ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜
6日目(19)―真の要求
「――いいでしょう。こちらが話した後、改めて今国会での議論についてはお聞きします」
団は、内心胸を撫でおろした。
「では、我々が国会でご議論いただきたいのは以下の四点です」
その声に、団は無言でうなずく。
「――その一。現行の年金制度の段階的な廃止による、世代間格差の解消」
「はっ、廃止?」
団の声は、思わず上ずった。
「まずは黙って聞いていただけますか? 総理。こちらには、対案があります。それが次の議題です」
団は渋々、うなずいた。
「――その二、年金、生活保護に代わる新たなセーフティーネットとして、社会保障の一括の受皿となるベーシックインカム制の導入」
「ふっ。そうか、ベーシックインカム論者か……空論だ! 財源はどうするんだ!」
団は、またぶつぶつとつぶやいた。
「総理、まるであなたが嫌悪する野党の野次議員と同じじゃないですか? 人の話は黙って聞く。これも親に教わりませんでしたか?」
団は、苦々しい表情で押し黙った。
「ちなみにその財源ついては、現在ある年金積立金を原資にしつつも、最終的には完全な税方式に移行するのがよいと考えます。また、これにより年金機構や各自治体の生活保護の運営コストも大幅にカットできると考えます。が、あくまでも中身については国会議員の先生方のご議論に委ねます」
「……」
団は、黙ったままだった。
「――その三、新卒一括採用の廃止および就職協定の見直し。具体的には、就職活動は原則卒業後とし、卒業後三年間は新卒扱いとすること」
龍馬は言葉をここで区切り、再び続けた。
「現行の新卒一括採用は、就職する年の景気に大きく左右され世代差が生まれやすい。卒業後三年間は、新卒扱いにするなど慣行を改めればこの状況は大きく改善されると考えます。また、実質、大学3年の終わりから大学4年の半ばまでがほぼ就職活動に費やされる現状から、大学の4年間をすべて勉学に費やすことができるよう変われば、学力低下の歯止めにもつながるかと」
「――最後に、その四。大学までの教育費無償化」
龍馬はさらに続けた。
「わが国の高い教育費が子供を作ろうという親の気持ちにブレーキをかけ、少子化の要因のひとつとなっているのはもはや疑う余地はない。加えて、奨学金返済などで苦しむ若い世代は、なかなか結婚に踏み切れないなど、教育費がもたらす負の連鎖も少子化を加速させている。言うまでもなく、教育は国の礎だ。少子高齢化し、生産人口が減少する中、国力を保つためには生産性の向上が不可欠だ。そのために、教育は最も効果的な投資だと考える。この国の持続可能な発展を思えば、まずはここに投資すべきだと我々は考える。以上だ」
これら四点は、じつは龍馬が総理になった際、実行しようと考えていた政策である。ゆえにこの提言は、龍馬自らの公約の20年の先取り、先出しでもあった。多少、この2018年という時代に合わせ微調整したところもあったが、龍馬があの核攻撃を受けた日の演説で訴えようとしていた内容に極めて近かった。
「…………」
龍馬が話し終えると、団はしばし沈黙した。
そして、ここで「わかった、今国会で議論しよう」と答えるリスクをはかっていた。とりあえず、この場はそう答え、人命を救うための方便だったと後から取り消せばいいとも思ったが、龍馬の上げた政策があながち頓珍漢なものでなく、むしろ若い世代を中心に支持を集めそうな政策であったため、追ってここでの返答が野党やマスコミに言質として利用されないかとも計算していたのだったが、そうやって黙考している団総理の表情は、見ようによっては言葉が出ずに困っているようにも、ひどく狼狽しているようにも見えた。
しかし、次の瞬間。
――!
