闇を統べる者
亜人 -盟友との交流-
アルヴィーヌの強い要望によりアサドを連れて一度『リングストン』の野営地に戻ったリリー達だったが陣内は俄かに混乱状態だ。
「う、うわっ・・・」
「ひ、ひぇっ?!」
周囲から当然のように恐怖の声が伝播していたが友好関係を名目に肩車されていた彼女だけは満足そうに大きな獅子の顔を思う存分撫で繰り回している。
「さて、それでは明日『ボラムス』へ向かいましょう。」
「ショウ殿、ここは『リングストン』の父への謁見が先ではないでしょうか?」
そんな周囲の騒ぎなどお構いなく食事を摂り始めながら今後の行動についてショウが提案すると流石にネヴラティークが反論してきた。確かに『獅子族』達のいる場所は『リングストン』領内であり今回もネヴラディンの命令なのだ。
ヴァッツに全てを任せると言った部分も考えると彼が『リングストン』の大将軍として勲功を与えたい企みはリリーにすら透けて見えていた。
だがそこはショウにも思惑があるのか、アサドにべったりなアルヴィーヌやヴァッツを優しく眺めながら説明を始める。
「いいえ。獅子王ファヌル様にネヴラディン様を引き合わせるのは早すぎます。まずは人間とその文化に慣れて頂く意味で最も命の軽い王と謁見させるべきです。」
「・・・・・確かに『ボラムス』の傀儡王であれば適任か。いいでしょう。」
本人が目の前にいても恐らく同じように扱われるのだろうが酷い言われように思わず苦笑いを浮かべてしまう。しかしガゼルに会いに行けるのだとわかったヴァッツはより上機嫌でアサドに説明していた。
翌朝、ずっと眠り続けていたコーサが目を覚ました時ヴァッツとアルヴィーヌを抱えて眠っていたアサドに口をパクパクさせていたそうだが他に大きな問題は起きなかった一行は再び『獅子族』の集落へ向かうと早速近隣国への挨拶を提言をする。
「ふむ・・・人間の王か。面白い。わしがこの目で見定めてやろう。」
獅子王も一晩である程度現状と今後の行動に見切りが付いたのか、昨日と違って静かに話はまとまったのだがここで大きな問題にぶつかった。
それが移動手段だ。
『獅子族』は雌雄共にかなり大柄で馬車に乗り込むには相当窮屈な思いをしてもらわねばならず、獅子王ファヌルに至っては入る事自体が不可能なのだ。
「???この箱の中に入るだと???正気か???」
しかも馬車という存在を知らなかったのか、『獅子族』達が集まって来ると不思議そうに軽く叩いたり揺らしたりしている。
そんな彼らにショウが馬を使って移動する乗り物という説明をすると獰猛だった昨日からは考えられない程愛くるしい表情で皆が顔を見合わせていた。
(・・・なるほど。これなら猫と見えるな。)
リリーも内心少し撫でたい衝動が生まれる程にその純粋な行動には心が動いたのだがそこに水を差したのは他でもない獅子王本人だった。
「つまりお前達猿・・・人間はこんなものに頼らなければ移動すらままならぬというのか?」
「いえ、そうではないのですが多少距離があるものですから。」
恐らくこの場所から『ボラムス』の国境までは急いでも一週間はかかるだろう。その距離を徒歩で移動するとなれば荷物の事を考慮しても相当な体力が必要になって来る。
その辺りも含めて再びショウが詳しく説明しても獅子王はぴんと来ないのか、最終的に彼が下した結論がこれだ。
「わかったわかった。わしらは歩くのでそれはいらん。」
確かに人間の倍以上ある背丈や被毛の上からでもわかる立派な四肢があれば何かに乗る必要などないのだろう。
こうして『獅子族』からは供回りを2人、そしてアルヴィーヌが気に入っているアサドの4人が出向く事になると早速南へ向かって歩き出した。
本来王族を歩かせて平民や臣下が馬車に乗るなど人間社会では考えられないが彼らの元居た世界にそういった文化はなかったようだ。
故に獅子王も自ら歩く事に不満は一切見せなかったが車輪の珍しさだけには好奇心が抑えられなかったらしい。突然巨体を羽のように跳躍させて馬車の屋根に飛び乗ってしまうと誰もが想像した通りの結果が舞い降りた。
ばきゃきゃんっ!!!
彼の目方がどの程度かわからないが当然馬車の屋根はへしゃげて車輪は破損し、激しい音と共に馬が嘶いて辺りは大惨事の様相を呈する。
「む?やはりそれ程頑強ではないのか・・・」
そして全く悪びれる様子の無い獅子王にショウやネヴラティークでさえ目を白黒させていたがアサドの肩車をすっかり気に入っていたアルヴィーヌはその上からからからと笑っている。
「ありゃ?やっぱりファヌルも馬車に乗りたかったんだ?」
「いや、乗りたいというよりどんなものかと気になっただけだ。」
そんな中ヴァッツとファヌルは全く動じていない。いや、ファヌルに関しては大切な運搬道具を壊したのだからもう少し悪びれて欲しいが彼らに謝罪を求める方が無茶なのかもしれない。
「まぁ乗るんだったらもっと頑丈なやつを用意してもらわないとね。よいしょっと。」
だがいつものようにヴァッツが当たり前にその破壊された馬車を下から持ち上げて歩こうとした時、更にそれを両手で持ち上げた獅子王は無言で歩き出したのだ。
「あれ?」
「これも運ばねばならぬのだろう?ならばわしが担ごう。」
言葉にこそ出さなかったが贖罪の意思はあるらしい。
『獅子族』の供回りは若干狼狽えたが嬉しそうにヴァッツと並んで歩き始めた姿をみて誰も止める事が出来ず、そのまま一週間程かけてお互いが情報を交換しあいながら『ボラムス』に到着すると流石の傀儡王も口をぽかんと開けたまま声が出なかった。
「・・・ぉ、ぉぅ?ひ、久しぶりだなヴァッツ・・・」
「うん!ガゼルも元気そう・・・じゃないね?!あれ?何で皆顔色が悪いの?」
ショウが先触れを送っていたので到着する事自体は周知されていた筈なのに全員が本物を前にした様子は獅子王の矜持を十分に満足させたらしい。
「そうそう。それだ。わしらを前に震え上がるのが当然なのだ。ヴァッツも覚えておけ。」
「え~?震え上がるって・・・滅茶苦茶寒かったりしないと起こらないよ?」
こちらは旅路も含めてすでに十日近く共に過ごしていた為忘れかけていたが『獅子族』は猛獣の亜人なのだ。そう考えるとほとんど問題なく接してこられた事に深く感謝すべきだろう。
体躯は倍以上違う筈なのに獅子王以上に大きく感じるヴァッツの背中を微笑んで見つめる中、リリーも軽い挨拶を交わしながら城内へ向かって歩いていく。
「ようこそ『ボラムス』へ。さぁまずは中へどうぞ。」
ところが未だ恐怖が心底にあってもしっかり持て成さなければならないファイケルヴィは宰相らしく冷静に、そして丁寧に『獅子族』を案内すると今度は彼らが驚愕の様子を浮かべる。
「ほう・・・・・不思議な洞穴だ。この世界にはこんなに形が整っている場所が存在するのか?」
「いいえ。これは人間の手で作られた居城です。」
「何と・・・?!うぅ~む・・・」
彼らの集落を見てある程度その文明を理解はしていたものの切り出された巨石が隙間なく積み上げられた城は確かに英知の結晶とも呼べる代物だ。
リリーから言わせれば途中で通って来たヴァッツが作った国境の岩壁の方が感嘆すべきだとは思うのだがあちらは自然の大岩を並べた部分が殆どなので『獅子族』の心には響いていなかったらしい。
あとは『天族』と同じく調理を知らない事が旅の途中に分かった。ただ彼らは人間に近い為か、クレイスの料理を喜んで食していたようだが『獅子族』は違う。
火を通すのはもちろん、香辛料で味付けをするだけでも手を付けなかったのだのだから価値観の違いは想像以上のものがあった。
「とりあえずここで更なる作法と知識を学んでいただきましょう。」
しかしそれらを含めて『ボラムス』行きを決めたのだろう。ショウは謁見の間に入ると早速ファヌルだけでなくガゼルやヴァッツ、アルヴィーヌも巻き込んで王族としての基本的な立ち居振る舞いを教え始めるのだった。
「な、なんて面倒くせぇんだ・・・」
「うむ。激しく同感だ。人間とはこんな面倒な事をせねばならぬのか?」
いつの間にか別の意味で意気投合していたガゼルとファヌルがげんなりした表情を浮かべてぼやくがショウも厳しい教育に手を抜く事は無い。
「何を仰っているのです。これらは基本中の基本。特にファヌル様は人間を食さないという約束の為、更に見た目での威圧以上の力を手に入れて頂く為にもっと真剣に取り組んで頂かなければ。」
「だが人間でわしより強い相手などそうはおらんだろう?だったら無条件にわしの前に跪けばよいではないのか?」
その意見には見学していたリリーも思わず納得しかけたがこれには同じく同席していたネヴラティークが答えてくれる。
「ファヌル様、それでは争いの火種が絶えなくなります。我ら人間は基本的に戦いを回避して利を得ようとする生き物なのです。ですからショウ殿はファヌル様に処世術といった意味合いでもご指導されているのかと。」
なるほど。自身の傍にいる破格の強さを持つ2人にそういった素振りが全く見受けられないので失念していた彼女はこれにも深く納得する。
