ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜
3日目(2)―作戦会議
「――それに、そんなクソみたいな未来……俺も絶対認めない」
この瞬間、桐生が仲間に加わった。そのわずか後、桐生は当座の着替えだけ取りに帰ると、龍馬たちと同じ東京行きの急行電車に乗り込んだ。
残りの4日間、桐生には龍馬の家に寝泊まりしてもらうことにしたのだ。そうでもしない限り、物理的に桐生が龍馬たちを手伝うことが難しかったからだ。そして、そうすべきだと言ったのは、なんと桐生自身だった。
龍馬が念のため学校は大丈夫かと尋ねると、桐生はこう返した。
「俺、東城台山路にはラグビー推薦で入ったんだけどな、そうやって体育会推薦で入った生徒が部活辞めるとな……本当に居場所がなくなるんだ。先生たちでさえ、俺を腫れ物扱いしてるよ。誘ってもらって、むしろよかったくらいさ」
そう語り笑顔を作る桐生だったが、その笑顔に龍馬はわずかな陰りを見た。そして改めて、桐生はなぜ部活を辞めねばならなかったのだろうかと考えた。なにか深い事情がありそうだった。しかし、龍馬も碧も東海林も、それにはあえて触れようとはしなかった。新たな仲間に対し、野暮なことは聞きたくないというのが3人の共通した思いだった。
一時は無理だと思われた桐生を仲間に加えることができ、龍馬、碧、東海林の3人は少し興奮ぎみだった。それだけ、桐生の存在自体が見た目はもちろん、戦力的にも頼もしく感じられたからだ。ラグビー高校日本代表で未来のSPを束ねることになる男の風格は、すでに伊達じゃなかった。
無謀極まりない計画が、桐生の加入でかすかだが現実味を帯びてきた。そんな空気が、3人を満たしつつあった。高揚感と言い換えてもいい。だから、帰りの電車のボックスシートは、そのまま「作戦会議の場」と化した。
田舎の闇をひた走る急行列車はどの車両もガラガラで、しばらくは4人の貸し切り状態だった。そのことが、4人の気兼ねをなくし議論を加速させた。結果的に、その話し合いは4人の想像より遥かに盛り上がった。
碧は、新しいイタズラを発表するかのように突拍子もない作戦を語る。東海林は、あえてその流れに乗っかり、時に悪乗りし、さらに突拍子もないアイデアを加える。龍馬は、そんなふたりの意見を否定せず、むしろどうやったら実現できるかという軸で議論を深める。桐生も、こうしたやりとり自体が新鮮だったのか、積極的に意見を重ねた。
なにより、4人ともなぜか楽しげで、ほとんど初めて会ったばかりなのに笑いが絶えることがなかった。さながら、文化祭の演目でも考えているかのように。
そして、この議論のなかで光明が見えたこともあった。計画のボトルネックになると思われていた火薬の入手についてだ。なんと解決のメドが立ってしまったのだ。発端は、桐生のこの発言だった。
「火薬? うちの親戚がなちょっと前まで花火工場やってたんだ。だからあるぞ、間違いなく」
じつは、桐生の実家は花火作りが盛んな別の県にあった。東城台山路には、そこから越境入学したのだ。その恵まれた体格と体力をかわれての体育会推薦だった。話を戻すと、そういうわけで桐生の実家近くに住んでいる親戚も花火を生業として工場をやっていたというのだ。
しかし、後継者不足で今年の初めに廃業したのだと言う。そして、その工場にはおそらくまだ手つかずの火薬が残っているはず、という話だった。桐生は、中学時代にはよくその工場を手伝っていたらしく土地勘はもちろん工場の勝手もわかると言う。この一事も、メンバーの高揚感をさらに高める一助になった。
その後も4人は車中で不思議と打ち解け、電車が東京に着く頃にはちょっとした連帯感すら生まれつつあった……。
電車は22時過ぎに東京駅に到着した。
が、東京駅で4人は解散しなかった。
そして、なぜか全員で龍馬の家にそのまま行こうという話にまとまった。あまりに4人の議論が盛り上がり白熱したため、あるいはおもしろかったため、ある程度、計画がまとまるまで今夜はとことん話し合おうということになったのだ。それは、部活の合宿の夜のようでもあった。
