闇を統べる者
興亡 -私の空-
力の加減を怠り妹に大怪我を負わせたのも昔の話だ。
それからしばらくは人見知りで億劫な側面を見せてきたアルヴィーヌだったが自分よりも遥かに強い力を持つ甥っ子兼未来の亭主が現れて以降生来の性格がみるみる顔を覗かせ始めえう。
そして今、彼女は別世界から連れ帰ってきた黒い竜達のお世話をしたくて『アデルハイド』の牧草地に陣取ったのだ。
「姉さん!!流石に今回ばかりは看過出来ません!!ヴァッツ様やクレイス様の為に諦めてください!!」
「嫌。だってこの子達も私に懐いてる。ね?」
良く出来た妹が翼を顕現させてまで全力で説得してくるがこちらも彼らをとても気に入っているので引くわけにはいかない。
それに今回は国務に携わってこなかった負い目を払拭するという大きな目的もある。周りからは自由奔放の我儘放題に見えるアルヴィーヌだが決して責任感がないわけではないのだ。
だから唯一彼らのお世話くらいなら貢献出来るだろうと、貢献したいと思ったのに何故わかってくれないのか。
「アルヴィーヌ様、黒い竜達は今後僕達のとても大切な仲間となるのです。ですからその、愛玩動物的な扱いから離れて頂けませんか?」
「???」
妹の伴侶となる予定のクレイスも冷静に諭してくるが意味が全く分からない。戦いに駆り出そうという訳でもないのだから可愛がる以外にどう接すればいいのだ?
「お~やってますね。」
そこにいつも澄ました様子の左宰相がヴァッツと共に現れたのでこちらも警戒を強める。彼は口先だけの印象がとても強く、それを開けばあっという間に舌先三寸で言いくるめられてしまう。
なので今度はこちらも翼を顕現させると大いに威嚇姿勢を取ったのだが甥っ子だけは畏怖というより解決策が見出せなくてただおろおろとしている。
「さて、出来れば手を引いて頂きたいとお願いしたいところですがアルヴィーヌ様も強いお気持ちがおありのようです。そこで数頭だけ『トリスト』の王城で飼うというのはいかがでしょう?」
「「えっ?!」」
妹夫婦が驚愕の声を漏らした所を見るにその提案は彼の独断かそれに近いものなのだろう。
あまりにも好条件が過ぎてこちらの心も大いに揺れ動いたが黒い竜達の食料を運ぶにしても相当な労力が必要だと聞いていた。力仕事であればかなり貢献出来る筈なのだ。
であれば数頭よりも全部の面倒を一気に受け持った方がいい。
「・・・・・駄目。この子達は私が・・・面倒を見る!!」
するとその気持ちを誰よりも汲み取ってくれたのか、黒い竜達もまるで呼応するかのように翼を広げて反抗態勢を取ってくれたのだから嬉しくて怒りと喜びが胸の中を飛び回った。
「ほほう。流石は我儘の権化と呼ばれるだけの事はあるな。ハルカもお前には適うまい。」
ところがこれ程意思の疎通を見せつけたにも関わらずまだ説得は終わりを見せない。むしろハルカの祖父が姿を現した事でアルヴィーヌには若干の遠慮が生まれてしまうのだった。
「・・・ハルカのおじいちゃまに言われても私は諦めない。」
純粋な強さで負ける気はしないものの義父に似ている雰囲気に飲みこまれそうだったので無理矢理強がるとそれも見透かされているようだ。
「がっはっは。わしは部外者なのでな。別に説得するつもりはない。ただアルヴィーヌよ、お前はもう少し自分の気持ちを言葉に表した方が良いぞ。」
と言われても人との関わりを避けて生きてきた彼女にはなかなか難しい。促されるままに口を開こうとしたがそれも一瞬で閉じてしまった。
「・・・なるほど。でしたら明確に、公平に御世話役を決めてしまいましょう。」
そこにまたしても油断ならない青年からの提案があると心は最大限の警戒態勢をとる。
「どうするつもり?」
「そうですね。今から候補者全員に呼び掛けて貰ってその声に呼応した黒い竜はその者が担当する、というのはいかがでしょう?」
