト』の国内事情はまだまだ詳しくない。
(スラヴォフィル様に絶対的な忠誠を誓っている人間か。もしくは・・・)
彼は『孤高』の1人として世界にその名は轟いており、『トリスト』建国時にも方々から様々な協力を得ていると聞く。その中に利権や利益を強く求めている者達がいるとすれば反目するのも考えられるだろう。
いずれにしても十分に警戒する必要がある。主はとても純粋なので騙されないように自分がしっかりと護らねば。

そうして最初に訪れたのは警戒とは全く無縁の黒い竜達が住む『アデルハイド』の牧草地だった。

「ようこそヴァッツ様、そしてクンシェオルト様。」
そこではこの国の智将プレオスが何故か身軽な格好といくつかの書物を持って出迎えてくれたので一先ず挨拶を交わすと彼らの御世話役である第一王女アルヴィーヌと噂の獅子族がこちらに興味津々といった様子でひょっこりと顔を覗かせてきた。
「さて!オレも少しは将軍らしくならないとね!今日も頑張るぞ!」
「ヴァッツは週に一回くらいだし楽。私なんてほぼ毎日プレオスの退屈なお話を聞かされる。ねぇクンシェオルト、あなたが彼を追い払ってくれない?」
「・・・それはお断り致します。」
この時初めてしっかりと言葉を交わしたのだが我儘の権化と揶揄される人物像に偽りはないらしい。メイとも仲良くなった話も聞いてはいたものの無遠慮は王族故か、生来の性格からか。
とにかく2人は彼から将軍や王女の基礎知識や立ち居振る舞い、周辺国の歴史に関係などを教わっているという。講義を草原や黒い竜に囲まれた場所で行うのは彼女の機嫌を出来る限り損ねない為の精一杯の譲歩なのだろう。
のんびりとした時間の中、彼らが悪戦苦闘しながらも学ぶ風景はまさに自分が描いていたものだ。

(・・・そうだ。メイやその子達にもこういう環境を残してやりたいのだ。)

やはり彼に付く判断は間違いではなかった。破格の力だけでなくその人柄にも惚れ込んでいたクンシェオルトは顔も気も緩みそうになるのを必死に堪えつつ、2人の受講を優しく見護り続けていた。





 4年間というのは人や環境を大きく変えるものに違いない。
「お久しぶりでございます。」
「お久しぶりです。レドラ様。」
だがレドラは既に80歳を超えており、ヴァッツという破格の主に仕える事でとても優しい雰囲気を纏うようにはなったものの根本は変わっていなかったらしい。
「クンシェオルト様、貴方は私の主でもあります。以前のように振舞って頂いて結構ですよ。」
「そういう訳にはいきません。そもそも貴方を執事として召し抱えられた時から私には分不相応だと感じていたのです。良い機会なので今後は未熟な若輩者として改めさせていただきます。」
お互いに譲れない気持ちがあるのだろう。妙な牽制合戦が火蓋を斬ると同じ従者であるハルカと時雨も物珍しそうな表情でその様子を眺めている。

「あんまり気にしないでいいと思うけどなぁ。それより今日はガゼルの所に行くよ!」

そんな空気を吹き飛ばしてくれるのは当然ヴァッツしかいない。彼がそう呼びかけると2人は速やかに準備を整え、部屋の露台からすぐ外に出るとそこにはヴァッツ専用の黒い竜がのんびりとした動きと眠そうな表情で甘えた声を出してきた。
「それじゃレドラ、お留守番お願いね!」
「はい。いってらっしゃいませ。」
マホリーと名付けられた竜は既に鞍を装着しており、これに従者を含めて4人までが搭乗出来るようになっている。
空を飛ぶという経験に黒い竜の背中に乗るという2つの初体験はいつも冷静沈着なクンシェオルトでさえ踊る心を沈めるのに手こずるかと思ったが、ヴァッツやハルカの嬉しそうな様子を見ているとそれも自然と落ち着いていく。