以降も晩餐会の時間まで様々な礼儀作法を叩きこまれる4人。ヴァッツやアルヴィーヌも割と前向きに覚えようと頑張っている姿に感化されたのか、ガゼルも多少の愚痴は零すものの真面目に訓練していたのは意外だった。
それから緊張感のある晩餐が始まると指導がひと段落付いた為か、並んで座った王が大きなため息と肩を落として食事を始めると2人はやっとまともに顔を見合わせた。
「しかしお前も見た目以上に根性あるな。いつ不満を爆発させて暴れ出すか冷や冷やしてたぜ。」
「何を言う。わしは獅子王だぞ?力を得る為ならば耐え忍ぶ事など朝飯前よ。」
これがショウのもう1つの狙いだったらしい。初対面で威圧と緊張に震えていた『ボラムス』の関係者もいつの間にか『獅子族』を当たり前のように受け入れている。
更に『獅子族』だけは体躯が違い過ぎたので指導の間彼ら用の椅子も突貫で作らせていたらしい。料理も彼らが楽しめる様に生肉を薄く切ったものが見栄えよく更に盛り付けられていた。
「んで、ショウ。お前ま~た何か悪巧みしてるな?お前が俺のとこにこんな屈強な種族を意味なく連れてくる筈がないよな?目的はなんだ?」
「ほう?少しは国王らしくなられたようで。話は簡単です。彼らと同盟を結びお互いの文化を理解し合って頂きたい。」
「確か友好関係を築く事だったな。ふむ・・・わしは構わんぞ。」
話は一気に進むと周囲もざわついたがファイケルヴィは元より将軍ワミールも『トリスト』の人間なのでショウの提案に一切反応する事は無かった。
だがネヴラティークすら口を挟まなかった点だけはリリーも気になる所だ。ここまでほとんどショウの思惑通りに事が進み過ぎていてリリーですら若干警戒する程だったが当の本人達は厳しい指導から解放された安堵に思考は鈍っているらしい。
「そういや俺も同盟って初めてだな。何をすればいいんだ?」
「そうですね。『ボラムス』からは『獅子族』へ食肉の供給を、そして『獅子族』からは優秀な戦士をいくらか送ってもらうのは如何です?」
「何だ。そんな簡単なやり取りで良いのか。」
お互いがいとも簡単に了承してしまうと早速ファイケルヴィが用意させた書記官が小さな机の上で筆を走らせる。
「重要なのは立場が対等だという事です。ファヌル様、よろしいですね?」
「対等?対等だと?!この猿・・・人間とわしとが?!」
やっとここで見た目通りの暴虐さが顔を覗かせたファヌルは立ち上がりガゼルを思い切り見下す視線を送るがその隣にはヴァッツが、自身の隣にはアサドを挟んでアルヴィーヌが座っている。
それが理由かはわからないが再び冷静さを取り戻した獅子王は椅子が壊れる勢いで腰を下ろして腕を組むと今度はショウに鋭い視線を向ける。
「・・・1つ気になっていた事がある。」
「どうぞ。答えられる範囲であれば何でもお答えします。」
「うむ。この国・・・『ボラムス』といったか。そして国王はこのガゼルという人間だな?それがまず解せんのだ。」
この世界ではない、何処かからやってきた『獅子族』は国の概念や文化もかなり後進的だ。だからだろうか、次に発せられた言葉には彼らの本質が多分に含まれていた。
「この場にいる人間達と比べたらガゼルという男は相当弱い。なのに何故こいつが王なのだ?」
これは『獅子族』達が強い者を王として認めて来た価値観からだろう。怒りからではなくあまりにも不可解だと言った様子で周囲に向けて疑問を投げかけている。
「それは人間が純粋な強さだけで王を選んでいないからです。」
「それにしても酷くないか?これならそこの鎧を着こんだ人間の方がまだ強さも威厳も感じる。」
ファヌルはそう言いながらワミールを指さした。確かに彼は『トリスト』の将軍であり何処かの領土を任されてもおかしくない程度の実力と人望は保持している。
「ふっふっふ。ファヌル、王ってのはただ強ければいいってもんじゃない。民や臣下を愛する心が大切なのだよ。」
そこにガゼルが諭すように余裕を見せて告げたのでほとんどの人間がぽかんとした様子で視線を向けてしまう。確かに選出されたり世襲制だったり様々だが後世まで名を残す王が須らく強かった訳ではない。
しかしそれを知ってか知らずか傀儡王と呼ばれる彼が獅子王に説くのはどうなんだ?
強さは言うまでもなく、せめて獅子王に勝る何かを持っている者が発言すればまだ説得力が増すとは思うのだがこの場にそれが出来る人物など限られる。
「確かにガゼルは色々と見劣りする人間ではありますが殺された家族の為、自国を取り戻す為に命を賭けて戦いました。その思いを皆に認められたから王になったのです。英知や武力だけでなく、誇りも強さを測る物差しにはなり得ませんか?」
「・・・・・この人間が、か?う~~~む・・・・・」
ショウの発言にガゼルは若干訝し気な表情を浮かべたがそれ以上にファヌルが大きな前足を顎に当てて至近距離で睨みつける、いや、見つめているのか?
大きすぎる顔と双眸を向けられた彼も流石に恐怖を感じたのか、とぼけた顔と冷や汗を浮かべて視線を全力で逸らしていた。
「それにガゼルは仲間思いだよ。」
決して蛇に睨まれた蛙に助け船を出したつもりはないのだろうがヴァッツも自身の思いを素直に述べるとやっとファヌルも納得したのか顔を正面に向け直す。
「・・・確かに誇りは大切だ。しかし人間か。思っていた以上に難解な生物だな。」
「それを多少学んでいただこうと思ってここに赴いたのです。人間は弱い。だから徒党を組み、掟を作り、皆で栄光を手に掴もうと手を取り合って歩んでいるのです。」
「力無き者達の知恵と誇りか。いや、しかし力を持つ者もいるではないか。う~~~む・・・・・人間とは本当に複雑だな。」
それはヴァッツとアルヴィーヌを指しているのだろう。
2人を見比べながら軽く溜息をついたファヌルは出された生肉を摘まんでぺろりと平らげると物騒な気配を一切霧散させた後、より深く人間社会についての話を聞かせるよう乞うのだった。
それでもあまり長居は出来ない。
翌日ショウは城内外にいる人間達の役割を説明しながら歩き回るとその足は付近の集落にまで伸びる。
「ひぇっ?!」
「きゃぁぁあああ?!」
当然『獅子族』の姿はか弱い人間にとって恐怖の対象にしか見えないのだからあちらこちらで悲鳴が響き渡るもそこは一緒にいた傀儡王ガゼルが軽く説明するだけで国民もすぐに納得したようだ。
(・・・思ってた以上にちゃんと王様やってるんだな。)
昨晩ショウが言っていた事も案外本当なのかもしれない。リリーはスラヴォフィルの命令により傀儡として王に就いたという理由しか知らなかったので意外な光景を目の当たりに考えを改めていると獅子王がある物を紹介されて驚いた。
「な、何だこれは・・・?!青臭くてとても食えたもんなじゃない?!」
それは彼らが育てていたきゅうりだ。時期的にも丁度今が旬で採れたてを一本渡したのだが彼は口に入れた途端吐き出してしまった。
「おいおい。そんな事ないだろ。どれどれ・・・うむ。いい出来じゃねぇか。」
ここでも彼らとの種族差を感じずにはいられない出来事にリリーも全く違う様子の王を見比べて軽く唸る。ちなみにヴァッツとアルヴィーヌには何故味の感じ方に違いがあるのかわかっていないようできょとんと小首を傾げていた。
「ではこちらはどうでしょう?」
以降も適当な農作物を選んでは『獅子族』達に与えてみるも彼らが喜ぶ素振りは見せない。球菜だけは一球をぱくりと口に入れてしゃきしゃきと音を立てて飲み込みはしたが美味しいとは感じていないらしい。
「・・・こんなものを育てて食べるのか。本当に人間とは変わっているな。これを口に運ぶくらいならわしらは野山や草原で何か動物を狩って来る事を選ぶぞ?」
『獅子族』の反応からショウも一瞬目を丸くしていたがすぐに表情を戻すとそちらの分野は諦めたらしい。
「これは後ほどクレイスに丸投げ・・・任せましょう。」
食に関しては彼の方が絶対に上なのだという自覚からか、一瞬放棄するような言い方にも聞こえたがそれだけ彼を頼りにしているという事だろう。うん、そうに違いない。
もしかすると一番難しい問題を後回しにしたショウは次に木々の生えた場所へ案内する。
その傍には加工場も隣接されており今度は材木について探っていくようだ。
「まずは『獅子族』の皆様が独力で何処まで加工出来るかを試してみましょう。ヴァッツ。一本抜いてもらえますか?」
「いいよ!はい!」
相変わらず雑草よりも簡単に大木を引っこ抜く姿には圧巻される。だが今回は体躯の大きな彼らが挑むのだから少しは期待できるのかもしれない。
次に『獅子族』の側近達、そしてアサドが試してみるもやはりしっかり根の張った木を力任せに引っこ抜くというのは切り倒すのと比べ物にならない程難しいらしい。
「やれやれ、不甲斐無い同胞だ。どれ、わしにやらせてみろ。ぐぬぬぬぬ・・・ぬおおおおっ!!」
それからファヌルは後ろ足を大きく開き、しっかりと腰を下ろしてから激しい唸り声と共に全身に力を込めるとヴァッツ以外で初めてその力技をやってのけたのだ。
