ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜
5日目(1)―託された無念
朝の公園には、すでに元気に走り回る子どもたちの声が響いていた。
制服姿の龍馬は、その公園のベンチに腰掛け、ある人を待っていた。まもなく、息を切らせその人物はやってきた。
「――榊くん、お待たせしちゃった?」
声の主は、御影石妙だった。
「いいえ、僕もさっき着いたところです。すみません、朝からお呼びだてして」
呼び出したのは、じつは龍馬の方だった。
明日の作戦決行を控え、龍馬たちがつかんだ陽斗の死の真相を、作戦で公にする前に妙だけには話しておくべきだと考えたからだ。
大義のためとはいえ、ある意味、陽斗の死を利用するようなかたちになってしまうことへの最低限の礼儀は果たしたい。龍馬は、考えていた。
「ううん、いいの。むしろ、ありがとうね。陽斗の件、色々と調べてくれたんでしょ?」
「はい、先輩の死について、できる限り調べさせていただきました。そして……おおよその真相がわかりました」
「えっ!? 真相って……榊くん、どういうこと?」
「こちらを、見ていただいてもいいですか」
龍馬は、鞄からスマホとイヤホンを取り出すと妙に渡した。そして、あらかじめスマホに入れておいた教育長と校長の密談映像を妙に見せた。
それからしばらく、妙は食い入るようにそのスマホの画面を見つめていた。龍馬には、次第に妙の手が震えていくのがわかった。同時に、その表情が明らかな憤りに染まっていくのも。
再生が終わりイヤホンを外すと、妙は怒りを噛み殺したような声音で言った。
「これをどこで……なんて野暮なことは聞かないわ」
「はい。正直、胸を張れるような方法で撮影したわけじゃありません。ですが、ここで語
られていることがおそらく先輩の死の真相だと思います。そして、教育長と校長の保身のため、先輩の死の原因がいじめであったという真実は隠蔽され、もみ消されようとしています」
「……許せない」
妙は、行き場のない怒りを抱え下唇を噛んだ。
「これを見た時、僕も同じ思いでした。このまま先輩の死の真相が隠蔽されていいわけがない」
その時、妙は龍馬の顔を初めてまじまじと見た。よく見れば、高校生らしからぬ大人びた目をしている。話しぶりも、まったく高校生らしいところがない。むしろ、落ち着いた大人の余裕のようなものすら感じる。
――この子、いったい……。
そう思っていた妙に、龍馬は静かに告げた。
「じつは明日、校長と教育長のこの罪に対し、僕と仲間で罰を与えようと考えています」
その言葉に妙は、思わず目を見開いた。
「……罰?」
「はい、教育長と校長の悪事を世に知らしめ、ふたりを教育者として再起不能にすると同時に、完膚なきまでに社会的制裁も加えます」
「……」
妙は、あまりに予想外な申し出に思わず言葉を失った。
「ただ、この罰は改めて多くの人々に先輩の死について、またその真相について知らしめることになると思います。妙さんには、そのことを事前にご了承いただきたかったんです」
「ちょ、ちょっと待って! 榊くん、なにをしようとしてるの?」
「ちょっとしたオペレーションです。しかし、僕らなりにかなり練った実効性の高い作戦だという自負はあります。この区の教育を統べる立場にある教育長と校長が今まさに犯そうとしている罪は、直ちに断罪されなくてはなりません。ですから妙さん、ご了承いただけないでしょうか?」
そう言って、龍馬は妙に頭を下げた。妙は困惑しながらもいくつか質問を重ねた。
「榊くんたちの……そのオペレーション? ……には勝算はあるの?」
「はい、少なくとも教育長と校長を教育者として再起不能にはできると思います」
龍馬の目は、あくまでも冷静だった。妙はその目を見て、この少年はまるで底が知れないと思った。
しかし同時に、その目になにか揺るぎのない信念のようなものも感じ取った。だから不思議と自然に、この子になら自分と家族の無念を託してもいいとも思えた。そして、自分でも驚いたのだが、次のような言葉も口をついて出た。
「わかったわ……ただ、私にもなにか協力させて」
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