ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜

0o0【MITSUO】

エピローグ ―2041年、もうひとつの渋谷

 
 すべてが、輝いて見えた。
 街も、人も、この街を包む空気も。

「よみがえったな……渋谷」

 榊龍馬は、先の未来と様変わりした街を眺め、つぶやいた。

 ――2039年、渋谷

 そこには高齢者も多いが、ベビーカーを押す母親や若い夫婦の姿も多い。

 当然、核兵器なんて物騒なものが降ってくる気配も、ない。

 出生率が下げ止まったのは、2024年頃の話だった。龍馬たちが2021年にあの行動を起こした後、世代間格差や日本独自の採用慣行の見直し議論が、国会だけでなく、マスコミ、ネットでも盛んに行われるようになったことがきっかけだった。

 年間予算の振り分けも、子育て支援、教育に思い切った予算が振り分けられるようになった。一方、社会保障制度改革にも、ようやく政府が本腰を入れ、ついに2029年にはベーシックインカム制が導入された。

 当初は、年金制度より取り分が減ることになった高齢世代の猛反発があったものの、龍馬のあの最後の演説に影響を受けた若い世代の政治家たちが多く政界入りし、法案成立と実施の原動力となった。

 また、新卒一括採用も新卒後3年間は新卒とする制度に改められ、この国の若者の就職も随分、柔軟に変化した。さらには大学までの教育費も無償化された。なんと、龍馬たちが要求した政策は、ほぼ概ね10年以内に実現してしまったのだった……。

 不思議なことに、あれ以来、死神(天使?)からのコンタクトも一切なかった。20年前の決戦の日、世界の終わりを覚悟した龍馬だったが、世界はそのまま何もなかったかのように続いた。

 ただ唯一、あの日、龍馬の自宅のカレンダーにだけは、変化が見られた。

『GAME OVER』

 そう赤く毒々しい文字とドクロが描かれていた書き込みは、

『CONTINUED』

 という文字に変わり、その周囲に天使の羽のようなイラストが描かれていた。

 ヤツは、死神だったのか、天使だったのか? 

 未だわからないが、今では天使だったと思う気持ちの方が強い。おそらく、ヤツこそが、途方もない数の人々が死んだあの未来をじつは一番憂いていたのではないだろうか? だからこそ、20年前に龍馬をタイムリープさせるなんていう面倒な奇跡を起こし、未来の人々を救ったのではないか? すべては憶測だが、そんな気がしてならなかった。

 だから、結果的に龍馬はこの時間軸での20年を改めて生きた。もちろん、母との別れは二度目も辛いものとなった。しかし…… 

「――パパー!」
 
 そう一生懸命叫び、こちらに駆けてくる愛娘まなむすめに龍馬は目を細めた。

 その背後には、愛する妻の姿もある。碧だ。

 龍馬と碧が結婚したのは5年前。この未来では、ふたりが別れることはなかった。

「またかわいくなったな? のぞみちゃん」

 そう龍馬を小突くのは桐生だった。希とは龍馬の娘の名前だ。

 桐生と龍馬はあれ以来、親友となって久しい。

「ホントホント、あれは美人になるぞ〜。ま、うちのコには敵わないだろうけど!」

 桐生とは反対側の龍馬の隣には、東海林が立っていた。

 さらにその横には、なんとお腹が大きくなった百武が立っていた。

 東海林と百武はあれからしばらく後、付き合う間柄になり、長い交際期間を経て2年前についに結婚した。そして、百武のお腹には、今、東海林との第一子が宿っている。

「希ちゃーん! 碧さーん!」

 百武は、そう叫ぶと碧と希に笑顔で手を振った。

 もうそこに、あの頃のようにどこか儚げで、不安そうな面持ちは、ない。東海林の影響か、本当に幸せそうで自然な笑顔が溢れていた。 

 まもなく全員が合流すると、5人は希を囲むようにして微笑んだ。

「今日、パパたち、どーそうかい?」

 希が聞くと、龍馬は答えた。

「あぁ、そうだよ。県立南北高校生徒会20年目の記念同窓会だ!」

 そして、龍馬は希にそっと耳打ちした。

「――内緒なんだけどね。じつは、パパたちは未来を変えたヒーローなんだ」

 すると、希は顔をくしゃくしゃにして笑った。


〈終〉

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