ただ見た感じでもその労力は雲泥の差で流石の獅子王も無理矢理引っこ抜いて相当力を消費したのか軽く息を切らしている。
「お、おおお?!流石獅子王だな!ヴァッツ以外にこんな頭のイカれた方法が出来る奴が存在するなんて思いもしなかったぜ!」
「はぁ、はぁ。そうだろうそうだろう!もっとわしに畏敬の念を抱いてもいいぞ?」
そして満足した本人とは裏腹にショウはすぐにその方法を排除する事を決定して代替案を考え始める。
「ふむ。やはりヴァッツのようにはいきませんか。でしたら『獅子族』の皆様が使える斧を用意しましょう。」
斧自体がどういったものかもわからない彼らは最初こそきょとんとしていたが説明が進むにつれ、ヴァッツより劣ると判断された事にまたしても若干の不満を爆発させ始めたが1人だけしか出来ない方法を選択すれば王に多大な負担が生じる事になる。
そこを詳しく教えると誰よりもファヌルが納得して頷いていたので心配はないだろう。
「これが斧というものか。」
「はい。ただあなた達は人間より遥かに巨体で力もありますからこれをそのまま大きくした道具を作って献上しましょう。」
ショウも人間社会について詳しく解説する為とはいえ色んな分野に足を運ぶなぁと感心していたが時雨の推論を聞いて納得した。
どうやら彼はより深く人間と交流出来るように、そして同盟間での取引として『獅子族』に選択肢を与える為に様々な文化や技術を教えているのだろうという事だ。
確かに木を一本切り倒すにしても彼らの方がより早く作業が進むはずだ。つまり農業も彼ら自身が食すことは無くともこちらが提供する食肉との取引に持ち込みたいのだろう。
(流石だな。)
リリーは感嘆しか胸に芽生えなかったがその策謀もこちらにヴァッツとアルヴィーヌという破格の存在がいるからこそ可能なのだ。
でなければ基本的に彼らの食料になりかねない人間達が対等に渡り合うのは非常に難しいはずだ。
「『獅子族』達の集落は内陸部なので漁業は大丈夫でしょう。今後はこういったものを食肉と交換して頂ければこちらも採算が取れるというものです。」
ファヌルも巨大な体躯に獰猛な性格を持ってはいるもののショウの企みに反論する事無く素直に知識を吸収しているのは今までにない力を手に入れる為なのか。
そこだけは少し不思議だったがどうやら彼も野望を抱いていたようだ。ショウが全ての解説を終えたと王城に帰還する旨を伝えた時、初めて1つの提案を出して来た。
「待て。まだあの城と呼ばれる建物の作り方を教わっていない。わしはあれが欲しい。」
これにはショウだけでなく距離を置いて見守っていたネヴラティークも驚いていたが確かに彼らの居住は辛うじて雨風を凌げるものだ。
そこで初めて目にした王城はさぞ荘厳で立派なものに映ったのだろう。そして獅子王はどうしてもそれを手に入れたいという。
「ふむ。わかりました。でしたら最後に石切り場を見に行きましょう。」
その要望にすぐ応えるショウには感心する他ないが築城となればリリーですら相当難しいのは理解出来る。果たしてその答えをどこから持って来るつもりなのか。
すぐにでも自分の城が手に入ると勘違いしている獅子王をよそに一行は山岳地帯へ移動すると早速ショウはその切り出し手順や道具、運搬方法などを説明し始めるのだった。
それから日が傾くまで石切りについて学んだ獅子王だったが彼も見た目以上に聡明なのだ。
「ふぅむ・・・・・あれを建てるには相当な時間と力が必要なのだな。」
「はい。ですが『獅子族』の皆様や我々の知恵があれば決して不可能ではありません。」
帰路の途中に腕を組み唸っていたファヌルにショウも深く頷きながら断言すると彼は猫のような好奇心旺盛な表情を浮かべて喜びを見せていた。
「うんうん!オレで良ければ何でも手伝うし!」
「私も~。でもただ働きはしない。『獅子族』の誰か一人が欲しい。今の所アサドがいい。」
ヴァッツとアルヴィーヌも下心の有無に違いはあれど協力を申し出ると獅子王も大きな口を開けて大笑いする。
実際『リングストン』との国境線などはほとんどヴァッツの力で一日かからずに終えたのだから彼が手伝えばそれこそ数日で立派な居城が完成するかもしれない。
そんな妄想をしていたリリーだがここでガゼルがふと素朴な疑問を投げかけた。
「そういやお前達の国は何て言う名前なんだ?」
今まで誰も触れてこなかったのには理由があった。それはショウが彼らの文明がその域に達していないと判断していた為だ。
だがガゼルはその話を聞いていなかったのでついぽろりと口にしたのだがファヌルも気にはしていたのか、太い前足で顎を軽く搔きながら口を開く。
「・・・・・国の名など考えた事も無かったが・・・・・」
生態系の頂点に立っていた『獅子族』だからこそ、完全な統一部族だからこそ気にも留めなかったのだろう。しかし今は環境が変わり、周辺に様々な国家が存在するので今後を考えると『獅子族』達の集落にも名前は必要になってくるはずだ。
「でしたら国王であるファヌル様の名を冠して『ファヌル』という国名はいかがでしょう?」
「・・・良し。では今から我が国は『ファヌル』だ!」
人数的には決して多くは無く、国というより村に近い規模だがそれでも彼らの能力を考えると名乗りを上げても良いのかもしれない。
ショウも彼の背中を後押しするとファヌルは新天地で改めて『獅子族』の繁栄と栄光を誓い、その名を叫ぶ。
こうして別世界からやって来た『獅子族』が新たな知識や出会い、国名までも手に入れた夜は再び『ボラムス』城でささやかな晩餐が開かれたのだが時に偶然とは幾重にも重なるものだ。
「おっす!ここにショウが居るって聞いたからやってきたぜ。っておいおいおいおいおい?!何だこのでっかい獅子は?!?!?」
ショウがこの地にいると知ったカズキは直接『ボラムス』へと足を運んで来たらしい。そして皆が集まる大食堂に足を踏み入れた途端、『獅子族』の姿を見るや否やヴァッツのような反応で喜びを解放すると目を輝かせて駆け寄って来た。
「うむ。わしは獅子王ファヌルだ。お前は人間の子供だな?段々わかってきたぞ。どうやら子供というのは種族に関係なく恐怖よりも好奇心が勝るようだな。」
ヴァッツやアルヴィーヌの反応から自身への畏怖が子供には通じていないと判断したのか、ファヌルも落ち着いて分析を口にするが14歳というのは元服を迎えているので子供か大人か難しい所だ。
「カズキ、まずはあなたもご挨拶を。この方は『獅子族』の王国『ファヌル』の国王ファヌル様です。」
「これは失礼、私は『トリスト』の剣撃士隊隊長、カズキ=ジークフリードと申します。」
それでも目上にはしっかり礼儀作法を通せるのが彼の強みだ。ここは自身も見習うべきだしハルカなどには是非模範として吸収してもらわねばと姉らしい心配をしていたが硬い挨拶が終わるとヴァッツとアルヴィーヌの接し方を見て察したカズキはすぐに素の性格へと戻る。
「それで!『獅子族』ですか?!滅茶苦茶強そうじゃないですか!!早速俺と立ち合ってくれませんか?!」
これは2人が懐く姿から判断したのだろう。敬語と欲望を多分に混在させたせいで言葉使いがおかしな事になっているが彼は決して敬う心を蔑ろにしない。
それをファヌルも十分受け取ったのか、大きな口を開けて大笑いしながら快諾すると周囲は完全に置いてけぼりだ。
「えー。その話はまた明日にして頂くとして。カズキ、私に用事があったのでは?」
「おっと、そうだった。実は『シャリーゼ』南部に現れた『エンヴィ=トゥリア』っていう国が俺とナジュナメジナを宴に招待したいって言っててな。これにどう対処すべきか相談したかったんだ。」
しかし他の任務に当たっていた彼が何故この地に赴いたのか、その理由をしっかり問い質すべくショウが尋ねるとカズキも思い出したかのように答え始めた。
「それは初耳ですね。まさかそのような形になっているとは。」
現在カズキはロークス周辺に現れた蛮族『ジャデイ』に酪農業を教えるので手一杯だそうだが『エンヴィ=トゥリア』は先日多少の衝突があった事、そしてそれに対する非礼を詫びたいという。
なので多忙な上に軽く敵対している相手の招待などを受けていいものかどうか、判断を仰ぐ為に報告しようとしていたらしい。
そして招かれた客の中にはナジュナメジナの名もあり、歓待の祝宴は敵地で行われるというのだから警戒するのも当然だろう。
「俺もさ、俺達だけが招待されるんなら喜んで国内から食い破ろうと考えてたんだけどナジュナメジナのおっさんが一緒って所にきな臭さを感じてたんだよ。最初の衝突はロークスと起こってたし何か企んでるのかなって。」
「ふむ。流石はカズキ、その手の嗅覚は抜群ですね。」
リリーの耳にも世界の情勢は届いていたがその中で『エンヴィ=トゥリア』だけは明確な敵国として認識していた。
であればその誘いを利用して大規模な制圧作戦を展開するのも有りなのか?戦略面にはとんと疎い彼女も2人の会話を聞きながら様子を眺めていると間違いなくショウの表情に真っ黒な笑顔が浮かんだのを見てしまう。