結局、議論は龍馬の家で0時近くまで続いた。さすがに、碧だけは龍馬が0時前にタクシーに乗せ帰したが、桐生は元々泊まる予定だったし、東海林も家に帰ってもどうせ一人だからと龍馬の家に当然のように留まった。かくして、龍馬、東海林、桐生の男3人はその後も議論を続け、いつの間にか各々眠りに落ちたのだった……。
そうした長時間の議論の末、作戦のアウトラインだけは見えてきた。それは、次のようなものだ。
作戦決行は、3日後の夏休み初日。
作戦の舞台は、同日開催予定の「全国生徒会会議」という会議の場だ。その名の通り、全国の高校から生徒会役員40名ほどが集う会議で、開催場所は龍馬が通う高校から徒歩圏内のハーバースクエアという区立の会議施設であった。
じつは、龍馬自身も生徒会副会長として元々この会議に参加予定だった。おそらく、前の時間軸でも参加していたはずなのだが、ほとんど印象に残っていないようなイベントだった。
だが、10代を中心とした若者に問題意識を芽生えさせ、変革の機運を煽るのを目的とした作戦の趣旨にはもってこいの舞台設定であり、会場の大きさや参加人数などの規模的な意味でも、龍馬たちが少人数で事を起こすことを考えると、妥当な規模ではないかと判断したのだ。
肝心の作戦の大まかな流れはこうだ。
まず、この会議を龍馬たちが何らかの方法で占拠、生徒たちを人質に取る。さらに、彼らを交渉材料に爆弾でも揺さぶりをかけ、最終的に政府に要求を突きつけるのだ。
その要求とは、ズバリ、龍馬と首相との直接対話だ。
つまり、新旧時空を超えた「首相VS首相」の討論の実現を目指すというものだった。加えて、その対話を拡散し、その効果を最大化するため、対話の模様はネットやテレビを通じリアルタイムで全世界にライブ配信も行う。
なんとも破茶滅茶なプランだが、より多くの国民、とりわけ若い世代にこの対話を目に焼き付けてもらい、未来を変える機運を生み出す、というのが計画の主眼であった。
これが4人が議論を重ね、ひとまずたどり着いた結論だった。が、まだこれも机上の空論に過ぎず、「この作戦をいかに実現させるか」というHOWの部分については、いまだ手付かずの課題が山積していた……。
この瞬間、桐生が仲間に加わった。そのわずか後、桐生は当座の着替えだけ取りに帰ると、龍馬たちと同じ東京行きの急行電車に乗り込んだ。
残りの4日間、桐生には龍馬の家に寝泊まりしてもらうことにしたのだ。そうでもしない限り、物理的に桐生が龍馬たちを手伝うことが難しかったからだ。そして、そうすべきだと言ったのは、なんと桐生自身だった。
龍馬が念のため学校は大丈夫かと尋ねると、桐生はこう返した。
「俺、東城台山路にはラグビー推薦で入ったんだけどな、そうやって体育会推薦で入った生徒が部活辞めるとな……本当に居場所がなくなるんだ。先生たちでさえ、俺を腫れ物扱いしてるよ。誘ってもらって、むしろよかったくらいさ」
そう語り笑顔を作る桐生だったが、その笑顔に龍馬はわずかな陰りを見た。そして改めて、桐生はなぜ部活を辞めねばならなかったのだろうかと考えた。なにか深い事情がありそうだった。しかし、龍馬も碧も東海林も、それにはあえて触れようとはしなかった。新たな仲間に対し、野暮なことは聞きたくないというのが3人の共通した思いだった。
一時は無理だと思われた桐生を仲間に加えることができ、龍馬、碧、東海林の3人は少し興奮ぎみだった。それだけ、桐生の存在自体が見た目はもちろん、戦力的にも頼もしく感じられたからだ。ラグビー高校日本代表で未来のSPを束ねることになる男の風格は、すでに伊達じゃなかった。
無謀極まりない計画が、桐生の加入でかすかだが現実味を帯びてきた。そんな空気が、3人を満たしつつあった。高揚感と言い換えてもいい。だから、帰りの電車のボックスシートは、そのまま「作戦会議の場」と化した。
田舎の闇をひた走る急行列車はどの車両もガラガラで、しばらくは4人の貸し切り状態だった。そのことが、4人の気兼ねをなくし議論を加速させた。結果的に、その話し合いは4人の想像より遥かに盛り上がった。
