ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜
1日目(8)―鉢合わせ
龍馬は、第二化学準備室を出ると、足早に校門を目指していた。早退し、ある場所に急ぐためだ。
今は、1分1秒でも惜しい。
幸いまだ始業前だったため、忘れ物でもしたふりをし、さっさと校門を抜けようと考えていた。が、ちょうど校門前にさしかかったところで、たしか校長だったと思われる頭頂部のさみしい教師に、若い女性が何やら食ってかかっているのが目に入った。
「――本当に、再調査してくださったんですか?」
「だから、何度もそう申し上げているでしょう。ご希望通り当校の方で再調査いたしました。しかし、結果はまったく変わらずでしたと申しているじゃないですか」
「弟は! 陽斗は! 理由もなしに死ぬような子じゃないんです!」
「少しお話にくいんですがね……本当はご家庭内に問題がおありになったんじゃないですか? それをお認めになりたくないご家族のお気持ちは――」
「――だから言ってるじゃないですか! 日記にはいじめがあったと書いてあったんです!」
龍馬は、その言葉で思い出した。たしか当時、龍馬のひとつ上の学年で自殺した生徒がいたことを。
いじめを苦に自殺したという噂も人づてに聞いた気がするが、結局、事故として処理されたはずだ。
そこそこ騒ぎになった記憶もあるが、なにぶん一つ下の学年だった龍馬には、それ以上、当時はあまり情報が入ってこず、正直、今の今まで忘れていた。
「また日記の話ですか……あのような曖昧な表記では、いじめの認定はできませんよ。実際、当校の2回に渡る厳正な調査でもいじめにあたる事案は、一切確認できなかったんですから」
「陽斗が嘘を書いてたって言うんですか?」
「そんなことは、言ってませんよ。当校の調査結果では、いじめの実体がなかったという客観的な事実を、こうして私、校長の定岡自ら誠意を持って申し上げているのです」
そうだ、校長の名は定岡だった。龍馬は思い出した。
「しかし――」
「――もう間もなく始業となりますので、お引き取り願えますか? 自殺自殺と騒がれますと、他の生徒にも心理的な影響が出ますので、悪しからず」
すると定岡は、すぐに踵を返した。
「ちょっと、まだ話が――」
定岡は顔だけ振り返ると、
「――あなたも大学生なんでしょ? 弟さんのことは大変残念でしたが、学生の本分である勉学に励まれてはいかがですか?」
それだけ言うと、あとは振り返ることもなく校舎の方に消えていった。
「家では……家ではまだ……陽斗の死は終わった話じゃないんです。あの日から……まだ家の中はずっと……ずっと……止まったままで……」
定岡が見えなくなっても、女性はうつむき目に涙をため、途切れ途切れにそう語った。
なんて現場に……。
龍馬はタイミングの悪さを呪った。おまけに始業直前で、辺りには他の生徒や教師の姿も見えなくなっていた。なるべくその女性の目に触れぬよう、龍馬はそっと脇を通り抜けようとした。が、
「――あっ、ねえ君!」
何かにすがるように、女性は龍馬に声をかけた。
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