「では折角ですのでガゼルやファヌル様にネヴラティーク様、それとクレイスも呼んで皆で『エンヴィ=トゥリア』を観光しに行きましょう。」
「おお?それってオレも行ける?」
「ええもちろん。彼の国もこの世界に迷い込んで間もないですからね。どんな国なのか、楽しみですね~。」
こういう部分があるからいまいちショウに気心が許せないのだ。といっても既に妹が彼の心を射止めるべく必死で行動しているのを姉はまだ知らなかった。
「相手はわしと同じ境遇な訳か。いいだろう。」
「私も是非お願いします。かなり好戦的な国と聞いていますしヴァッツ様がご一緒であれば物見遊山がてら制圧してしまってもよろしいでしょうし。」
「・・・何か嫌な予感がしてならねぇがお前達が一緒ならまぁいいか。」
将来の義弟がまたとんでもない提案をしたお蔭で自分達はともかく、『ラムハット』から帰国して満足な休息もないクレイス達が再び駆り出される事に若干の憐憫を抱いていたがそれ以上に喜んだヴァッツが先走ると食卓や柱の影を使って友人とその仲間を一気に呼び寄せてしまう。
「へっ?!こ、これは『ヤミヲ』様の力?!」
「あれ?!何ここ?!あ!!『獅子族』だ!!可愛いぃぃぃ!!」
「ヴァッツ様、これは一体・・・?」
「お姉様、相変わらずお元気そうで・・・その、私も『獅子族』の方と触れ合っても?」
「ああああ?!せ、折角クレイス様と2人きりだったのに・・・」
「・・・ヴァッツ。私はあなたの良く分からない力に巻き込まれたくないんだけど。」
いつもクレイスの傍にいる4人に今回は『獅子族』に会いたがっていたハルカまで呼び出すと晩餐会は更に賑わいを超えて騒々しくなっていく。
「これで皆とまた旅が出来るね!明日出発する?楽しみだなぁ!」
考えてみれば彼ら4人が揃って移動する等3年前のあの時以来だろう。特にヴァッツは馬車での移動が楽しいらしく、そこに友人全員が揃えば満面の笑みを浮かべるのも大いに理解出来る。
「そうですね。では明朝ロークスへ向けて出立し、ナジュナメジナ様と合流してから『エンヴィ=トゥリア』へ向かいましょう。」
冷静だったクレイスとノーヴァラットだけは事情を詳しく聞いて納得したが他の面々はわかっているのだろうか。
獅子王ファヌルもハルカとイルフォシアという少女達に優しく撫でられた事への満足感が強かったのか、ヴァッツが保有するもう1つの破格『闇を統べる者』には全く気が付いていない。
「前は途中までしか一緒に旅が出来なかったもんね!楽しみだねリリー!」
しかし笑顔でそう言われるとリリーも細かい事などどうでも良くなってくる。
「そ、そうですね。私も楽しみです。な、時雨?」
こちらも既に観光気分に中てられていたのだろう。彼の喜ぶ姿に感化されて友人を巻き込むと時雨もまた困った表情に笑顔を浮かべつつ騒がしい晩餐の場を眺めていた。
本来であればクレイス達は空を飛べるのでもっと早く目的地に到着出来るだろう。
だが今回の『エンヴィ=トゥリア』行きは宴への招待でも観光という名の偵察でもない、その旅を楽しむ事こそが本命なのだ。
よって誰よりも優先されなければならないヴァッツの希望を叶えるべく用意された馬車は多頭引きで10台にも上ってしまう。
「ふむ・・・悪くはないか・・・」
その理由の1つが『獅子族』だ。彼らは体が大きいのでどうしてもそれに見合った馬車が必要になり、ショウも『ボラムス』までの旅を考えてすぐに彼ら専用の馬車を作らせていた。
それでも獅子王が乗る馬車は彼1人と小柄な少女3名までが限界で他に側近である『獅子族』2人とアサドの3人を乗せてしまえばその馬車も一杯一杯だ。
後は残り8台に旅の道具と他の面々が乗り込むといよいよ久しぶりの旅らしい旅が始まる、のだが1つだけ懸念材料があった。
「み、皆様とてもお元気でいらっしゃいますね。」
それはネヴラディンの娘ルバトゥールだ。流石に昨日の流れから置いていく訳にもいかず一緒に向かう事となったのだが彼女だけは極端に弱い。
ガゼルも大したことは無いが兵卒数人程度になら何とか切り抜けられるだろう。もし『エンヴィ=トゥリア』が何かしらの攻撃を仕掛けて来た場合、誰よりも先に彼女の身を護らなければならないはずだ。
いくらヴァッツが一緒だとはいえそこだけは胆に銘じておく必要はある。
ちなみにリリーは時雨とルバトゥールの3人で馬車に乗っており、ヴァッツはクレイス、カズキ、ショウの4人で、クレイスを囲う女性3人で1台、ガゼルはネヴラティークと、アルヴィーヌ、イルフォシア、ハルカと獅子王が4人で乗る形となっていた。
「わ、私ももっと子供っぽい仕草をすればヴァッツ様に振り向いて頂けるのでしょうか?」
その質問に答えられる術はない。何故ならリリーも時雨も未だヴァッツがそういう意識に目覚めていないと認識しているからだ。
「・・・それはこっちが聞きたい・・・ですわ。」
最近は許嫁という立場に慣れてきたせいか気を抜くとつい素の自分が出てしまう。時雨もその辺りに気が付いているのかこちらに白い眼を向けて来るが彼女も思う所があるのか徐に口を開くと持論を展開する。
「ヴァッツ様はとても純粋な御方ですから。子供っぽさというよりも真っ直ぐな心で向き合えばきっと意識して頂ける、かと思います。」
いや、どちらかというとこれは時雨の願望か。改めて彼女の気持ちを理解したリリーは思わず視線を外に移すがルバトゥールは納得したのか深く頷いていた。
ロークスは『ボラムス』王城から近いとはいえ流石に一日では辿り着けない。
何泊かの計画はしていたのだが道中ヴァッツ達も車内で様々な情報をやり取りしていたらしい。
日が落ちるまでまだ時間に余裕がある中、野営地に停めた馬車の中からクレイスが真っ先に降りてくるとすぐに調味料の箱を漁り始めた。そして準備が整うとファヌルに近づいて軽いやり取りを始める。
「ショウから色々とお話を伺ったんですが、ファヌル様は生肉しか食べないというのは本当ですか?」
「うむ?まぁそうだな・・・人間が料理?したものはどうにも口に合わん。あと草を食うのも勘弁だ。」
どうやら『獅子族』の食について相談されていたようだ。ショウは彼らが一日でかなり大量の肉を消費する事から何とか他の物も食べて貰えないかと考えていたらしい。
「でしたらまずはこれを召し上がって頂けませんか?」
そう言って用意したのは普通の干し肉だ。傍にいた王女姉妹やハルカも不思議そうにそのやり取りを眺めていたが獅子王もこちらにかなり気を許しているお蔭で渋々ながらそれを口に運ぶ。
「ふむ・・・確かに肉だが・・・不思議だな。ほとんど血の味がしないぞ?」
人がそのまま咬むには苦労するそれを猛獣の咬筋力は軽々と咀嚼し飲み込む。ただ味に不満を漏らさなかったのでここまではクレイスの予想通りなのだろう。
「血の味か・・・なるほど。ではこれとこれと、あとこれも少しで良いので舐めてみてもらえませんか?」
次に彼が用意したのは様々な調味料だ。それらを小さな匙で掬って小皿に分けたものを渡すとファヌルもクレイスの行動に興味を持ち始めたのか言われるままに大きな舌でぺろりと舐めとった。
「・・・これはしょっぱいな!これは甘い!これは・・・何だこれは?」
反応から塩と砂糖を用意したのはわかる。最後の1つは獅子王も目を丸くして驚く事しか出来なかったがそんなやり取りだけで何かを掴んだのだろう。
「わかりました。今夜は僕がファヌル様の料理を作ってみます!」
クレイスは目を輝かせて元気よく宣言するとファヌルも子供をがっかりさせたくない一心から渋々頷いていたがその夜は『ボラムス』で行われた晩餐以上に盛り上がりを見せるのだった。
「こ、これはっ?!これが美味いという事かっ?!」
あれからクレイスは従者の2人にアサドの反応も確認しながら料理を作り上げた。それは普段町娘として家族の料理を作るリリーからしてもかなり異様なものだった。
というのも彼は『獅子族』に提供した料理の全てをかなりの薄味で仕上げたのだ。それでも焼肉に汁物、野菜炒めは彼らに大好評だ。
「流石だなクレイス。でも何であんなに良い反応をしてるんだ?俺達と食べてる料理は一緒だろ?」
「うん。でも彼らは生肉しか食べてこなかったんでしょ?だから僕達より味覚が新鮮で過敏なんだよ。」
つまり彼らの舌には味が濃すぎたのが原因らしい。それを察したクレイスは味付けをとても薄いものにしただけでなく、野菜も食べてもらおうと独特の生臭さを取る為に火を通して料理に仕上げた訳だ。
「ふむふむ。こうして食べると野菜というのも悪くない。いや、それどころか肉も汁も、全てから未知の味がする。クレイスといったか?お前は凄いな?!是非わしの最側近にならんか?!」
「そ、それは駄目です!!」
「お褒めに預かり光栄です。しかし僕も近々王位を継がねばなりませんので。」
すっかり『獅子族』の触り心地に心を奪われていたイルフォシアが慌てて反対するとクレイスも笑いながらその申し出を丁重にお断りする。
3年前の旅では考えられない程成長した彼の姿に姉御肌のリリーも誇らしいような気分に浸るとルサナ達も自分の事のように喜んでクレイスに抱き着いていた。