だが思った以上に面白い提案だったのでアルヴィーヌも翼を引っ込めて頷いた。自身の感情に呼応して皆が反抗態勢を取ったのは先程確認している。
であればそれくらいは朝飯前、全員がこちらに寄ってきてこの話は幕を下ろすだろう。
ショウがヴァッツに何やら耳打ちしたのだけは気になったものの早速牧草地の中央に黒い竜を集めた後、各方向に御世話役候補が同じ距離を取って立つと穏やかな戦いが火蓋を切る。
「おいで。」
一番小柄なアルヴィーヌは念の為つま先で立ちながら両手も出来るだけ真上に伸ばして手招きするとやはり思った通り、彼らは喜んでこちらに飛んできた。
これで御世話役は自分のものだ。
確信するのに時間はかからなかったがそこに意外な人物が立ちはだかる。
「サリール!おいで!」
何とクレイスが名前を呼ぶと群れの中で一番子供の竜が喜んで彼の方に飛んで行ったのだ。続いて他にも小柄の竜が3頭ほどそちらに向かうと親竜もつられて集まってしまう。
「あ。ずるい。」
まだ名前の付けられた個体は少なかった為予想外の行動につい不満を漏らしたが勝負の行方はまだわからない筈だ。
「オンプ。来るんだ。」
むしろいつの間に姿を見せたのか、カズキまでも対面から静かに声をかけるとサリールの傍にいた親竜が長い首をそちらに向けて飛び去ったので混戦の様相を示す。
一応自分の元に半分は留まっているものの納得のいかない結果に不満を感じた時、戦況は更に大きな変化を見せた。
「がるるるるっ!!!」
それは猫科特有の唸り声であり声と呼べるものではなかったがそれを聞いた黒い竜達は一斉にそちらを向くと有無も言わさず集まっていったのだ。
「おお。まさか俺達の合図が通じるとは。」
「あ、アサドだ。」
どうやら御世話役の候補には彼も挙がっていたらしい。最も意外な人物が黒い竜全てを呼び寄せるとショウも満面の笑みを浮かべて終わりを告げたのだが納得のいかないアルヴィーヌはここからどうすべきかを思案し始めるのだった。
「おいおいおい。まさか『獅子族』に任せるつもりか?」
これもまた誰にも知らされていなかったのだろう。カズキも呆れた様子で尋ねるとショウも腹の立つ笑顔ではきはきと答える。
「はい。といってもこの人選はロラン様のものです。黒い竜には言語能力がありませんからね。なのでそれが無くとも意思疎通出来そうな者が最も相応しいのではないかと。」
なるほど。リリー達の兄が関与しているとわかって溜飲を下げるがやっぱり悔しいし寂しい。そんな気持ちを汲み取ってくれるのはやはりヴァッツしかいないのだろう。
「ね、ねぇショウ。何とかアルヴィーヌにも御世話役っていうのを任せてあげられないかな?」
その発言にはアルヴィーヌを含む全員が目を丸くしていたが一番に同意してくれたのもまた意外な人物だ。
「・・・そうですね。確かに彼らを護るという意味でもアルヴィーヌ様の御力は頼りになりますし。」
あれ程反対していた、正確には妥協案を提示していたショウがいち早く彼の意見に耳を傾けてくれると否が応でも期待してしまう。つい胸の前に両手こぶしを作って目を輝かせてしまう。
「・・・・・まぁアルヴィーヌは城内にいなくてもあんま関係ないしな。補佐的な意味で任せてみてもいいんじゃねぇか?」
本来であれば言い逃れが出来ない程の不敬罪だが彼女がそんな些細な事を気にするはずもない。むしろカズキの後押しに深く何度も頷くがこういう時、最後まで障害となって立ちふさがるのは大抵身内と相場が決まっているのだ。
「カズキ様、それはあまりにも不敬です。それにこれからは姉さんにも国務に携わって頂く機会が増える筈。その為にもまずは礼儀作法から学ぶ時間を・・・」
