ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜
1日目(11)―カリスマの過去
校内に侵入した龍馬は、そのまま堂々と昇降口から校舎に入った。
自信がない時こそ、あえて大胆に。
これも政治家経験から、龍馬が学んだ教訓だ。身体は、心に先立つ。萎縮した振る舞いは心の余裕も奪い、やがて失敗へとつながる。龍馬が新党を立ち上げ、場数を踏めば踏むほど、確信したことだった。
さあ、目指すは「彼」がいる2年の教室だ。
龍馬は、1階から上階へと教室のプレートを確認していった。幸い授業中で、廊下には人ひとりいなかった。まもなく、龍馬が入った建物の3階部分に2年の教室が集まっていることがわかった。そして、ちょうどそのタイミングで、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
一斉に廊下に生徒や教師が溢れ、龍馬の存在は紛れた。さらに幸運なことに、その高校の制服のジャケットと龍馬の制服のジャケットの色が非常に似ていたため、見た目だけで言えば、龍馬の違和感はほぼなかった。そのことに自信を得た龍馬は、さらに大胆に2年A組から順に、直接「彼」の名を尋ねてまわり始めた。
「東海林いる?」
A組の教室の扉の前で、真っ先に目があった女子生徒に話しかけた。
「ショウ……ジ?」
「あっ、ごめん。いいや」
その表情を見ただけで、龍馬はA組に彼はいないと即断する。
――東海林一郎《しょうじ いちろう》
それが「彼」の名だった。東海林なんて、滅多にいる苗字じゃない。学年におそらくひとりいるかいないかだ。だから、龍馬は直接聞いた方が手っ取り早いと考えたのだ。
同じ方法でD組までいったところで、龍馬の作戦は見事に功を奏した。
「あぁ、東海林ね。東海林なら、ほら、あそこ」
声をかけた男子生徒が、窓際一番後の席を指差した。
そこには、休み時間に騒がしく話すクラスメイトを横目に、ひとり静かに文庫を読む、ねこ背にメガネの地味な生徒がいた……。
……まさか、あれが東海林? 
龍馬は、人違いかと思った。あまりに、未来の印象とかけ離れていたからだ。
未来の東海林は、見た目も中身もとにかく晴れやかな男だった。いつも仲間の真ん中にいて、明朗にして快活。よく話し、よく笑う。典型的な根明キャラだった。
が、眼前の男子高校生は、どうか。まったく対照的なのだ。むしろ、自ら自分の存在感を消しているのではないかとすら思える。念のため、改めてその顔を見直す。
顔の特徴は……一致する。
というより、メガネ以外、龍馬の知る東海林の顔とほぼ変わらない。第一印象とは裏腹に、どうやら、あの地味メガネが未来のカリスマ配信者、東海林一郎に違いないようだ。
とにかく……話しかけてみるか。
龍馬がそう思った矢先、タイミング悪く予鈴が鳴った。さらに、教師も早々に教室に入ってきてしまった。龍馬は、ここまで来て、また一限分時間を無駄にするのも惜しいと思った。そして、とっさに次のような行動に出た。
すっと東海林の脇に移動し挙手すると、教師にこう告げたのだ。
「先生! 東海林くんの体調が悪そうなので保健室に連れていきまーす!」
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
34
-
-
15254
-
-
381
-
-
23252
-
-
127
-
-
26950
-
-
20
-
-
70810
-
-
140
コメント