「う、うわっ・・・」
「ひ、ひぇっ?!」
周囲から当然のように恐怖の声が伝播していたが友好関係を名目に肩車されていた彼女だけは満足そうに大きな獅子の顔を思う存分撫で繰り回している。
「さて、それでは明日『ボラムス』へ向かいましょう。」
「ショウ殿、ここは『リングストン』の父への謁見が先ではないでしょうか?」
そんな周囲の騒ぎなどお構いなく食事を摂り始めながら今後の行動についてショウが提案すると流石にネヴラティークが反論してきた。確かに『獅子族』達のいる場所は『リングストン』領内であり今回もネヴラディンの命令なのだ。
ヴァッツに全てを任せると言った部分も考えると彼が『リングストン』の大将軍として勲功を与えたい企みはリリーにすら透けて見えていた。
だがそこはショウにも思惑があるのか、アサドにべったりなアルヴィーヌやヴァッツを優しく眺めながら説明を始める。
「いいえ。獅子王ファヌル様にネヴラディン様を引き合わせるのは早すぎます。まずは人間とその文化に慣れて頂く意味で最も命の軽い王と謁見させるべきです。」
「・・・・・確かに『ボラムス』の傀儡王であれば適任か。いいでしょう。」
本人が目の前にいても恐らく同じように扱われるのだろうが酷い言われように思わず苦笑いを浮かべてしまう。しかしガゼルに会いに行けるのだとわかったヴァッツはより上機嫌でアサドに説明していた。
翌朝、ずっと眠り続けていたコーサが目を覚ました時ヴァッツとアルヴィーヌを抱えて眠っていたアサドに口をパクパクさせていたそうだが他に大きな問題は起きなかった一行は再び『獅子族』の集落へ向かうと早速近隣国への挨拶を提言をする。
「ふむ・・・人間の王か。面白い。わしがこの目で見定めてやろう。」
獅子王も一晩である程度現状と今後の行動に見切りが付いたのか、昨日と違って静かに話はまとまったのだがここで大きな問題にぶつかった。
それが移動手段だ。
『獅子族』は雌雄共にかなり大柄で馬車に乗り込むには相当窮屈な思いをしてもらわねばならず、獅子王ファヌルに至っては入る事自体が不可能なのだ。
「???この箱の中に入るだと???正気か???」
しかも馬車という存在を知らなかったのか、『獅子族』達が集まって来ると不思議そうに軽く叩いたり揺らしたりしている。
そんな彼らにショウが馬を使って移動する乗り物という説明をすると獰猛だった昨日からは考えられない程愛くるしい表情で皆が顔を見合わせていた。
(・・・なるほど。これなら猫と見えるな。)
リリーも内心少し撫でたい衝動が生まれる程にその純粋な行動には心が動いたのだがそこに水を差したのは他でもない獅子王本人だった。
「つまりお前達猿・・・人間はこんなものに頼らなければ移動すらままならぬというのか?」
「いえ、そうではないのですが多少距離があるものですから。」
恐らくこの場所から『ボラムス』の国境までは急いでも一週間はかかるだろう。その距離を徒歩で移動するとなれば荷物の事を考慮しても相当な体力が必要になって来る。
その辺りも含めて再びショウが詳しく説明しても獅子王はぴんと来ないのか、最終的に彼が下した結論がこれだ。
「わかったわかった。わしらは歩くのでそれはいらん。」
確かに人間の倍以上ある背丈や被毛の上からでもわかる立派な四肢があれば何かに乗る必要などないのだろう。
こうして『獅子族』からは供回りを2人、そしてアルヴィーヌが気に入っているアサドの4人が出向く事になると早速南へ向かって歩き出した。
本来王族を歩かせて平民や臣下が馬車に乗るなど人間社会では考えられないが彼らの元居た世界にそういった文化はなかったようだ。
故に獅子王も自ら歩く事に不満は一切見せなかったが車輪の珍しさだけには好奇心が抑えられなかったらしい。突然巨体を羽のように跳躍させて馬車の屋根に飛び乗ってしまうと誰もが想像した通りの結果が舞い降りた。
ばきゃきゃんっ!!!
彼の目方がどの程度かわからないが当然馬車の屋根はへしゃげて車輪は破損し、激しい音と共に馬が嘶いて辺りは大惨事の様相を呈する。
「む?やはりそれ程頑強ではないのか・・・」
そして全く悪びれる様子の無い獅子王にショウやネヴラティークでさえ目を白黒させていたがアサドの肩車をすっかり気に入っていたアルヴィーヌはその上からからからと笑っている。
「ありゃ?やっぱりファヌルも馬車に乗りたかったんだ?」
「いや、乗りたいというよりどんなものかと気になっただけだ。」
そんな中ヴァッツとファヌルは全く動じていない。いや、ファヌルに関しては大切な運搬道具を壊したのだからもう少し悪びれて欲しいが彼らに謝罪を求める方が無茶なのかもしれない。
「まぁ乗るんだったらもっと頑丈なやつを用意してもらわないとね。よいしょっと。」
だがいつものようにヴァッツが当たり前にその破壊された馬車を下から持ち上げて歩こうとした時、更にそれを両手で持ち上げた獅子王は無言で歩き出したのだ。
「あれ?」
「これも運ばねばならぬのだろう?ならばわしが担ごう。」
言葉にこそ出さなかったが贖罪の意思はあるらしい。
『獅子族』の供回りは若干狼狽えたが嬉しそうにヴァッツと並んで歩き始めた姿をみて誰も止める事が出来ず、そのまま一週間程かけてお互いが情報を交換しあいながら『ボラムス』に到着すると流石の傀儡王も口をぽかんと開けたまま声が出なかった。
「・・・ぉ、ぉぅ?ひ、久しぶりだなヴァッツ・・・」
「うん!ガゼルも元気そう・・・じゃないね?!あれ?何で皆顔色が悪いの?」
ショウが先触れを送っていたので到着する事自体は周知されていた筈なのに全員が本物を前にした様子は獅子王の矜持を十分に満足させたらしい。
「そうそう。それだ。わしらを前に震え上がるのが当然なのだ。ヴァッツも覚えておけ。」
「え~?震え上がるって・・・滅茶苦茶寒かったりしないと起こらないよ?」
こちらは旅路も含めてすでに十日近く共に過ごしていた為忘れかけていたが『獅子族』は猛獣の亜人なのだ。そう考えるとほとんど問題なく接してこられた事に深く感謝すべきだろう。
体躯は倍以上違う筈なのに獅子王以上に大きく感じるヴァッツの背中を微笑んで見つめる中、リリーも軽い挨拶を交わしながら城内へ向かって歩いていく。
「ようこそ『ボラムス』へ。さぁまずは中へどうぞ。」
ところが未だ恐怖が心底にあってもしっかり持て成さなければならないファイケルヴィは宰相らしく冷静に、そして丁寧に『獅子族』を案内すると今度は彼らが驚愕の様子を浮かべる。
「ほう・・・・・不思議な洞穴だ。この世界にはこんなに形が整っている場所が存在するのか?」
「いいえ。これは人間の手で作られた居城です。」
「何と・・・?!うぅ~む・・・」
彼らの集落を見てある程度その文明を理解はしていたものの切り出された巨石が隙間なく積み上げられた城は確かに英知の結晶とも呼べる代物だ。
リリーから言わせれば途中で通って来たヴァッツが作った国境の岩壁の方が感嘆すべきだとは思うのだがあちらは自然の大岩を並べた部分が殆どなので『獅子族』の心には響いていなかったらしい。
あとは『天族』と同じく調理を知らない事が旅の途中に分かった。ただ彼らは人間に近い為か、クレイスの料理を喜んで食していたようだが『獅子族』は違う。
火を通すのはもちろん、香辛料で味付けをするだけでも手を付けなかったのだのだから価値観の違いは想像以上のものがあった。
「とりあえずここで更なる作法と知識を学んでいただきましょう。」
しかしそれらを含めて『ボラムス』行きを決めたのだろう。ショウは謁見の間に入ると早速ファヌルだけでなくガゼルやヴァッツ、アルヴィーヌも巻き込んで王族としての基本的な立ち居振る舞いを教え始めるのだった。
「な、なんて面倒くせぇんだ・・・」
「うむ。激しく同感だ。人間とはこんな面倒な事をせねばならぬのか?」
いつの間にか別の意味で意気投合していたガゼルとファヌルがげんなりした表情を浮かべてぼやくがショウも厳しい教育に手を抜く事は無い。
「何を仰っているのです。これらは基本中の基本。特にファヌル様は人間を食さないという約束の為、更に見た目での威圧以上の力を手に入れて頂く為にもっと真剣に取り組んで頂かなければ。」
「だが人間でわしより強い相手などそうはおらんだろう?だったら無条件にわしの前に跪けばよいではないのか?」
その意見には見学していたリリーも思わず納得しかけたがこれには同じく同席していたネヴラティークが答えてくれる。
「ファヌル様、それでは争いの火種が絶えなくなります。我ら人間は基本的に戦いを回避して利を得ようとする生き物なのです。ですからショウ殿はファヌル様に処世術といった意味合いでもご指導されているのかと。」
なるほど。自身の傍にいる破格の強さを持つ2人にそういった素振りが全く見受けられないので失念していた彼女はこれにも深く納得する。
以降も晩餐会の時間まで様々な礼儀作法を叩きこまれる4人。ヴァッツやアルヴィーヌも割と前向きに覚えようと頑張っている姿に感化されたのか、ガゼルも多少の愚痴は零すものの真面目に訓練していたのは意外だった。
