ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜

0o0【MITSUO】

2日目(5)―人類未開の地

「まっ、まだヤンキーって実在したのね? とっくに絶滅したと思ってたけど……。さずが東城台、人類未開の地・・・・・・ね」

 凄む二人に対し、碧は空元気なのかにらみ返すと余計なことをぬかす。よく見れば、碧の手は小刻みに震えている。

 たくっ! 怖いなら、なぜ強がるんだ!!

 龍馬が内心で毒づいていると、案の定、ヤンキーが碧に怒鳴どなる。

「だとコラ~~~~! 犯すぞゴラァ〜~!」

「はぁ? 二言目には犯すって……やっぱ、原始人的発想ね。思考が縄文時代で止まってるのかしら? もしくは思考が単純直結回路ででもできてるのかしら?」

 龍馬は、その発言に天を仰ぐ。一方、東海林はというとすごむヤンキーを前に完全にフリーズしていた。

「おい! てめえも、なに撮ってんだゴラァ~~~~!」

 とヤンキーに自慢のミラーレス一眼を取り上げられたかと思うと、思い切り地面に叩きつけられた。カメラはきれいに木っ端微塵に砕け散った……。

 その間も、碧は眼前のヤンキーに距離を詰められつつあった。後方にいた龍馬は、咄嗟とっさに碧の前に歩み出てそのヤンキーと相対した。そして、矛先を自分に向けるべく叫んだ。

「あぁ、まったくだなー! 未開の地の縄文人さんは、さっさと森に帰ってどんぐりでも拾って、狩猟採集生活からやり直したらいかがですか?」

「なんだてめえ? 見ねえ顔だなぁ、どこ校だぁ〜〜! このスケの男かぁ?」

 狙い通り、碧に絡んでいたヤンキーは龍馬の胸ぐらをつかんだ。

「このスケ・・の男? スケって……本気で言ってるのか? この未開の地の元号は昭和で止まったままなのか? 今は令和だぞ? って、縄文人に言っても――」

「――ごちゃごちゃ言ってんじゃね〜〜〜〜!」

 容赦なくヤンキーのパンチが龍馬の顔面を見舞った。まともに喰らい、龍馬は思わず膝を着く。

「おい、メガネ! てめえも寝とけゴラァ〜〜〜〜!」

 直後、隣のヤンキーも東海林の顔面にワンパンを見舞った。さほど重いパンチではなかったが、東海林のメガネはきれいな放物線を描き宙を舞い、東海林自身もきれいに大の字にノックアウトされた。

「ちょ、ちょっと! あ、あんたたち……な、なにすんのよっ!!」

 それでも強がって碧が叫ぶと、今度はヤンキーふたりは碧との距離をぐっと詰めた。そして、ほぼ同時に拳を振り上げた。

 ――マズい! 

 急いで龍馬が立ち上がろうとした刹那せつな、倒れた龍馬の背後から、ぶっとい二本の腕がものすごいスピードで現れた! そしてそのままヤンキーたちの拳を空中でガッチリとつかんだ!!

「――女に手上げてんじゃねえ」

 後方から、低く凄みのある、しかし聞き覚えのある声が響いた。と、拳を握られたヤンキーたちの顔がみるみる青ざめる。

「まっ、まさか、てめぇは……!」

「東城台山路の……桐生?」

 その発言に、龍馬も思わず振り返る。
 
 まさかと思った。
 
 が、そこにはあの桐生が本当に立っていた……。

「ラグビー部辞めて街うろついてるって……マジだったのか!?」

「おまえらには関係ない」

 男がその腕に力を込めたのか、ヤンキーたちが悲鳴を上げる。

「「イッデデデデ――!」」

 ヤンキー達はなんとかその手を振りほどくと、脱兎だっとのごとく逃げていった。

 男は、闇に溶けていくヤンキーふたりの後姿を少し呆れた感じで眺めていた。龍馬は、改めてその男を見上げた。まさに、見上げる感じだった。身長は、190センチ超え。肩幅が広く、胸板も厚く、手足も鍛え抜かれた筋肉質そのものだ。その顔は彫りが深く、まるで野武士を思わせるような鋭い眼光していた……。
 
 ――この目だ! そう、この目だ!! 

 その双眸を見て、龍馬の脳裏にあのシーンがフラッシュバックした。先の時間軸で龍馬が最期に見た・・・・・、あの桐生の目だ。

 間違いない、この男こそ桐生惟幾きりゅう これちかだ!
 
 龍馬は確信した。

「あんたら、この辺の人じゃないだろ? 地元の人間なら常識なんだが……暗くなるとこの辺はさっきみたいな馬鹿のたまり場になる。今のうちに、さっさと帰った方がいいぜ」

 桐生はそれだけ言うと、すぐに背を向け立ち去ろうとした。

「ちょ、ちょっと待て。待ってくれ!」

 龍馬はさっき殴られた頬の痛みも忘れ、興奮してその場に立つと叫んだ。すると、桐生は怪訝けげんな表情で振り返った。

「探してたんだ! 桐生惟親、だろ?」

「……なんで俺の名を? あぁ、またラグビー関係か……それなら、もう辞めたんだ。だから他をあたって――」

「――ちがう! ラグビーの話をしにきたんじゃない!」

「率直に言って、君の力を借りに来た! それは……ラグビーより意義深く、ある意味、正義を成すことなんだ!」

「……ラグビーより意義深い? 正義を成す?」

 再び怪訝な表情を浮かべる、桐生。それでも龍馬は、ひるまず続ける。

「あぁ、そうだ! なぁ、桐生! 俺たちとこの国の未来・・・・・・を救ってみないか?」

 龍馬は、真剣そのもので叫んだ。

 が、桐生は龍馬が一体なにを言ったのか、しばらく理解できなかった。色々と端折り過ぎた龍馬の言葉は、桐生にはまったく意味不明なものに感じられたのだった。

 ただでさえ寂しい東城台駅前に、さらに冷たい一陣の風が流れた。やがて桐生は、ようやく自分が発すべき言葉を見つけた。

「……はっ?」

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