「でもこの子飛ぶのも遅いんでしょ?だったら時雨くらいは自分で飛んだ方がいいんじゃないの?」

そうして大空に羽ばたいた一行は一路西に向かって飛び立ったのだがハルカが意外な事を口走ったので少し驚いた。どうやら時雨も長い間『トリスト』で生活していたのと元王女姉妹の御世話役という事で飛空の術式を会得しているらしい。
「それは前から言っているでしょう?私は空を飛ぶのが苦手なのです。」
「どれくらい苦手なの?」
そこにヴァッツも興味があったのか、素直に尋ねると何故か彼女は頬を赤らめて俯いてしまう。
「・・・ヴァッツ様、今回の『ボラムス』訪問について目的を教えて頂いても?」
なのでクンシェオルトが話を逸らそうとしたのだがすっかり険の取れたハルカがからかう様に攻め立てていたのとヴァッツには答えねばならないという使命感からゆっくり口を開いた。

「・・・私の飛空速度は歩くのより遅い、です。」

「・・・・・あとで見せてよ?」
「嫌ですよ!!」
「でも飛べるだけ凄いよ?オレには絶対無理だもん!」
確かに主の言う通りだ。クンシェオルトも深く頷いて同意を示すのだが彼女にとっては恥部という側面が強いのか、より顔を赤くしながら決して広くない鞍上でからかってくるハルカに襲い掛かっていた。





 「あらヴァッツちゃん。いらっしゃい~。」

空路というのはこんなにも便利なのか。あっという間に『ボラムス』へ到着した一行は中庭に着地すると同時に何故か他国の女王から歓待を受けたので驚いた。
「あれ?アンってまだ『ボラムス』にいたの?」
「ええ。だって帰ってもモレスト達に気を遣わせちゃうだけだし。彼らは今とても成長してるからね。だったらここでのんびり羽でも伸ばそうかなって。」
「あのなぁ・・・・・ま、俺も傀儡王だからあんまり強くは言えねぇけど『ボラムス』を駆け込み寺みたいに扱うのはどうかと思うぜ?」
それから呆れた様子でガゼルが姿を見せるとヴァッツも当然のように抱き合って挨拶を交わす。どうやら彼は亡くした自身の息子と重ね合わせているらしい。

この世には生と死が溢れている。

皆はその常識の中で生きているというのに自分だけがこんな厚遇を許されて良いのだろうか。ふと散っていった者達の事を考えるとクンシェオルトの脳裏には後ろめたさと不安が過った。
ヴァッツの言動から彼とは無関係なのは明白だ。では誰だ?誰が何の為に自分達を蘇らせたのだ?
彼の恩情に甘えてばかりではいけない。こんな事を出来る者は相当な曲者なのだから。ふとナルサスが夢に現れた事も思い出すとクンシェオルトは『トリスト』の問題だけでなく自身に起こった不可解な出来事についても調べていくべきだと心に誓う。

「ところでガゼルよ。今『トリスト』では反乱分子を粛清する為に情報を集めている。何か知らないか?」

故に少し焦りが漏れてしまったのだろう。部屋に通された後、主を置き去りにしてすぐに尋ね始めてしまうとヴァッツから送られてくるぽかんとした視線に気が付いて慌てて取り消したのだが色々と遅かったらしい。
「クンシェオルト様、こいつは傀儡よ?何か知ってるとは思えないわ。」
ハルカもやや呆れた様子で話を終わらせようと動いてくれたのだが続いて期待していなかった答えが飛び出してくると驚くしかない。
「ああ、知ってるぜ。てかそれは俺の事だな。」
「・・・・・ほぅ?」
これには他の面々も意外過ぎたのか。誰一人声を上げる事が出来なかったので辛うじてクンシェオルトだけが呟くような反応を見せるとガゼルは少し考えこんだ後話を続ける。
「といっても反乱なんて大袈裟なつもりはなかったんだけどな。そうか、中央がそう判断してるのなら俺の命も危ういな。がっはっは。」
「えぇぇ?!笑い事じゃないでしょ?!ガゼル、何考えてるの?!」
これには珍しく僅かな怒りと焦りを見せながらヴァッツが問い詰めると彼は雰囲気を崩さず軽い調子で説明を始めた。

