ジェネレーション・ストラグル〜6日間革命〜
プロローグ(8)―初志
それでも、龍馬は涼しい顔のままだった。
この反応は織り込み済みだったし、ようやく本音が言え、むしろ清々した気分だった。政界に入って10年。外面では一貫して高齢者優遇の姿勢を貫いてきた。それは、政界でのし上がり、世を変える真の力を手にするためにかぶったペルソナだった。ついにその力を得た今、龍馬は不退転の決意で、隠し続けた初志を果たそうとしていた。
《社会保障の刷新、世代間格差の解消、若者が夢を抱ける国作り》
龍馬が叶えたいこれらの政治課題は、この国のマジョリティである高齢世代の既得権を侵すものだった。長年、この問題が放置されてきた本質的な要因もそこにある。いわゆる「シルバーポリティクス」だ。概して政治家は、票の匂いのしない世代や団体にあまり耳を傾けない。そもそも、当選しなければ活動自体できないからだ。結果的に多数派である高齢者の意見がより反映されやすくなる。加えて、長年に渡る若者の政治への無関心と低投票率もこの傾向に拍車をかけた。
ゆえに、問題は先送りされ、現状は維持された。
この状況を変えるには、少なくとも霞ヶ関を本気にさせる「力」が必要だった。龍馬は、そのために10年もの間、自分を隠し続けた。自らを煽動政治家と揶揄しながらも、権力の階段を貪欲に駆け登った。ただ、密かに抱き続けたその志には一切の邪はなかった。だからこそ、臆することなく龍馬は続けた。
「私はここに新たな公約を掲げたい! それは、必ずしもすべての人に耳障りのいいものではないかもしれない。しかし! この国に受け継がれてきた『助け合い』の精神がみなさんお一人おひとりの心に今なお息づいていることを信じ、そして『自分さえよければ他人はどうなったって構わない』なんて人間がこの国には一人もいないと確信して! 新たな内閣では次の3つの公約を実現させたい! ひとつ目は、現行の年金制度の段階的な廃止。そしてそれに代わる――」
聴衆の高齢者たちは、もはや怒りを隠すことなく叫び始めた。
「――おいおい! 年金廃止ってどういうことだ!」
「年寄りいじめは、やめろー!」
「老人は、どうなってもいいっていうのか!」
その声が上がると、龍馬が鋭く一喝した。
「じゃあ、若者はどうなってもいいのか!!」
聴衆は一瞬、虚をつかれたのか静まった。
「最後まで聞いてください。現行の年金制度は廃止しますが、それに代わり……」
改めて、龍馬が話し始めたその時だった――
――突如、会場の防災用スピーカーから、あの無機質な電子音が響いた。
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