突如、ハーバースクエアの電源がすべてダウンした。
それは、菱川の最終手段が発動されたことを告げる狼煙でもあった。当然、501会議室も暗闇に包まれ、中継画面も龍馬側の半分だけが急に真っ黒になった。同時に、龍馬のヘッドセットに緊迫した百武の声が聞こえてきた。
「こちら05。1階に特殊部隊が10名ほどで突入してきました! おそらく、SATだと思います! ほぼ同タイミングで、すべての監視カメラにアクセスできなくなりました。SATがハーバースクエアの電源を意図的にダウンさせた可能性が高いです」
龍馬は、すぐさまカメラの画角から外れると、自らの手で配信用のノートPCをパタンと閉じた。この瞬間、ハーバースクエアから百武への映像配信が停止。これにより、映像、音声、両方の配信が途切れ、龍馬側の配信画面は、ただの無音の黒い画面に切り変わった。テレビ放送もネット配信も、残り半分に団総理のみが映し出されている奇妙な状態になった。
最初、団総理も事態を飲み込めていなかったらしく、
「どうした? いったい、どうした! なんとか言え!」
カメラ奥のいるスタッフに苛立って怒鳴り、その音声がそのまま放送されてしまった。しかし、直後に官邸スタッフが総理の音声を意図的に切り、以後、しばらく総理がカメラ奥のスタッフとやり取りする映像のみが放送され続けた。だが、まもなくその映像自体も、消えた。
――龍馬と団総理の直接対話は、こうして唐突に終わりを告げた。
団は、内心胸を撫でおろした。
「では、我々が国会でご議論いただきたいのは以下の四点です」
その声に、団は無言でうなずく。
「――その一。現行の年金制度の段階的な廃止による、世代間格差の解消」
「はっ、廃止?」
団の声は、思わず上ずった。
「まずは黙って聞いていただけますか? 総理。こちらには、対案があります。それが次の議題です」
団は渋々、うなずいた。
「――その二、年金、生活保護に代わる新たなセーフティーネットとして、社会保障の一括の受皿となるベーシックインカム制の導入」
「ふっ。そうか、ベーシックインカム論者か……空論だ! 財源はどうするんだ!」
団は、またぶつぶつとつぶやいた。
「総理、まるであなたが嫌悪する野党の野次議員と同じじゃないですか? 人の話は黙って聞く。これも親に教わりませんでしたか?」
団は、苦々しい表情で押し黙った。
「ちなみにその財源ついては、現在ある年金積立金を原資にしつつも、最終的には完全な税方式に移行するのがよいと考えます。また、これにより年金機構や各自治体の生活保護の運営コストも大幅にカットできると考えます。が、あくまでも中身については国会議員の先生方のご議論に委ねます」
「……」
団は、黙ったままだった。
「――その三、新卒一括採用の廃止および就職協定の見直し。具体的には、就職活動は原則卒業後とし、卒業後三年間は新卒扱いとすること」
龍馬は言葉をここで区切り、再び続けた。
「現行の新卒一括採用は、就職する年の景気に大きく左右され世代差が生まれやすい。卒業後三年間は、新卒扱いにするなど慣行を改めればこの状況は大きく改善されると考えます。また、実質、大学3年の終わりから大学4年の半ばまでがほぼ就職活動に費やされる現状から、大学の4年間をすべて勉学に費やすことができるよう変われば、学力低下の歯止めにもつながるかと」
「――最後に、その四。大学までの教育費無償化」
龍馬はさらに続けた。
「わが国の高い教育費が子供を作ろうという親の気持ちにブレーキをかけ、少子化の要因のひとつとなっているのはもはや疑う余地はない。加えて、奨学金返済などで苦しむ若い世代は、なかなか結婚に踏み切れないなど、教育費がもたらす負の連鎖も少子化を加速させている。言うまでもなく、教育は国の礎だ。少子高齢化し、生産人口が減少する中、国力を保つためには生産性の向上が不可欠だ。そのために、教育は最も効果的な投資だと考える。この国の持続可能な発展を思えば、まずはここに投資すべきだと我々は考える。以上だ」
これら四点は、じつは龍馬が総理になった際、実行しようと考えていた政策である。ゆえにこの提言は、龍馬自らの公約の20年の先取り、先出しでもあった。多少、この2018年という時代に合わせ微調整したところもあったが、龍馬があの核攻撃を受けた日の演説で訴えようとしていた内容に極めて近かった。
「…………」
龍馬が話し終えると、団はしばし沈黙した。
そして、ここで「わかった、今国会で議論しよう」と答えるリスクをはかっていた。とりあえず、この場はそう答え、人命を救うための方便だったと後から取り消せばいいとも思ったが、龍馬の上げた政策があながち頓珍漢なものでなく、むしろ若い世代を中心に支持を集めそうな政策であったため、追ってここでの返答が野党やマスコミに言質として利用されないかとも計算していたのだったが、そうやって黙考している団総理の表情は、見ようによっては言葉が出ずに困っているようにも、ひどく狼狽しているようにも見えた。
しかし、次の瞬間。
――!
突如、ハーバースクエアの電源がすべてダウンした。
それは、菱川の最終手段が発動されたことを告げる狼煙でもあった。当然、501会議室も暗闇に包まれ、中継画面も龍馬側の半分だけが急に真っ黒になった。同時に、龍馬のヘッドセットに緊迫した百武の声が聞こえてきた。
「こちら05。1階に特殊部隊が10名ほどで突入してきました! おそらく、SATだと思います! ほぼ同タイミングで、すべての監視カメラにアクセスできなくなりました。SATがハーバースクエアの電源を意図的にダウンさせた可能性が高いです」
龍馬は、すぐさまカメラの画角から外れると、自らの手で配信用のノートPCをパタンと閉じた。この瞬間、ハーバースクエアから百武への映像配信が停止。これにより、映像、音声、両方の配信が途切れ、龍馬側の配信画面は、ただの無音の黒い画面に切り変わった。テレビ放送もネット配信も、残り半分に団総理のみが映し出されている奇妙な状態になった。
最初、団総理も事態を飲み込めていなかったらしく、
「どうした? いったい、どうした! なんとか言え!」
カメラ奥のいるスタッフに苛立って怒鳴り、その音声がそのまま放送されてしまった。しかし、直後に官邸スタッフが総理の音声を意図的に切り、以後、しばらく総理がカメラ奥のスタッフとやり取りする映像のみが放送され続けた。だが、まもなくその映像自体も、消えた。
――龍馬と団総理の直接対話は、こうして唐突に終わりを告げた。
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