ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜

0o0【MITSUO】

4日目(1)―交渉へ

 
 例の少女・・・・に会いに行く。 

 龍馬と東海林は、千葉に向かう電車の中にいた。例の少女とは、もちろん先の未来で伝説のハッカーだった百武ひゃくたけという少女だ。

 時刻は、午後1時少し前。学校には、ふたりとも病欠の連絡を入れた。

「絶対、彼女を仲間にしてきなさいよ!」

 碧は、龍馬と東海林に何度も釘を刺した。

 じつは昨夜、碧が百武が参加した場合としなかった場合の作戦のシミュレーションをしたのだが、作戦成功には、ほとんど彼女の参加が不可欠であるというような結果が出た。いや、むしろ彼女が不参加の場合、作戦そのものの遂行さえ怪しいと思われた。

 だから、これからの交渉は、龍馬たちにはとてつもなく重要・・・・・・・・だった。

 昨晩、龍馬と東海林はneosengoku39こと百武と、スカイプを通じ初めて対話した。そして半ば強引だったが、直接会う約束を取り付けたのだ。面会の場所は、百武の千葉にある自宅。彼女が引きこもっているため、自然とそういう流れになった。

 しかし、そもそも引きこもり少女と会う約束を取り付けること自体、なかなかハードルの高い交渉だった。それを成功させたのは、やはり龍馬の政治家としての経験則だった。

 ――交渉には、必ず武器を持って臨むべし。

 これも龍馬が政治家のキャリアの中で痛感した、原理原則のひとつだった。政治や外交交渉の場に、丸腰で臨むのは骨頂こっちょうだ。なにも物理的な武器の話ではなく、情報の手札・・・・・のことだ。

 交渉とは、基本的には妥協点を見い出す作業だ。

 互いに自分が持つ情報という武器をちらつかせ、自分に有利な妥協点を探り合う勝負とも言い換えられる。だからこそ、事前に相手の情報をどれだけ掴めるかが重要な鍵となる。

 その意味では、今回の交渉は龍馬があきらかに有利だった。なぜなら、未来の百武の情報をすでに・・・知っていたからだ。そこには当然、百武の「弱み」につながる情報もあった。 
 
 彼女が最も恐れると思われる「弱み」。

 それは、ネットでは見せていないリアルな自分そのもの・・・・・・・・・・だろう。あるいは、それが露見することと龍馬は考えた。つまり、百武は自分の具体的な素姓を特定するような情報には、敏感に反応するのではないかと考えたのだ。

 だから、百武に対しすぐに連絡は入れず、今一度、龍馬は記憶を総動員し、彼女についての未来の記憶をできる限り思い返した。さらに、思い出されたキーワード「百武」「千葉」などをネット検索。最終的には、彼女の父親と思われる人物のフェイスブックページまで特定した。

 龍馬が、彼女の父親は「大学教授」であったという報道の断片的な記憶を思い出したことが大きかった。千葉在住で「百武」という珍しい名前の教授は、そもそも一人しか検索にヒットしなかった。

 百武というレアな苗字。千葉県在住。父親の職業。父親の名前。

 龍馬は、彼女の特定に繋がるこれらの情報を事前にできるだけ用意すると、ようやく彼女のスカイプIDに東海林とともに連絡を入れた。

 元々、引きこもっている百武のコミュニケーション能力は、著しく低かったこともあり、龍馬が手に入れた武器をちらつかせると、終始、話は龍馬のペースで進んだ。

 さらに、これは憶測であり賭けだったが、百武が初歩的なハッキング犯罪にすでに手を染めていると踏んで、その点でもゆさぶりをかけた。このゆさぶりが最終的な決め手となり、百武は折れ、龍馬たちとの面会を渋々了承したのだ。

 そのままスカイプでリクルーティングの話をしてもよかったのだが、龍馬はあえて直接会って話す方法を選んだ。脅しだけで仲間にするような真似はしたくなかったし、できれば、きちんと事情を話し、納得したうえで百武にも作戦参加してほしかった。

 車窓の景色は、すっかり郊外の景色に様変わりしていた。マンション群。住宅街。郊外型の大きなショッピングモール。

 目指す駅まで、あと15分ほどだった。
 
 今頃、あいつらもがんばっているだろうか?

 龍馬の頭に、ふと別行動している碧と桐生の顔が浮かんだ。じつは、碧と桐生のふたりの作業もなかなかの山場を迎えていた。
 
 ふたりは今日、物騒なことに爆弾・・を製造している。

 午前中には、製造に必要な材料や資材の買い出しを行い、午後の今頃は、とある場所にてせっせと爆弾作りに勤しんでいるはずだ。幸いだったのは、桐生が火薬の取り扱いに慣れていたことだ。親戚の花火工場を手伝っていた経験があったからだ。もちろん、設計などは碧が行うのだが、実際の組み立てにはこの桐生の経験が大いに活かされそうだった。

 ただしモノががモノだけに、とにかく「安全最優先で」ということは龍馬からふたりにも念押しした。危なくなったら、爆弾製作はいつでも放棄していいとも告げた。未来の多くの命を救うためとはいえ、ふたりの命が危険にさらされては元も子もない。

 ――やがて電車は、百武の家の最寄り駅に停車した。

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く