「いや、まぁ単純にクレイスは『アデルハイド』の国王でいいだろって話だよ。スラヴォフィルには跡取りも生まれる予定なんだ。だったら『トリスト』は後世に余計な火種を残さない方がいい。違うか?」

傀儡とは程遠い至極真っ当な主張に思わず頷いてしまったが確かに王族や国といった柵はとにかく面倒事になりやすい。ガゼルはそれを理解した上でクレイスの王位継承に否を唱えているという。
「・・・・・何か怪しいわね。あなた誰かに入れ知恵されてない?」
「おいおい。俺は傀儡王だぜ?むしろ入れ知恵しかねぇよ。」
ハルカも理屈には納得していたもののガゼルの能力では行きつかないと考えたのだろう。鎌をかけてみても清々しい受け答えを前に目が点といった様子だ。
「それでクレイス様に圧力でもかけるおつもりですか?言っておきますが彼自身の力はもちろん、周囲も相当な猛者が揃っていますので強引な手段では難しいかと・・・」
「何でそんな物騒な話になるんだよ。俺はただ『アデルハイド』に戻れって言ってるだけだ。なぁヴァッツ?」
「え?う、ぅん。そうだね・・・ねぇクンシェオルト、難しすぎてよくわからないんだけど詳しく教えてもらえない?」
続いて時雨も諫める意味で口を挟みだしたのだが彼はもっと単純に事態を収束したいと考えているらしい。というか彼女の言い方だとクレイスもかなり成長しているのが窺える。
それさえも嬉しく感じたクンシェオルトはこの後2人だけのやり取りをしばし続けると彼もプレオスから教えてもらっていた下地があるお陰ですんなり理解してくれたのだが今一つ納得はいかない様子で小首を傾げていた。





 ガゼルが傀儡王だという情報は事前に把握していたし納得も行く。だからクンシェオルトは彼との話が終わるとヴァッツに断りを入れてすぐに副王であるファイケルヴィとの面談を執り行ったのだ。
「お忙しいところを申し訳ございません。」
「いえいえ、私でよろしければ何でもお答え致しますよ。」
以前出会った時は今の倍以上に膨れた体だったはずだが『トリスト』に降ってからは過酷な業務のせいか随分と痩せたらしい。敵対していないのもあるのだろう。物腰も柔らかく、故に思考や感情は鋭いものへと変化しているようだ。
「実は今『トリスト』の反乱分子について調べております。もし何かご存じでしたら教えて頂けますか?」
「ほう?生き返って間もないというのに随分とご熱心ですな。やはりヴァッツ様へ仕えるというのはそれほどまで意欲を湧き立たせる、という事でしょうか?」
「はい。私は彼が護る国とその行く末を見届けねばなりませんので。」
多少の皮肉がこもっているのだろうがそんなものに構っている暇はない。正直ヴァッツの力を振りかざせばそれこそ破格の力で周囲をねじ伏せる事は容易だろう。