「それは確かキシリングが受け持っていた筈だ。であれば猶更アルヴィーヌはこの地に通って様々な事を学んだ方が良いのではないか?」
妹の正論に諦めかけた時、トウケンも助け舟らしいものを出してくれると嬉しくて思わず抱きしめる。
「流石ハルカのおじいちゃま。じゃあ決定という事で。」
「・・・姉さん。『様々な事を学ぶ』部分を忘れないようにして下さいね?」
やはり自分は我儘なのかもしれない。自覚のないアルヴィーヌはイルフォシアの譲歩案に軽く相槌を打ちながら早速ショウに仕事内容を確認すると餌の確保に人や亜人に慣れてもらう事、鞍を作りたいので寸法を取ったり生態の研究等々かなりの業務があるらしい。
「・・・わかった。確か魚が好きなんだよね?」
だが彼女の容量では自分の興味がある事にしか思考が働かないのだ。クレイスに確認するとすぐに飛び去ろうとしたが食事の量や時間もしっかり管理すべきだとすぐに引き留められたので残念な気持ちを惜しみなく表現した後アサドに黒い竜達との交流方法について根掘り葉掘り尋ねるのだった。
しかしやっと手に入れた御世話役の座というのは餌であり、自分はそれに何の疑いもなく食いついてしまったようだ。
「アルヴィーヌ様、今日は礼儀作法について学んで頂きます。」
教育係として送られてきたのは『アデルハイド』で最も有能な将軍プレオスであり、クレイスやイルフォシアからの信頼も厚いそうだがかなり遠慮がない。
「えー・・・今日も気が乗らない・・・」
「でしたらまた黒い竜達の傍でやりましょう。」
彼女自ら学び舎に足を運ぶことはない為、いつもこうやって牧草地に足を運んでくれるのだがこれこそ最近学んだ有難迷惑というものだろう。
「おお。彼の話は面白いのでな。俺も一緒に学ばせてもらおう。」
更にアサドもプレオスと意気投合してしまっていたので黒い竜達がくつろぐ中、自分だけが面倒臭い勉学に励まねばならないのだ。
今更だがどうも自分は学ぶというのが大層苦手らしい。椅子代わりにアサドの毛皮に身を沈めつつ、その隣には安らかな寝顔を見せる黒い竜が手の届く場所にいる。
大空の下で行われる講義は思考を奪っていくがこれも全てアルヴィーヌに合わせた結果なのだから今更文句を言うわけにもいかない。
「・・・これが終わったら一緒にお空をお散歩しよう?」
故にどちらが御世話役なのかがわからない状況へと陥っていたが黒い竜達も彼女の言葉か心に反応したのか、その呟きを聞くと長い首を起こして大きな顔を甘えるように摺り寄せてくるのだった。
それからしばらくは人見知りで億劫な側面を見せてきたアルヴィーヌだったが自分よりも遥かに強い力を持つ甥っ子兼未来の亭主が現れて以降生来の性格がみるみる顔を覗かせ始めえう。
そして今、彼女は別世界から連れ帰ってきた黒い竜達のお世話をしたくて『アデルハイド』の牧草地に陣取ったのだ。
「姉さん!!流石に今回ばかりは看過出来ません!!ヴァッツ様やクレイス様の為に諦めてください!!」
「嫌。だってこの子達も私に懐いてる。ね?」
良く出来た妹が翼を顕現させてまで全力で説得してくるがこちらも彼らをとても気に入っているので引くわけにはいかない。
それに今回は国務に携わってこなかった負い目を払拭するという大きな目的もある。周りからは自由奔放の我儘放題に見えるアルヴィーヌだが決して責任感がないわけではないのだ。
だから唯一彼らのお世話くらいなら貢献出来るだろうと、貢献したいと思ったのに何故わかってくれないのか。
「アルヴィーヌ様、黒い竜達は今後僕達のとても大切な仲間となるのです。ですからその、愛玩動物的な扱いから離れて頂けませんか?」
「???」
妹の伴侶となる予定のクレイスも冷静に諭してくるが意味が全く分からない。戦いに駆り出そうという訳でもないのだから可愛がる以外にどう接すればいいのだ?