碧は、新しいイタズラを発表するかのように突拍子もない作戦を語る。東海林は、あえてその流れに乗っかり、時に悪乗りし、さらに突拍子もないアイデアを加える。龍馬は、そんなふたりの意見を否定せず、むしろどうやったら実現できるかという軸で議論を深める。桐生も、こうしたやりとり自体が新鮮だったのか、積極的に意見を重ねた。
なにより、4人ともなぜか楽しげで、ほとんど初めて会ったばかりなのに笑いが絶えることがなかった。さながら、文化祭の演目でも考えているかのように。
そして、この議論のなかで光明が見えたこともあった。計画のボトルネックになると思われていた火薬の入手についてだ。なんと解決のメドが立ってしまったのだ。発端は、桐生のこの発言だった。
「火薬? うちの親戚がなちょっと前まで花火工場やってたんだ。だからあるぞ、間違いなく」
じつは、桐生の実家は花火作りが盛んな別の県にあった。東城台山路には、そこから越境入学したのだ。その恵まれた体格と体力をかわれての体育会推薦だった。話を戻すと、そういうわけで桐生の実家近くに住んでいる親戚も花火を生業として工場をやっていたというのだ。
しかし、後継者不足で今年の初めに廃業したのだと言う。そして、その工場にはおそらくまだ手つかずの火薬が残っているはず、という話だった。桐生は、中学時代にはよくその工場を手伝っていたらしく土地勘はもちろん工場の勝手もわかると言う。この一事も、メンバーの高揚感をさらに高める一助になった。
その後も4人は車中で不思議と打ち解け、電車が東京に着く頃にはちょっとした連帯感すら生まれつつあった……。
電車は22時過ぎに東京駅に到着した。
が、東京駅で4人は解散しなかった。
そして、なぜか全員で龍馬の家にそのまま行こうという話にまとまった。あまりに4人の議論が盛り上がり白熱したため、あるいはおもしろかったため、ある程度、計画がまとまるまで今夜はとことん話し合おうということになったのだ。それは、部活の合宿の夜のようでもあった。
結局、議論は龍馬の家で0時近くまで続いた。さすがに、碧だけは龍馬が0時前にタクシーに乗せ帰したが、桐生は元々泊まる予定だったし、東海林も家に帰ってもどうせ一人だからと龍馬の家に当然のように留まった。かくして、龍馬、東海林、桐生の男3人はその後も議論を続け、いつの間にか各々眠りに落ちたのだった……。
そうした長時間の議論の末、作戦のアウトラインだけは見えてきた。それは、次のようなものだ。
作戦決行は、3日後の夏休み初日。
作戦の舞台は、同日開催予定の「全国生徒会会議」という会議の場だ。その名の通り、全国の高校から生徒会役員40名ほどが集う会議で、開催場所は龍馬が通う高校から徒歩圏内のハーバースクエアという区立の会議施設であった。
じつは、龍馬自身も生徒会副会長として元々この会議に参加予定だった。おそらく、前の時間軸でも参加していたはずなのだが、ほとんど印象に残っていないようなイベントだった。
だが、10代を中心とした若者に問題意識を芽生えさせ、変革の機運を煽るのを目的とした作戦の趣旨にはもってこいの舞台設定であり、会場の大きさや参加人数などの規模的な意味でも、龍馬たちが少人数で事を起こすことを考えると、妥当な規模ではないかと判断したのだ。
肝心の作戦の大まかな流れはこうだ。
まず、この会議を龍馬たちが何らかの方法で占拠、生徒たちを人質に取る。さらに、彼らを交渉材料に爆弾でも揺さぶりをかけ、最終的に政府に要求を突きつけるのだ。
その要求とは、ズバリ、龍馬と首相との直接対話だ。
つまり、新旧時空を超えた「首相VS首相」の討論の実現を目指すというものだった。加えて、その対話を拡散し、その効果を最大化するため、対話の模様はネットやテレビを通じリアルタイムで全世界にライブ配信も行う。
なんとも破茶滅茶なプランだが、より多くの国民、とりわけ若い世代にこの対話を目に焼き付けてもらい、未来を変える機運を生み出す、というのが計画の主眼であった。
これが4人が議論を重ね、ひとまずたどり着いた結論だった。が、まだこれも机上の空論に過ぎず、「この作戦をいかに実現させるか」というHOWの部分については、いまだ手付かずの課題が山積していた……。
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