それから緊張感のある晩餐が始まると指導がひと段落付いた為か、並んで座った王が大きなため息と肩を落として食事を始めると2人はやっとまともに顔を見合わせた。
「しかしお前も見た目以上に根性あるな。いつ不満を爆発させて暴れ出すか冷や冷やしてたぜ。」
「何を言う。わしは獅子王だぞ?力を得る為ならば耐え忍ぶ事など朝飯前よ。」
これがショウのもう1つの狙いだったらしい。初対面で威圧と緊張に震えていた『ボラムス』の関係者もいつの間にか『獅子族』を当たり前のように受け入れている。
更に『獅子族』だけは体躯が違い過ぎたので指導の間彼ら用の椅子も突貫で作らせていたらしい。料理も彼らが楽しめる様に生肉を薄く切ったものが見栄えよく更に盛り付けられていた。
「んで、ショウ。お前ま~た何か悪巧みしてるな?お前が俺のとこにこんな屈強な種族を意味なく連れてくる筈がないよな?目的はなんだ?」
「ほう?少しは国王らしくなられたようで。話は簡単です。彼らと同盟を結びお互いの文化を理解し合って頂きたい。」
「確か友好関係を築く事だったな。ふむ・・・わしは構わんぞ。」
話は一気に進むと周囲もざわついたがファイケルヴィは元より将軍ワミールも『トリスト』の人間なのでショウの提案に一切反応する事は無かった。
だがネヴラティークすら口を挟まなかった点だけはリリーも気になる所だ。ここまでほとんどショウの思惑通りに事が進み過ぎていてリリーですら若干警戒する程だったが当の本人達は厳しい指導から解放された安堵に思考は鈍っているらしい。
「そういや俺も同盟って初めてだな。何をすればいいんだ?」
「そうですね。『ボラムス』からは『獅子族』へ食肉の供給を、そして『獅子族』からは優秀な戦士をいくらか送ってもらうのは如何です?」
「何だ。そんな簡単なやり取りで良いのか。」
お互いがいとも簡単に了承してしまうと早速ファイケルヴィが用意させた書記官が小さな机の上で筆を走らせる。
「重要なのは立場が対等だという事です。ファヌル様、よろしいですね?」
「対等?対等だと?!この猿・・・人間とわしとが?!」
やっとここで見た目通りの暴虐さが顔を覗かせたファヌルは立ち上がりガゼルを思い切り見下す視線を送るがその隣にはヴァッツが、自身の隣にはアサドを挟んでアルヴィーヌが座っている。
それが理由かはわからないが再び冷静さを取り戻した獅子王は椅子が壊れる勢いで腰を下ろして腕を組むと今度はショウに鋭い視線を向ける。
「・・・1つ気になっていた事がある。」
「どうぞ。答えられる範囲であれば何でもお答えします。」
「うむ。この国・・・『ボラムス』といったか。そして国王はこのガゼルという人間だな?それがまず解せんのだ。」
この世界ではない、何処かからやってきた『獅子族』は国の概念や文化もかなり後進的だ。だからだろうか、次に発せられた言葉には彼らの本質が多分に含まれていた。
「この場にいる人間達と比べたらガゼルという男は相当弱い。なのに何故こいつが王なのだ?」
これは『獅子族』達が強い者を王として認めて来た価値観からだろう。怒りからではなくあまりにも不可解だと言った様子で周囲に向けて疑問を投げかけている。
「それは人間が純粋な強さだけで王を選んでいないからです。」
「それにしても酷くないか?これならそこの鎧を着こんだ人間の方がまだ強さも威厳も感じる。」
ファヌルはそう言いながらワミールを指さした。確かに彼は『トリスト』の将軍であり何処かの領土を任されてもおかしくない程度の実力と人望は保持している。
「ふっふっふ。ファヌル、王ってのはただ強ければいいってもんじゃない。民や臣下を愛する心が大切なのだよ。」
そこにガゼルが諭すように余裕を見せて告げたのでほとんどの人間がぽかんとした様子で視線を向けてしまう。確かに選出されたり世襲制だったり様々だが後世まで名を残す王が須らく強かった訳ではない。
しかしそれを知ってか知らずか傀儡王と呼ばれる彼が獅子王に説くのはどうなんだ?
強さは言うまでもなく、せめて獅子王に勝る何かを持っている者が発言すればまだ説得力が増すとは思うのだがこの場にそれが出来る人物など限られる。
「確かにガゼルは色々と見劣りする人間ではありますが殺された家族の為、自国を取り戻す為に命を賭けて戦いました。その思いを皆に認められたから王になったのです。英知や武力だけでなく、誇りも強さを測る物差しにはなり得ませんか?」
「・・・・・この人間が、か?う~~~む・・・・・」
ショウの発言にガゼルは若干訝し気な表情を浮かべたがそれ以上にファヌルが大きな前足を顎に当てて至近距離で睨みつける、いや、見つめているのか?
大きすぎる顔と双眸を向けられた彼も流石に恐怖を感じたのか、とぼけた顔と冷や汗を浮かべて視線を全力で逸らしていた。
「それにガゼルは仲間思いだよ。」
決して蛇に睨まれた蛙に助け船を出したつもりはないのだろうがヴァッツも自身の思いを素直に述べるとやっとファヌルも納得したのか顔を正面に向け直す。
「・・・確かに誇りは大切だ。しかし人間か。思っていた以上に難解な生物だな。」
「それを多少学んでいただこうと思ってここに赴いたのです。人間は弱い。だから徒党を組み、掟を作り、皆で栄光を手に掴もうと手を取り合って歩んでいるのです。」
「力無き者達の知恵と誇りか。いや、しかし力を持つ者もいるではないか。う~~~む・・・・・人間とは本当に複雑だな。」
それはヴァッツとアルヴィーヌを指しているのだろう。
2人を見比べながら軽く溜息をついたファヌルは出された生肉を摘まんでぺろりと平らげると物騒な気配を一切霧散させた後、より深く人間社会についての話を聞かせるよう乞うのだった。
それでもあまり長居は出来ない。
翌日ショウは城内外にいる人間達の役割を説明しながら歩き回るとその足は付近の集落にまで伸びる。
「ひぇっ?!」
「きゃぁぁあああ?!」
当然『獅子族』の姿はか弱い人間にとって恐怖の対象にしか見えないのだからあちらこちらで悲鳴が響き渡るもそこは一緒にいた傀儡王ガゼルが軽く説明するだけで国民もすぐに納得したようだ。
(・・・思ってた以上にちゃんと王様やってるんだな。)
昨晩ショウが言っていた事も案外本当なのかもしれない。リリーはスラヴォフィルの命令により傀儡として王に就いたという理由しか知らなかったので意外な光景を目の当たりに考えを改めていると獅子王がある物を紹介されて驚いた。
「な、何だこれは・・・?!青臭くてとても食えたもんなじゃない?!」
それは彼らが育てていたきゅうりだ。時期的にも丁度今が旬で採れたてを一本渡したのだが彼は口に入れた途端吐き出してしまった。
「おいおい。そんな事ないだろ。どれどれ・・・うむ。いい出来じゃねぇか。」
ここでも彼らとの種族差を感じずにはいられない出来事にリリーも全く違う様子の王を見比べて軽く唸る。ちなみにヴァッツとアルヴィーヌには何故味の感じ方に違いがあるのかわかっていないようできょとんと小首を傾げていた。
「ではこちらはどうでしょう?」
以降も適当な農作物を選んでは『獅子族』達に与えてみるも彼らが喜ぶ素振りは見せない。球菜だけは一球をぱくりと口に入れてしゃきしゃきと音を立てて飲み込みはしたが美味しいとは感じていないらしい。
「・・・こんなものを育てて食べるのか。本当に人間とは変わっているな。これを口に運ぶくらいならわしらは野山や草原で何か動物を狩って来る事を選ぶぞ?」
『獅子族』の反応からショウも一瞬目を丸くしていたがすぐに表情を戻すとそちらの分野は諦めたらしい。
「これは後ほどクレイスに丸投げ・・・任せましょう。」
食に関しては彼の方が絶対に上なのだという自覚からか、一瞬放棄するような言い方にも聞こえたがそれだけ彼を頼りにしているという事だろう。うん、そうに違いない。
もしかすると一番難しい問題を後回しにしたショウは次に木々の生えた場所へ案内する。
その傍には加工場も隣接されており今度は材木について探っていくようだ。
「まずは『獅子族』の皆様が独力で何処まで加工出来るかを試してみましょう。ヴァッツ。一本抜いてもらえますか?」
「いいよ!はい!」
相変わらず雑草よりも簡単に大木を引っこ抜く姿には圧巻される。だが今回は体躯の大きな彼らが挑むのだから少しは期待できるのかもしれない。
次に『獅子族』の側近達、そしてアサドが試してみるもやはりしっかり根の張った木を力任せに引っこ抜くというのは切り倒すのと比べ物にならない程難しいらしい。
「やれやれ、不甲斐無い同胞だ。どれ、わしにやらせてみろ。ぐぬぬぬぬ・・・ぬおおおおっ!!」
それからファヌルは後ろ足を大きく開き、しっかりと腰を下ろしてから激しい唸り声と共に全身に力を込めるとヴァッツ以外で初めてその力技をやってのけたのだ。
ただ見た感じでもその労力は雲泥の差で流石の獅子王も無理矢理引っこ抜いて相当力を消費したのか軽く息を切らしている。