「お~やってますね。」
そこにいつも澄ました様子の左宰相がヴァッツと共に現れたのでこちらも警戒を強める。彼は口先だけの印象がとても強く、それを開けばあっという間に舌先三寸で言いくるめられてしまう。
なので今度はこちらも翼を顕現させると大いに威嚇姿勢を取ったのだが甥っ子だけは畏怖というより解決策が見出せなくてただおろおろとしている。
「さて、出来れば手を引いて頂きたいとお願いしたいところですがアルヴィーヌ様も強いお気持ちがおありのようです。そこで数頭だけ『トリスト』の王城で飼うというのはいかがでしょう?」
「「えっ?!」」
妹夫婦が驚愕の声を漏らした所を見るにその提案は彼の独断かそれに近いものなのだろう。
あまりにも好条件が過ぎてこちらの心も大いに揺れ動いたが黒い竜達の食料を運ぶにしても相当な労力が必要だと聞いていた。力仕事であればかなり貢献出来る筈なのだ。
であれば数頭よりも全部の面倒を一気に受け持った方がいい。
「・・・・・駄目。この子達は私が・・・面倒を見る!!」
するとその気持ちを誰よりも汲み取ってくれたのか、黒い竜達もまるで呼応するかのように翼を広げて反抗態勢を取ってくれたのだから嬉しくて怒りと喜びが胸の中を飛び回った。
「ほほう。流石は我儘の権化と呼ばれるだけの事はあるな。ハルカもお前には適うまい。」
ところがこれ程意思の疎通を見せつけたにも関わらずまだ説得は終わりを見せない。むしろハルカの祖父が姿を現した事でアルヴィーヌには若干の遠慮が生まれてしまうのだった。
「・・・ハルカのおじいちゃまに言われても私は諦めない。」
純粋な強さで負ける気はしないものの義父に似ている雰囲気に飲みこまれそうだったので無理矢理強がるとそれも見透かされているようだ。
「がっはっは。わしは部外者なのでな。別に説得するつもりはない。ただアルヴィーヌよ、お前はもう少し自分の気持ちを言葉に表した方が良いぞ。」
と言われても人との関わりを避けて生きてきた彼女にはなかなか難しい。促されるままに口を開こうとしたがそれも一瞬で閉じてしまった。
「・・・なるほど。でしたら明確に、公平に御世話役を決めてしまいましょう。」
そこにまたしても油断ならない青年からの提案があると心は最大限の警戒態勢をとる。
「どうするつもり?」
「そうですね。今から候補者全員に呼び掛けて貰ってその声に呼応した黒い竜はその者が担当する、というのはいかがでしょう?」
だが思った以上に面白い提案だったのでアルヴィーヌも翼を引っ込めて頷いた。自身の感情に呼応して皆が反抗態勢を取ったのは先程確認している。
であればそれくらいは朝飯前、全員がこちらに寄ってきてこの話は幕を下ろすだろう。
ショウがヴァッツに何やら耳打ちしたのだけは気になったものの早速牧草地の中央に黒い竜を集めた後、各方向に御世話役候補が同じ距離を取って立つと穏やかな戦いが火蓋を切る。
「おいで。」
一番小柄なアルヴィーヌは念の為つま先で立ちながら両手も出来るだけ真上に伸ばして手招きするとやはり思った通り、彼らは喜んでこちらに飛んできた。
これで御世話役は自分のものだ。
確信するのに時間はかからなかったがそこに意外な人物が立ちはだかる。
「サリール!おいで!」
何とクレイスが名前を呼ぶと群れの中で一番子供の竜が喜んで彼の方に飛んで行ったのだ。続いて他にも小柄の竜が3頭ほどそちらに向かうと親竜もつられて集まってしまう。
「あ。ずるい。」
まだ名前の付けられた個体は少なかった為予想外の行動につい不満を漏らしたが勝負の行方はまだわからない筈だ。
「オンプ。来るんだ。」
むしろいつの間に姿を見せたのか、カズキまでも対面から静かに声をかけるとサリールの傍にいた親竜が長い首をそちらに向けて飛び去ったので混戦の様相を示す。
一応自分の元に半分は留まっているものの納得のいかない結果に不満を感じた時、戦況は更に大きな変化を見せた。
「がるるるるっ!!!」
それは猫科特有の唸り声であり声と呼べるものではなかったがそれを聞いた黒い竜達は一斉にそちらを向くと有無も言わさず集まっていったのだ。
「おお。まさか俺達の合図が通じるとは。」
「あ、アサドだ。」
どうやら御世話役の候補には彼も挙がっていたらしい。最も意外な人物が黒い竜全てを呼び寄せるとショウも満面の笑みを浮かべて終わりを告げたのだが納得のいかないアルヴィーヌはここからどうすべきかを思案し始めるのだった。