だがクレイスもそのような方法で『トリスト』を受け継ぐ事は望んでいない筈だ。

スラヴォフィル自らが王位継承者として指名している以上、他は手腕で解決していく必要がある。それこそ次期国王としての資質を試されているといっても過言では・・・

「・・・ファイケルヴィ様もクレイス様の王位継承は反対ですか?」
「はい。当然です。」
推測だが一種の答えに辿り着いたクンシェオルトはそれを面に出すことなく、だが質問の内容に焦点を当ててみると思った通りの答えが返ってきたので大いに納得した。
「その理由をお聞きしても?」
「はい。『トリスト』は『孤高』の1人である『羅刹』スラヴォフィル様が建国された国、更に今では若く美しい王妃も娶られ御子まで授かったのですからむしろ他人を選ぶ理由がございません。」
ガゼルとは違って詳細を告げられると非常にわかりやすい。これにはクンシェオルトも思わず頷くがここで引き下がる訳にはいかないのだ。
「では単刀直入にお尋ねします。クレイス様が次期国王になる為に必要なのは何でしょう?」
「私如きでは返答しかねますな。彼もれっきとした王族であり更に第二王女のイルフォシア様とはとても懇意にされている。そう考えると血筋・・・スラヴォフィル様の直系であればと思わずにはいられません。」
それを言い出したら王女姉妹もヴァッツも血は繋がっていないのだから無理がある。しかしそれほど血筋というのは重要なのだ。
恐らく反対勢力のほとんどがそう考えているのだろう。だからクレイスがイルフォシアと結ばれたとしても正統後継者はじきに生まれる御子という話になる訳だ。
「ふむ。よくわかりました。ありがとうございます。」

荒波を立てないという意味ではクレイスがイルフォシアを連れて『アデルハイド』の国王になるのもいいかもしれない。そしてヴァッツがそこで大将軍として働く。

ただそれだと最終的には『トリスト』と『アデルハイド』に大きな溝が生まれてしまう。スラヴォフィルの御子が必ずしも大器を備えているとは限らないのだ。
もちろんクレイスやヴァッツが目に見えて敵対行動を取るとは思えないが世代が交代しても関係が成立、継続するのか。クンシェオルトにとってはそこが最も重要なのだ。
ショウが目指す覇を唱える王と国については知らされていなかったものの、奇しくも同じような思想を抱いていた彼は念の為と将軍ワミールにも確認を取ってみるとやはり話は似た場所で着地してしまうのだった。





 あれから『トリスト』に戻ったクンシェオルトは城内でも情報を集めるとほとんどが同じ理由からクレイスの王位継承については反対のようだった。
となるとむしろ反乱分子はショウや自分達のような気もしなくないが彼を次期国王にと宣言したのは他でもないスラヴォフィルなのだ。
(・・・・・難しいな。)
『ネ=ウィン』にいた頃は武を振るう事こそが唯一の仕事だった為複雑な事情など踏み潰せていたがここではそうはいかない。ヴァッツも暴力的な行動は好まないので内容も限られてくる。
ガゼルの言う様にクレイスを『アデルハイド』へ返す事が最も平和で穏便に解決出来るのならそれがいいのか?
一人で静かに悩んでいると周囲の反応を機敏に感じ取れるハルカがヴァッツに何やら耳打ちをした事で今日は国王スラヴォフィルの下へ向かう事となった。

「おお、クンシェオルトよ。よく来てくれた。いや、すまんな。何分妻を娶るのも子を授かるのも初めてなものでな。」

王妃の傍を片時も離れないという話は聞いていたが大いなる父性と優しさから父になる準備は万端のようだ。
「こちらこそ、恥ずかしながらも再びこの世に舞い戻ってきてしまいました。これからはヴァッツ様に全てを捧げる覚悟です。」
「そうかそうか。ならばヴァッツも安心じゃな。ところで随分と沢山連れてきたようじゃが、何かあったのか?」
今回はかなり気を使わせてしまったらしい。従者だけでなくアルヴィーヌやリリーといった花嫁候補も全員が揃っていたのでスラヴォフィルも驚いて尋ねると何故かハルカが代表して口を開く。
「スラヴォフィル様、今国内外ではクレイスを『アデルハイド』国王に据えて『トリスト』の後継者は新しく生まれて来る御子様にという話で持ちきりです。そこはどうお考えですか?」
肝の座った所は流石『暗闇夜天』の元頭領だ。淀みなくすらすらとクンシェオルトが対面している問題を提起すると彼は非常に驚いた後、少し離れた場所に座るセヴァと顔を見合わせる。
「・・・何と、そんな事になっているとは。時折情勢の報告は受けていたがそのような話は聞いたことが無い。しかし事実なのじゃな?」
「はい。」
アルヴィーヌだけはよくわかっていないのか、きょとんとした様子だったがリリーも何となく察していたらしく俯き気味に悲痛な表情を浮かべている。
「ふ~む・・・・・これは当然ショウやザラールも知る所じゃろう?なのに上げてこなかったとは・・・ふ~む。」
「スラヴォフィル様、ここは少し様子を見られては如何ですか?」
そこに王妃が声をかけると悩む国王は意外そうな様子で振り向く。
「何故じゃ?今ヴァッツ達がワシに話を持ち掛けてきたのは状況が相当悪化しておるからじゃろ?ここで更に様子を見てしまえば余計な期待や不満が膨らみかねんぞ?」