「お、おおお?!流石獅子王だな!ヴァッツ以外にこんな頭のイカれた方法が出来る奴が存在するなんて思いもしなかったぜ!」
「はぁ、はぁ。そうだろうそうだろう!もっとわしに畏敬の念を抱いてもいいぞ?」
そして満足した本人とは裏腹にショウはすぐにその方法を排除する事を決定して代替案を考え始める。
「ふむ。やはりヴァッツのようにはいきませんか。でしたら『獅子族』の皆様が使える斧を用意しましょう。」
斧自体がどういったものかもわからない彼らは最初こそきょとんとしていたが説明が進むにつれ、ヴァッツより劣ると判断された事にまたしても若干の不満を爆発させ始めたが1人だけしか出来ない方法を選択すれば王に多大な負担が生じる事になる。
そこを詳しく教えると誰よりもファヌルが納得して頷いていたので心配はないだろう。
「これが斧というものか。」
「はい。ただあなた達は人間より遥かに巨体で力もありますからこれをそのまま大きくした道具を作って献上しましょう。」
ショウも人間社会について詳しく解説する為とはいえ色んな分野に足を運ぶなぁと感心していたが時雨の推論を聞いて納得した。
どうやら彼はより深く人間と交流出来るように、そして同盟間での取引として『獅子族』に選択肢を与える為に様々な文化や技術を教えているのだろうという事だ。
確かに木を一本切り倒すにしても彼らの方がより早く作業が進むはずだ。つまり農業も彼ら自身が食すことは無くともこちらが提供する食肉との取引に持ち込みたいのだろう。
(流石だな。)
リリーは感嘆しか胸に芽生えなかったがその策謀もこちらにヴァッツとアルヴィーヌという破格の存在がいるからこそ可能なのだ。
でなければ基本的に彼らの食料になりかねない人間達が対等に渡り合うのは非常に難しいはずだ。
「『獅子族』達の集落は内陸部なので漁業は大丈夫でしょう。今後はこういったものを食肉と交換して頂ければこちらも採算が取れるというものです。」
ファヌルも巨大な体躯に獰猛な性格を持ってはいるもののショウの企みに反論する事無く素直に知識を吸収しているのは今までにない力を手に入れる為なのか。
そこだけは少し不思議だったがどうやら彼も野望を抱いていたようだ。ショウが全ての解説を終えたと王城に帰還する旨を伝えた時、初めて1つの提案を出して来た。
「待て。まだあの城と呼ばれる建物の作り方を教わっていない。わしはあれが欲しい。」
これにはショウだけでなく距離を置いて見守っていたネヴラティークも驚いていたが確かに彼らの居住は辛うじて雨風を凌げるものだ。
そこで初めて目にした王城はさぞ荘厳で立派なものに映ったのだろう。そして獅子王はどうしてもそれを手に入れたいという。
「ふむ。わかりました。でしたら最後に石切り場を見に行きましょう。」
その要望にすぐ応えるショウには感心する他ないが築城となればリリーですら相当難しいのは理解出来る。果たしてその答えをどこから持って来るつもりなのか。
すぐにでも自分の城が手に入ると勘違いしている獅子王をよそに一行は山岳地帯へ移動すると早速ショウはその切り出し手順や道具、運搬方法などを説明し始めるのだった。
それから日が傾くまで石切りについて学んだ獅子王だったが彼も見た目以上に聡明なのだ。
「ふぅむ・・・・・あれを建てるには相当な時間と力が必要なのだな。」
「はい。ですが『獅子族』の皆様や我々の知恵があれば決して不可能ではありません。」
帰路の途中に腕を組み唸っていたファヌルにショウも深く頷きながら断言すると彼は猫のような好奇心旺盛な表情を浮かべて喜びを見せていた。
「うんうん!オレで良ければ何でも手伝うし!」
「私も~。でもただ働きはしない。『獅子族』の誰か一人が欲しい。今の所アサドがいい。」
ヴァッツとアルヴィーヌも下心の有無に違いはあれど協力を申し出ると獅子王も大きな口を開けて大笑いする。
実際『リングストン』との国境線などはほとんどヴァッツの力で一日かからずに終えたのだから彼が手伝えばそれこそ数日で立派な居城が完成するかもしれない。
そんな妄想をしていたリリーだがここでガゼルがふと素朴な疑問を投げかけた。
「そういやお前達の国は何て言う名前なんだ?」
今まで誰も触れてこなかったのには理由があった。それはショウが彼らの文明がその域に達していないと判断していた為だ。
だがガゼルはその話を聞いていなかったのでついぽろりと口にしたのだがファヌルも気にはしていたのか、太い前足で顎を軽く搔きながら口を開く。
「・・・・・国の名など考えた事も無かったが・・・・・」
生態系の頂点に立っていた『獅子族』だからこそ、完全な統一部族だからこそ気にも留めなかったのだろう。しかし今は環境が変わり、周辺に様々な国家が存在するので今後を考えると『獅子族』達の集落にも名前は必要になってくるはずだ。
「でしたら国王であるファヌル様の名を冠して『ファヌル』という国名はいかがでしょう?」
「・・・良し。では今から我が国は『ファヌル』だ!」
人数的には決して多くは無く、国というより村に近い規模だがそれでも彼らの能力を考えると名乗りを上げても良いのかもしれない。
ショウも彼の背中を後押しするとファヌルは新天地で改めて『獅子族』の繁栄と栄光を誓い、その名を叫ぶ。
こうして別世界からやって来た『獅子族』が新たな知識や出会い、国名までも手に入れた夜は再び『ボラムス』城でささやかな晩餐が開かれたのだが時に偶然とは幾重にも重なるものだ。
「おっす!ここにショウが居るって聞いたからやってきたぜ。っておいおいおいおいおい?!何だこのでっかい獅子は?!?!?」
ショウがこの地にいると知ったカズキは直接『ボラムス』へと足を運んで来たらしい。そして皆が集まる大食堂に足を踏み入れた途端、『獅子族』の姿を見るや否やヴァッツのような反応で喜びを解放すると目を輝かせて駆け寄って来た。
「うむ。わしは獅子王ファヌルだ。お前は人間の子供だな?段々わかってきたぞ。どうやら子供というのは種族に関係なく恐怖よりも好奇心が勝るようだな。」
ヴァッツやアルヴィーヌの反応から自身への畏怖が子供には通じていないと判断したのか、ファヌルも落ち着いて分析を口にするが14歳というのは元服を迎えているので子供か大人か難しい所だ。
「カズキ、まずはあなたもご挨拶を。この方は『獅子族』の王国『ファヌル』の国王ファヌル様です。」
「これは失礼、私は『トリスト』の剣撃士隊隊長、カズキ=ジークフリードと申します。」
それでも目上にはしっかり礼儀作法を通せるのが彼の強みだ。ここは自身も見習うべきだしハルカなどには是非模範として吸収してもらわねばと姉らしい心配をしていたが硬い挨拶が終わるとヴァッツとアルヴィーヌの接し方を見て察したカズキはすぐに素の性格へと戻る。
「それで!『獅子族』ですか?!滅茶苦茶強そうじゃないですか!!早速俺と立ち合ってくれませんか?!」
これは2人が懐く姿から判断したのだろう。敬語と欲望を多分に混在させたせいで言葉使いがおかしな事になっているが彼は決して敬う心を蔑ろにしない。
それをファヌルも十分受け取ったのか、大きな口を開けて大笑いしながら快諾すると周囲は完全に置いてけぼりだ。
「えー。その話はまた明日にして頂くとして。カズキ、私に用事があったのでは?」
「おっと、そうだった。実は『シャリーゼ』南部に現れた『エンヴィ=トゥリア』っていう国が俺とナジュナメジナを宴に招待したいって言っててな。これにどう対処すべきか相談したかったんだ。」
しかし他の任務に当たっていた彼が何故この地に赴いたのか、その理由をしっかり問い質すべくショウが尋ねるとカズキも思い出したかのように答え始めた。
「それは初耳ですね。まさかそのような形になっているとは。」
現在カズキはロークス周辺に現れた蛮族『ジャデイ』に酪農業を教えるので手一杯だそうだが『エンヴィ=トゥリア』は先日多少の衝突があった事、そしてそれに対する非礼を詫びたいという。
なので多忙な上に軽く敵対している相手の招待などを受けていいものかどうか、判断を仰ぐ為に報告しようとしていたらしい。
そして招かれた客の中にはナジュナメジナの名もあり、歓待の祝宴は敵地で行われるというのだから警戒するのも当然だろう。
「俺もさ、俺達だけが招待されるんなら喜んで国内から食い破ろうと考えてたんだけどナジュナメジナのおっさんが一緒って所にきな臭さを感じてたんだよ。最初の衝突はロークスと起こってたし何か企んでるのかなって。」
「ふむ。流石はカズキ、その手の嗅覚は抜群ですね。」
リリーの耳にも世界の情勢は届いていたがその中で『エンヴィ=トゥリア』だけは明確な敵国として認識していた。
であればその誘いを利用して大規模な制圧作戦を展開するのも有りなのか?戦略面にはとんと疎い彼女も2人の会話を聞きながら様子を眺めていると間違いなくショウの表情に真っ黒な笑顔が浮かんだのを見てしまう。
「では折角ですのでガゼルやファヌル様にネヴラティーク様、それとクレイスも呼んで皆で『エンヴィ=トゥリア』を観光しに行きましょう。」
「おお?それってオレも行ける?」