「おいおいおい。まさか『獅子族』に任せるつもりか?」
これもまた誰にも知らされていなかったのだろう。カズキも呆れた様子で尋ねるとショウも腹の立つ笑顔ではきはきと答える。
「はい。といってもこの人選はロラン様のものです。黒い竜には言語能力がありませんからね。なのでそれが無くとも意思疎通出来そうな者が最も相応しいのではないかと。」
なるほど。リリー達の兄が関与しているとわかって溜飲を下げるがやっぱり悔しいし寂しい。そんな気持ちを汲み取ってくれるのはやはりヴァッツしかいないのだろう。
「ね、ねぇショウ。何とかアルヴィーヌにも御世話役っていうのを任せてあげられないかな?」
その発言にはアルヴィーヌを含む全員が目を丸くしていたが一番に同意してくれたのもまた意外な人物だ。
「・・・そうですね。確かに彼らを護るという意味でもアルヴィーヌ様の御力は頼りになりますし。」
あれ程反対していた、正確には妥協案を提示していたショウがいち早く彼の意見に耳を傾けてくれると否が応でも期待してしまう。つい胸の前に両手こぶしを作って目を輝かせてしまう。
「・・・・・まぁアルヴィーヌは城内にいなくてもあんま関係ないしな。補佐的な意味で任せてみてもいいんじゃねぇか?」
本来であれば言い逃れが出来ない程の不敬罪だが彼女がそんな些細な事を気にするはずもない。むしろカズキの後押しに深く何度も頷くがこういう時、最後まで障害となって立ちふさがるのは大抵身内と相場が決まっているのだ。
「カズキ様、それはあまりにも不敬です。それにこれからは姉さんにも国務に携わって頂く機会が増える筈。その為にもまずは礼儀作法から学ぶ時間を・・・」
「それは確かキシリングが受け持っていた筈だ。であれば猶更アルヴィーヌはこの地に通って様々な事を学んだ方が良いのではないか?」
妹の正論に諦めかけた時、トウケンも助け舟らしいものを出してくれると嬉しくて思わず抱きしめる。
「流石ハルカのおじいちゃま。じゃあ決定という事で。」
「・・・姉さん。『様々な事を学ぶ』部分を忘れないようにして下さいね?」
やはり自分は我儘なのかもしれない。自覚のないアルヴィーヌはイルフォシアの譲歩案に軽く相槌を打ちながら早速ショウに仕事内容を確認すると餌の確保に人や亜人に慣れてもらう事、鞍を作りたいので寸法を取ったり生態の研究等々かなりの業務があるらしい。
「・・・わかった。確か魚が好きなんだよね?」
だが彼女の容量では自分の興味がある事にしか思考が働かないのだ。クレイスに確認するとすぐに飛び去ろうとしたが食事の量や時間もしっかり管理すべきだとすぐに引き留められたので残念な気持ちを惜しみなく表現した後アサドに黒い竜達との交流方法について根掘り葉掘り尋ねるのだった。
しかしやっと手に入れた御世話役の座というのは餌であり、自分はそれに何の疑いもなく食いついてしまったようだ。
「アルヴィーヌ様、今日は礼儀作法について学んで頂きます。」
教育係として送られてきたのは『アデルハイド』で最も有能な将軍プレオスであり、クレイスやイルフォシアからの信頼も厚いそうだがかなり遠慮がない。
「えー・・・今日も気が乗らない・・・」
「でしたらまた黒い竜達の傍でやりましょう。」
彼女自ら学び舎に足を運ぶことはない為、いつもこうやって牧草地に足を運んでくれるのだがこれこそ最近学んだ有難迷惑というものだろう。
「おお。彼の話は面白いのでな。俺も一緒に学ばせてもらおう。」
更にアサドもプレオスと意気投合してしまっていたので黒い竜達がくつろぐ中、自分だけが面倒臭い勉学に励まねばならないのだ。
今更だがどうも自分は学ぶというのが大層苦手らしい。椅子代わりにアサドの毛皮に身を沈めつつ、その隣には安らかな寝顔を見せる黒い竜が手の届く場所にいる。
大空の下で行われる講義は思考を奪っていくがこれも全てアルヴィーヌに合わせた結果なのだから今更文句を言うわけにもいかない。
「・・・これが終わったら一緒にお空をお散歩しよう?」
故にどちらが御世話役なのかがわからない状況へと陥っていたが黒い竜達も彼女の言葉か心に反応したのか、その呟きを聞くと長い首を起こして大きな顔を甘えるように摺り寄せてくるのだった。
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