ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜

0o0【MITSUO】

6日目(2)―静かな闘志

 
 ――10時30分

「こちら05。学生5名が1階入口を通過。会議参加者だと思われます」

「こちら01。了解」

 龍馬は、この時すでに全国生徒会会議の会場である、ハーバースクエア5階の501会議室に入っていた。そしてこれから入ってくるであろう最初の生徒たちに備え、小型のヘッドセットを耳から取ると、ズボンのポケットにしまった。

 まもなく、百武が告げた通り5名の生徒が501会議室に入ってきた。

「おはようございます!」

 龍馬は、入ってきた生徒たちに持ち前のさわやかな笑みで挨拶した。

「あれっ? 一番乗りじゃなかったか。ひょっとして君は……幹事校生の――」

 5名の中でもリーダー格と思われる生徒が龍馬の前に歩み寄り、右手を差し出し言った。

「――はい、都立港舘高校の生徒会副会長の榊龍馬です」

 龍馬は、その手を握り返し答えた。

 全国生徒会会議は、主に昨年の参加者で構成される5名ほどの「実行委員」が会議全体を取り仕切る。しかし、委員の中には遠方の者もいるため、会場に最も近い高校の参加者が「幹事校生」として事務的な準備を手伝うのが慣例となっていた。今回の会議では、龍馬の通う都立港舘高校がまさにその「幹事校」であった。

 また、会場である区営の貸会議施設ハーバースクエアは港舘高校と同じ区にあり、距離的にも徒歩圏内であった。当然、そういった地の利を活かせる事情も、龍馬がこの会議を作戦決行の場に選んだ理由のひとつだった。

「実行委員長の茨城県立第一北高校の近藤真一だ、よろしく」

 リーダー格と思われた生徒は、やはり実行委員長だった。実行委員長というのは会議を取り仕切る実行委員の中のトップであり、本会議における議長でもあった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ところで、おたくの会長の……そうだ! 小暮さんは?」

 まさか小暮玲香のことを聞かれるとは思っていなかったので、龍馬も聞き返した。

「……うちの会長の小暮、ですか?」

「そうそう、小暮さん!」

「元々は参加予定だったんですが、じつは急遽、都合がつかなくなってしまいまして――」

「――ひょっとして君は丸投げ・・・されたのかい?」

「そんなことは……」

 すると、近藤が龍馬に耳打ちして言った。

「ここだけの話、あの奔放ほんぽうな姫君の下だと君も大変だろ?」

「いや、まあ……」

 龍馬がお茶を濁すと、近藤は笑いながら言った。

「じつはね、昨年の会議の時、俺、小暮さんと同じチームだったんだよ。君はよく知っていると思うけど、まぁ、彼女の発言はちょっとアバンギャルドというか破天荒はてんこうでね……意見の取りまとめには苦労させられたよ」

 龍馬には、その様子が目に浮かんだ。

「それも含めてウチの会長のキャラクターでして……どうかご容赦を」

「いやいや、むしろ楽しかったんだ! 今回も会えれば、きっと楽しいだろうなと思っていた。でも、不参加なんだね。それは残念だ。でも、どうかよろしく伝えてくれ」

「もちろんです」

「しかし、榊くんだっけ? 君は打って変わってしっかりしたキレ者のようだね。期待してるよ。この会議、大いに楽しもう!」

 近藤は、そう言うと一緒に来たおそらく他の実行委員と思われる生徒らの元に戻っていった。
 
 近藤の第一印象を、龍馬は悪くないと思った。初対面の龍馬にもフランクに親しみを持って接し、昨年はあの小暮玲香と同じチームにありながら意見をまとめ上げたというのだから度量と指導力もありそうだ。

 また、龍馬個人的には、今年の玲香の「丸投げ」を見抜いていたのもポイントが高い。人を見る目もありそうだ。さすが、全国の会長の中の会長と言ったところか。
 
 あるいは、彼なら……。
 
 龍馬はできれば近藤はじめ会議に参加する生徒を「人質」でなく「味方」につけたかった。だから、この近藤という生徒の指導力に密かな期待を寄せたのだった……。


 ――11時30分

 すでに会議に参加する生徒は全員、501会議室に入っていた。龍馬も含め、生徒数は総勢44名。すでに席の前後左右の生徒同士でささやかな会話も始まっていた。

 一様に笑顔が目立つ。住んでいる場所も、制服もばらばらな全国の生徒会役員が一同に会すこの空間は、生徒たちにとってある種の非日常体験で、みな少し興奮ぎみの様子だった。

 会場の最後列、壁際の席で、龍馬はその様子を静かに眺めていた。すると、龍馬にとって予想外の人物が501会議室に入ってきた。

 教育長の柳田だ。その後には、やはり校長の定岡が続いた。
 
 元々、定岡が来ることは龍馬も知っていた。全国生徒会会議は生徒の自主性を重んじ、基本すべての進行を生徒が主体となり取り仕切る習わしなのだが、まったく大人が不在という訳にもいかず、これも例年、幹事校の校長が便宜的に教師代表として挨拶を行うことになっていた。だから、定岡が来るのは折り込み済みだったのだが、柳田が来るのは予想外だった。しかし、龍馬にとってこれはうれしい誤算だった。

 ――これでふたりを一気に断罪しやすくなった。 

 まもなく、前方の壇上で来賓として柳田の挨拶が始まった。生徒の自主性、全国の生徒会の連帯など、もっともらしいことをうれしそうに語る柳田だったが、その本性を知る龍馬にはどれも白々しく聞こえた。その挨拶に嬉々として何度もうなずき、拍手を送る定岡にも嫌悪感を覚えた。
 
 ――おまえら、笑ってられるのも今のうちだ。

 心の中で、龍馬は静かな闘志を燃やした。

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