【朗報】体型に自信のなかったこの俺が、筋トレしたらチート級の筋肉になった! ちょっと魔王倒してくる!【ラノベ】

ねこ飼いたい丸

第三十二話 魔王城の門番


 空はドス黒い雲で覆われ、稲妻が雷鳴とともに地上に降り注いでいる。
 数多あまたのドラゴンが火を噴きながら空を飛び回っている。


 ふたりの目の前には漆黒の巨大な城がそびえ立っていた。


 魔王城だ――

 ふたりは確信する。

 城全体から禍々まがまがしい魔力が溢れでている。

 体にへばりつく湿ったドス黒い魔力。

 ふたりは手を繋いだまま、魔王城の禍々しさに言葉を失う。
 ただ黙って魔王城を見つめていた。

「ちょっ、いつまで手握ってるのよっ!! 離しなさい、この変態!!」

 手をずっと繋いでいることに気づき、ルナは慌ててオリバの手を振りはらう。

「いや、ルナが手を繋ごうって言ったんだろ……」

「それは水の中だけの話よ! 私の手を握れたことを一生の励みにしておきなさい!!」

 ルナは顔を赤らめ、ひとりずしずしと魔王城へ向かって進みだす。
 オリバもそのあとを追う。

 ルナが突然止まる。
 大きく目を見開いて前方を見つめている。

 オリバもルナの視線の先に目をむける。

 魔王城の扉の前に巨大な魔物が立っている。
 馬の首から上が人間の上半身に置き換わった魔物・ケンタウロスに似ている。

 しかし、三体の人型の魔物の上半身がお互いに背中を合わせる形で、ひとつの馬の体に繋がっている。
 三つの頭、六つの腕、そして四本の足をもつ魔物。
 筋骨隆々で頭の両サイドに角が生えている。