「ええ、ですからこの状況を見事に打破するようクレイス様に動いてもらうのです。そうすれば皆が彼を国王として認めざるを得ないでしょう。」

「そもそもスラヴォフィル様自らがクレイスを次期国王にと仰っているのだからそれに否を唱えるなんて反逆罪ですよ。よければ私達が処しましょうか?」

私達とは自分も含まれているのだろうか?4年経っても変わらないハルカの過激な言動には少し肝を冷やしたがそれはスラヴォフィルも大いに理解しているようだ。
「がっはっは。中々に頼もしいな。しかしまだ公言した訳ではなかったはずじゃが口に戸は立てられぬという事か。いいじゃろう。クレイスにはワシから伝えておく。お前達も奴の力になってやってくれ。」
処する部分は却下と釘を刺された所以外は穏便な話し合いで解決したものの、17歳を迎えるまでに大多数の人間を納得させる程の動きを見せねばならないというのは相当難しい。
(・・・ショウ様ならあるいは・・・)
彼ならば劇的な方法も持ち合わせているのかもしれないがそこはしっかり精査しないと過激すぎる可能性もある。後はクレイスが本当に『トリスト』の後継者に足り得る存在なのか。
これも自らの目で確かめねば。そう新たな指針を打ち出したクンシェオルトは生きているという実感を胸に高揚する気持ちを何とか抑えていたのだがその夜、寝具で目を瞑っていたにも拘らず眼前が眩い光に包まれたのだから驚いて飛び起きた。


「やぁクンシェオルト。体の調子はどうだい?」


「・・・悪くはない。貴様か、私を蘇らせたのは。」
周囲は真っ白な空間で自身の部屋かさえもわからない状態だが少なくとも会話や体の自由は与えられているらしい。ただ足元は覚束ず、上下さえわからない浮遊感に戸惑いながら警戒していると声の主は気にしない様子で会話を始める。


「ああ、そうだ。折角矮小な空間に足を運んだのだから色々と試しておきたくてね。」


「何故だ?何故こんなことをした?そのせいでヴァッツ様は随分と苦しまれたのだぞ?」
再会はとても喜ばしかったがそれ以上に彼を悩ませた事が悔やまれて仕方のなかったクンシェオルトは様子を見る事もなく本題を突きつけると光から乾いた笑い声が届く。


「それもまた思惑通りだよ。しかし面白いな。未だに自我を保てているとは。本来であれば闇から得る膨大な知識ですぐ気が付くと思ったのだが。」


「・・・何の話だ?」


「いずれわかるさ。その時にまた楽しませてもらうよ。」


「待てっ!!!」
無手ではあったものの何としてでもここで仕留めねばと判断したクンシェオルトは『闇の血族』の力を全開放して前に跳ぼうとしたがやはり光に包まれた空間には蹴る事が出来る地面はない。
故に命を無駄に削ってしまった事実に慌てて力と怒りを収束した時、己の体に起こっていた別の異変に気が付いた彼はいつの間にか戻っていた自身の部屋の床に跪くと破格の存在である主の眠る方向へ心からの感謝を捧げるのだった。

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