「ええもちろん。彼の国もこの世界に迷い込んで間もないですからね。どんな国なのか、楽しみですね~。」
こういう部分があるからいまいちショウに気心が許せないのだ。といっても既に妹が彼の心を射止めるべく必死で行動しているのを姉はまだ知らなかった。
「相手はわしと同じ境遇な訳か。いいだろう。」
「私も是非お願いします。かなり好戦的な国と聞いていますしヴァッツ様がご一緒であれば物見遊山がてら制圧してしまってもよろしいでしょうし。」
「・・・何か嫌な予感がしてならねぇがお前達が一緒ならまぁいいか。」
将来の義弟がまたとんでもない提案をしたお蔭で自分達はともかく、『ラムハット』から帰国して満足な休息もないクレイス達が再び駆り出される事に若干の憐憫を抱いていたがそれ以上に喜んだヴァッツが先走ると食卓や柱の影を使って友人とその仲間を一気に呼び寄せてしまう。
「へっ?!こ、これは『ヤミヲ』様の力?!」
「あれ?!何ここ?!あ!!『獅子族』だ!!可愛いぃぃぃ!!」
「ヴァッツ様、これは一体・・・?」
「お姉様、相変わらずお元気そうで・・・その、私も『獅子族』の方と触れ合っても?」
「ああああ?!せ、折角クレイス様と2人きりだったのに・・・」
「・・・ヴァッツ。私はあなたの良く分からない力に巻き込まれたくないんだけど。」
いつもクレイスの傍にいる4人に今回は『獅子族』に会いたがっていたハルカまで呼び出すと晩餐会は更に賑わいを超えて騒々しくなっていく。
「これで皆とまた旅が出来るね!明日出発する?楽しみだなぁ!」
考えてみれば彼ら4人が揃って移動する等3年前のあの時以来だろう。特にヴァッツは馬車での移動が楽しいらしく、そこに友人全員が揃えば満面の笑みを浮かべるのも大いに理解出来る。
「そうですね。では明朝ロークスへ向けて出立し、ナジュナメジナ様と合流してから『エンヴィ=トゥリア』へ向かいましょう。」
冷静だったクレイスとノーヴァラットだけは事情を詳しく聞いて納得したが他の面々はわかっているのだろうか。
獅子王ファヌルもハルカとイルフォシアという少女達に優しく撫でられた事への満足感が強かったのか、ヴァッツが保有するもう1つの破格『闇を統べる者』には全く気が付いていない。
「前は途中までしか一緒に旅が出来なかったもんね!楽しみだねリリー!」
しかし笑顔でそう言われるとリリーも細かい事などどうでも良くなってくる。
「そ、そうですね。私も楽しみです。な、時雨?」
こちらも既に観光気分に中てられていたのだろう。彼の喜ぶ姿に感化されて友人を巻き込むと時雨もまた困った表情に笑顔を浮かべつつ騒がしい晩餐の場を眺めていた。
本来であればクレイス達は空を飛べるのでもっと早く目的地に到着出来るだろう。
だが今回の『エンヴィ=トゥリア』行きは宴への招待でも観光という名の偵察でもない、その旅を楽しむ事こそが本命なのだ。
よって誰よりも優先されなければならないヴァッツの希望を叶えるべく用意された馬車は多頭引きで10台にも上ってしまう。
「ふむ・・・悪くはないか・・・」
その理由の1つが『獅子族』だ。彼らは体が大きいのでどうしてもそれに見合った馬車が必要になり、ショウも『ボラムス』までの旅を考えてすぐに彼ら専用の馬車を作らせていた。
それでも獅子王が乗る馬車は彼1人と小柄な少女3名までが限界で他に側近である『獅子族』2人とアサドの3人を乗せてしまえばその馬車も一杯一杯だ。
後は残り8台に旅の道具と他の面々が乗り込むといよいよ久しぶりの旅らしい旅が始まる、のだが1つだけ懸念材料があった。
「み、皆様とてもお元気でいらっしゃいますね。」
それはネヴラディンの娘ルバトゥールだ。流石に昨日の流れから置いていく訳にもいかず一緒に向かう事となったのだが彼女だけは極端に弱い。
ガゼルも大したことは無いが兵卒数人程度になら何とか切り抜けられるだろう。もし『エンヴィ=トゥリア』が何かしらの攻撃を仕掛けて来た場合、誰よりも先に彼女の身を護らなければならないはずだ。
いくらヴァッツが一緒だとはいえそこだけは胆に銘じておく必要はある。
ちなみにリリーは時雨とルバトゥールの3人で馬車に乗っており、ヴァッツはクレイス、カズキ、ショウの4人で、クレイスを囲う女性3人で1台、ガゼルはネヴラティークと、アルヴィーヌ、イルフォシア、ハルカと獅子王が4人で乗る形となっていた。
「わ、私ももっと子供っぽい仕草をすればヴァッツ様に振り向いて頂けるのでしょうか?」
その質問に答えられる術はない。何故ならリリーも時雨も未だヴァッツがそういう意識に目覚めていないと認識しているからだ。
「・・・それはこっちが聞きたい・・・ですわ。」
最近は許嫁という立場に慣れてきたせいか気を抜くとつい素の自分が出てしまう。時雨もその辺りに気が付いているのかこちらに白い眼を向けて来るが彼女も思う所があるのか徐に口を開くと持論を展開する。
「ヴァッツ様はとても純粋な御方ですから。子供っぽさというよりも真っ直ぐな心で向き合えばきっと意識して頂ける、かと思います。」
いや、どちらかというとこれは時雨の願望か。改めて彼女の気持ちを理解したリリーは思わず視線を外に移すがルバトゥールは納得したのか深く頷いていた。
ロークスは『ボラムス』王城から近いとはいえ流石に一日では辿り着けない。
何泊かの計画はしていたのだが道中ヴァッツ達も車内で様々な情報をやり取りしていたらしい。
日が落ちるまでまだ時間に余裕がある中、野営地に停めた馬車の中からクレイスが真っ先に降りてくるとすぐに調味料の箱を漁り始めた。そして準備が整うとファヌルに近づいて軽いやり取りを始める。
「ショウから色々とお話を伺ったんですが、ファヌル様は生肉しか食べないというのは本当ですか?」
「うむ?まぁそうだな・・・人間が料理?したものはどうにも口に合わん。あと草を食うのも勘弁だ。」
どうやら『獅子族』の食について相談されていたようだ。ショウは彼らが一日でかなり大量の肉を消費する事から何とか他の物も食べて貰えないかと考えていたらしい。
「でしたらまずはこれを召し上がって頂けませんか?」
そう言って用意したのは普通の干し肉だ。傍にいた王女姉妹やハルカも不思議そうにそのやり取りを眺めていたが獅子王もこちらにかなり気を許しているお蔭で渋々ながらそれを口に運ぶ。
「ふむ・・・確かに肉だが・・・不思議だな。ほとんど血の味がしないぞ?」
人がそのまま咬むには苦労するそれを猛獣の咬筋力は軽々と咀嚼し飲み込む。ただ味に不満を漏らさなかったのでここまではクレイスの予想通りなのだろう。
「血の味か・・・なるほど。ではこれとこれと、あとこれも少しで良いので舐めてみてもらえませんか?」
次に彼が用意したのは様々な調味料だ。それらを小さな匙で掬って小皿に分けたものを渡すとファヌルもクレイスの行動に興味を持ち始めたのか言われるままに大きな舌でぺろりと舐めとった。
「・・・これはしょっぱいな!これは甘い!これは・・・何だこれは?」
反応から塩と砂糖を用意したのはわかる。最後の1つは獅子王も目を丸くして驚く事しか出来なかったがそんなやり取りだけで何かを掴んだのだろう。
「わかりました。今夜は僕がファヌル様の料理を作ってみます!」
クレイスは目を輝かせて元気よく宣言するとファヌルも子供をがっかりさせたくない一心から渋々頷いていたがその夜は『ボラムス』で行われた晩餐以上に盛り上がりを見せるのだった。
「こ、これはっ?!これが美味いという事かっ?!」
あれからクレイスは従者の2人にアサドの反応も確認しながら料理を作り上げた。それは普段町娘として家族の料理を作るリリーからしてもかなり異様なものだった。
というのも彼は『獅子族』に提供した料理の全てをかなりの薄味で仕上げたのだ。それでも焼肉に汁物、野菜炒めは彼らに大好評だ。
「流石だなクレイス。でも何であんなに良い反応をしてるんだ?俺達と食べてる料理は一緒だろ?」
「うん。でも彼らは生肉しか食べてこなかったんでしょ?だから僕達より味覚が新鮮で過敏なんだよ。」
つまり彼らの舌には味が濃すぎたのが原因らしい。それを察したクレイスは味付けをとても薄いものにしただけでなく、野菜も食べてもらおうと独特の生臭さを取る為に火を通して料理に仕上げた訳だ。
「ふむふむ。こうして食べると野菜というのも悪くない。いや、それどころか肉も汁も、全てから未知の味がする。クレイスといったか?お前は凄いな?!是非わしの最側近にならんか?!」
「そ、それは駄目です!!」
「お褒めに預かり光栄です。しかし僕も近々王位を継がねばなりませんので。」
すっかり『獅子族』の触り心地に心を奪われていたイルフォシアが慌てて反対するとクレイスも笑いながらその申し出を丁重にお断りする。
3年前の旅では考えられない程成長した彼の姿に姉御肌のリリーも誇らしいような気分に浸るとルサナ達も自分の事のように喜んでクレイスに抱き着いていた。
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