 三体の魔物の体の色はそれぞれ違う。
 真ん中は銀色、右側は赤色、左側は青色だ。

「……許さない。あんただけは許さない! 死ね! 死になさいっ!!」

 ルナは我を失い叫ぶ。
 魔物に向かって全速力で走りだす。

「攻撃魔法! エルフの矢!!」

「攻撃魔法! 大地震!!」

「攻撃魔法! オオカミの牙!!」

 ルナは次々と魔法を唱えながら敵に接近していく。

 しかし、ルナの魔法は真ん中の魔物の体の中に吸い込まれていく。
 まったく効いていない。

「落ち着け、ルナ! 魔力の無駄遣いだ。全然効いてないぞっ! 魔王城を守るほどの魔物だ。不用意に近づくとやられるぞっ!!」

 オリバはルナを後ろから抱きしめ、無理やり止まらせる。

「離してっ! 離しなさいっ!! あいつだけは絶対にこの手で倒す!! あいつが……あいつがお父さんとお母さんを奪ったんだっ!!」

 ルナは目に涙を滲ませながら、オリバの抑止を振り払おうともがく。

 それでもオリバはルナを離さない。
 冷静さを欠いたルナに勝ち目はない。

「ほぅ、ひさしいな。お前はいつぞやのエルフの娘か?」

 右側の赤い魔物が口を開く。

「そうよ……あんたを封印したせいでお父さんとお母さんは死んだのよ! あんたが殺したのよ!! ……絶対に許さない。この命に代えてでも今ここであんたを倒す!!」

 ルナはオリバに抑え込まれながらも、魔物を睨みつけて怒鳴る。

「やはりそうか。あのふたりは覚えているぞ。なかなか手強てごわかったな。よもやこの俺が、エルフごときに封印されるとは思わなかったぞ」

「うるさい、黙れ! 攻撃魔法! エルフの矢!!」

 ルナの前に魔法陣が現れた。
 そこから無数の光る矢が魔物に向かって放たれる。

 真ん中の銀色の魔物がその矢を全身で受ける。
 腕組みをしたまま防御すらしない。

 矢は魔物の頭や胸に当たるが、そのまま体の中に吸い込まれていく。

「無駄だ。兄貴に魔法攻撃は効かぬ。魔法無効特性の持ち主だ」

 右側の赤い魔物が平然と告げる。

「兄貴? お前らは兄弟か!? 俺はオリバ・ラインハルト。大魔王を倒しに来た!」

 オリバは魔物を睨む。

「ほぅ。オリバとやら、いい筋肉だ。われら筋肉魔人にも引けを取らぬ完成された筋肉だな」

 真ん中の魔人が顎を撫でながら感心する。

「礼を言おう。だが、筋肉魔人たちよ、お前たちは間違っている! 筋肉は誰かを傷つけるために使うものじゃない! みんなを幸せにするために使うものだ!!」

「ふんっ、笑止千万しょうしせんばん。筋肉とはすなわちパワーだ。何かを破壊するときその真価を発揮する」

 左側の青い魔人がそう言い、近くにあった大きな岩をデコピンで粉砕する。

「とは言え、その完成された筋肉に敬意を表して我らも名乗ろう。俺は筋肉魔人三兄弟の長男・バリンだ。魔法無効特性を持つ。物理攻撃と防御力は最高レベルを誇る」

 真ん中の銀色の魔人がそう言い、地面に落ちている大剣を拾った。
 この魔人に敗北した戦士の遺品だろう。

 バリンはその大剣を自分の胸に突き刺す。
 大きな金属音とともに大剣が粉々に砕け散った。

「俺は次男・リシンだ。最高レベルの水魔法使いだ。俺に物理攻撃は効かぬ」

 左側の青い魔人が続く。

 リシンの右手が青く光る。
 その光を空に向かって放った。

 …………。

 氷漬けのドラゴンが空から降ってくる。

 ドラゴンは地面に激突し、激しい振動とともに爆音をあげた。
 しかし、ドラゴンを覆っている氷にはヒビひとつ入っていない。

「そして俺が三男・ロイシンだ。最高レベルの火魔法使いだ。俺にも物理攻撃は効かぬ。エルフの村ではこの娘の両親に世話になった」

 右側の赤い魔人は左手から炎を出し、氷漬けのドラゴンに向かって放つ。

 氷が溶け、ドラゴンは灰となって風に消えていった。

「ロイシン、あんたは十年前に封印された!! なんであんたがここにいるのよ! エルフの禁忌きんき魔法は絶対に解除できないっ!」

 ルナが叫ぶ。

「ふん、何事にも例外はある。大魔王様が俺の封印を解いてくれたのだ。さらに! 大魔王様の特殊スキルにより、我ら三兄弟を融合させ、最強の魔人にしてくれた。今や我ら三兄弟は筋肉魔人の王・筋肉魔人王だ!!」

 ロイシンはルナを見下ろす。

「そこのエルフの小娘がルナだな? これで全員名乗りが終わった。それでは貴様らふたりには死んでもらおう」

 バリンがそう言うや否や、筋肉魔人王は消え、オリバの目の前に現れた。

 オリバはルナを後ろから抱きしめている。

 バリンはその巨大な拳をふたりめがけて打ち込む。

 オリバはとっさに回転し、背中でバリンの拳を受ける。

「ガフゥ……」

 オリバの口から血が噴きでる。
 初めて物理攻撃でダメージを受けた。

 バリンの拳は硬く重い。
 オリバの『向こう側の筋肉』でさえ、バリンの攻撃は弾き返せない。

「……ルナ、……大丈夫か?」

 オリバはルナを抱きしめながら聞く。

「自分の心配しなさいよっ! バカ!! これじゃ十年前と同じじゃない!! お母さんがその背中で、ロイシンの炎から私を守ってくれたのよ!」

 オリバの腕の中でルナは暴れる。
 その瞳には涙がにじんでいる。

「同じじゃない! 落ち着け!! お前は成長して強くなった。それに俺もいる! 今度は誰も犠牲にならない! そんで封印じゃなくて、筋肉魔人を完全に倒す!!」

 オリバはルナを強く抱きしめたあと、ルナを離した。

 ルナは落ち着きを取り戻す。

「……そうね。今の私はあの頃と違う! 禁忌魔法を使ってでもあいつを道ずれにするつもりだったけど、あいつらごときの虫けらに、このルナ様が犠牲になるなんて自然の摂理に反するわねっ!!」

 ルナの瞳に自信と闘志が溢れる。

 ルナはオリバに回復魔法をかけたあと、筋肉魔人王に向かって杖を突き出し、戦闘態勢に入った。

「ほぅ。この俺の拳をまともにくらって生きている生物がこの世界にいるとはな……。他の筋肉魔人でさえも、俺の拳一撃で仕留められるのだがなぁ」

 バリンは感心したようにまじまじとオリバを見つめる。

「さっきは油断していた。今度はこっちも本気でいくぞ! 俺にはいくつもスキルがある!」

 オリバは自信満々に宣言する。

「面白いっ!! オリバよ、お前の筋肉と俺たちの筋肉、どっちが本物の筋肉かはっきりさせようではないかっ!!」

 バリンは拳を握り、両肘を曲げ、両方の拳を顔の近くに持ってきた。
 ボクシングの基本姿勢・ファイティングポーズだ。
 リシンとロイシンは両手を上に向け、手のひらに魔法を浮かべた。



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