闇を統べる者

吉岡我龍

綻び -王位の行方-①

 彼女の心を考えると一刻も早くあの場所から離れた方がいい。
クレイスはただそれだけの理由で飛空魔術に風の魔術を重ねて展開すると数分でキールガリの館へ到着していた。
すると彼らの眼からは突然現れたように見えたのだろう。一瞬何が起こったのかさっぱりわからない様子で佇んでいたが今は時間が惜しい。
「僕です。クレイスですよ。夜分にすみませんがキールガリ様に緊急だとお伝えください。」
その声と顔を見てやっと理解した衛兵達も慌てて中に走っていくとすぐにこちらも室内へ通される。それから寝間着姿のキールガリが慌てて飛び込んできたのだから2人も驚きつつ笑顔を見せた。
「な、何だ何だ?!何があったのかね?!」
「はい。少し、いえ、僕が思っていた以上の事情があったものですから。ともかく今はツミアの身を清める為に湯場を貸して頂けませんか?」
こちらが思った以上に落ち着いていたのでキールガリも要望を快く引き受けるとまずは召使い達に連れられてツミア自身が戸惑った様子で退室していく。

「・・・・・それで。その事情というのは何かね?こんな時間に2人だけで戻って来たのだから相当な理由が・・・まさか?!他の方々はどうした?!」

「はい。『ラムハット』にイルフォシア達を襲えるような人物はいないでしょうし、何よりナジュナメジナ様が釘を刺されておりました。彼女達は心配無用です。」
最も重要な報告を聞いて安心したキールガリは最悪の事態ではないと捉えたのか、2人になると普段の表情に戻して早速経緯のやり取りを始める。
「ふむ。しかしツミア様を連れ戻したという事は・・・2人の姉を暗殺したのか?」
「いいえ。それはまだ・・・ですが彼女達の関係について僕達は勘違いをしていたようです。」
「ほう?」
こうして彼女が湯場で疲れを癒している間に姉妹の根深い確執と国王が行方不明になってからの過酷な環境を説明するとキールガリも唸って聞き続けた。

「ふ~む・・・・・これは想像以上に面倒だな。」

ところが彼はツミアの辛い身の上話ではなくその先について悩んでいるようだ。その姿を見て自身の短絡的な行動に少しばかり羞恥を感じたクレイスは若干耳を紅潮させていたが彼は腕を組むと静かに語り出した。
「まず『ラムハット』の国王ハーデムだが。彼の訃報や葬儀については一切聞いていない。」
「はい。それは長男アクバール様と同じく暗殺されたからではないでしょうか?」
「クレイス様。国王が崩御されるというのは例えどのような死であろうとも必ず国民や周辺国に周知させる必要があるのだよ。」
「はぁ・・・」
ツミアの境遇に目が行きすぎて彼の言葉に重要性を感じなかったクレイスが気のない返事を返すとキールガリは居住まいを正した後、まるで国王と宰相のようなやり取りが始まった。

「まず王位というのは国王が健在である限り絶対に立場は揺るがない。ところがその所在が行方不明のまま長男は暗殺され、残った妹2人が王位を争っているというがそれを誰が認めるのかね?」

「えっ?っと、それは宰相様や国民の祝福が必要、かな?と思います・・・」
『ラムハット』の話は自分に置き換えるには複雑すぎて疑問形で受け答えするクレイスにキールガリも頷きながら捕捉を加えて来た。
「そうだ。王族という血筋だけでなく臣下に国民、特に重臣達を納得させなくてはならない。だがその前に最も必要な事がある。それは玉座が空位でなくてはならないという点だ。」
「空位・・・空位ですか。ふむ・・・しかし現在ハーデム様は崩御は伝えられておらず行方不明扱い・・・そうなるとどうなるのでしょう?」
「詳しい狙いまでは分からんが今のままでは間違ってもどちらかが王になる事は無い。それはツミア様にも言える事だ。」
どのような形にせよ現国王が玉座を退いてからでないと話にならないらしい。なのに2人の姉は国内に混乱と貧困をまき散らしてまで王位を争っている。
その理由がわからない故にキールガリは面倒だと断言したのだ。

「クレイス様。そもそも2年前にツミア様を逃がす手引きをしたのは誰かご存じか?」

「・・・・・いえ。」
彼と問答していくと感情論とは別の、嫌な汗を流す思考が脳裏を過る。これは他に隠されている事実があると理解しているからだろう。
「今夜は2人ともこの館でゆっくり体を休めるが良い。そして『ラムハット』に戻ったら君は姉達への断罪より先に国王の行方を探るのだ。」
まるでショウのように断言するキールガリに反論するつもりも余地も無かった。一体彼の地では何が起こっているのか。
その後クレイスも湯場を借りて汗を流しながら考えても何も分からない。ただツミアと豪奢な部屋で再会した後、1つだけ解決しておきたい事があったので彼は遠慮なく召使いに用事を申し付けるのだった。

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