まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている

0o0【MITSUO】

第5章 僕は、チカラになりたい。5

『乙幡剛は、やはり持っている男であります! 夕日差し込む、街外れの公園。そのベンチに想い人とふたりで座っている。まさに、絶好の告白シチュエーションであります! どこか緊張した面持ちの乙幡ではありますが、必ずや今日こそ決めてくれるでしょう! さあ、男を見せろ、乙幡剛! そして、そのまま夜のゴールまで決めてしまえっ‼』

 頭の中のそんな喧騒をよそに、こじんまりした公園はひどく静かだった。
 新垣さんの隣に座っているというだけで、ひどく緊張する。

 しかし、いったい何の話だろうか?

 公園に着くと、なぜか新垣さんはしきりにすまなそうな顔をし、自販機で飲み物までおごってくれた。

 緊張をごまかすように、僕はおごってもらった缶ジュースに口をつけた。
すると、新垣さんがようやく語り始めた。

「ごめんね……急に時間もらっちゃって」

「いや別に……今日は暇、だったし」

『いつも暇だろ! 乙幡剛‼』

「じつはね、ちょっと乙幡くんに聞きたいことっていうか……相談したいことがあって……」

『おっと、相談⁉ 新垣さんには、どうやら悩みでもあるようであります! さあ、乙幡としては、その悩みにガッツリつけこんでいきたいところだ!』

 実況のテンションは上がりっぱなしだったが、僕は新垣さんの話だけに極力、集中した。

「乙幡くんさ、赤坂先輩のこと昔から知ってるみたいだったから……その……先輩のこと、色々と聞きたくて……。夏休みの初日ね、赤坂先輩が言ってたんだ。乙幡くんとは昔からの知り合いだったって……だから……」

 そうだったのか、それで……。
 ようやく腑に落ちると同時に、なぜかさっきまでの緊張も解けていった。

『さあ、乙幡剛! ここは積年の恨みを暴露し、新垣さんに対し憎き赤坂の本性を文春砲ばりに暴露してしまえ! 恋と戦争にルールなどないわけであります!』

 そんな実況は聞こえなかったことにし、引き続き彼女の言葉に耳を傾ける。

「じつはね……私、男の人とつきあうこと自体、初めて……なんだよね。それにね、先輩とつきあい始めたのも、夏休みが終わるほんの3日前だったんだ。急に先輩に呼び出されて――」

「――告白、された?」

 不思議と冷静に新垣さんと初めて会話できる自分がいた。
 彼女はうなずいた。
 
 告白したのは赤坂の方だったのか……。

「私、中学の時から、ちょくちょく告白されること自体はあったんだ……。でもね、告白してくれた人にどうしても自分から好意を抱くことができなくて、ずっと断ってた。でも……」

「赤坂先輩はちがった?」

 再び、彼女はうなずくと続けた。

「やっぱり、最初に廊下で会った時も、夏休み初日のあの出来事もとにかく印象的だったのかも。どちらもピンチだった私の前に颯爽と現れて救ってくれて、まるで……白馬の王子様のような気がしたの」

 そのどちらの場にも、僕はいたけど……。

「あっ、乙幡くんが弱いとかそういうことじゃないからね! 全然‼」

 慌ててフォローする新垣さん。でも、今まさに、新垣さんが言った通り、僕は弱く情けないと思った。最初の廊下では気を失い、夏休み初日は鼻血を流しダウン。その弱さと情けなさで赤坂の存在を際立たせるのをアシストしたのは、紛れもなく僕だったのだから。

「とにかく、赤坂先輩はこれまで告白された人たちとは明らかにちがう気がして……だから、だから……」

「OKしたんだね」

「……うん。でも、『いいですよ』って答えた後、自分でもなんかパニクちゃったって、その場からダッシュで逃げちゃったんだよね……」

 新垣さんは、恥ずかしそうに頬をかいた。
 僕はなぜか自然と笑顔を浮かべ、答えていた。

「そんなことがあったんだね、新垣さんらしくもない……でも、よかったね」

 すると、彼女はなんともうれしそうな笑みを見せた。きっと恋する乙女のそれだった。その表情を見て、僕はなんだか脱力し、どこか吹っ切れたような気がした。

 彼女が幸せならば、それが一番じゃないか。

 少なくとも今は、彼女の初々しい恋心に水をさしたくなかった。

『――なにが「よかったね」だ、乙幡剛! お人好しにもほどがあるぞ‼ 想い人を、積年の恨みを持つあの男に取られて、よかったねじゃねーだろ! 乙幡剛‼ 本当のことを言うんだ! そうすりゃ彼女の目もきっと覚める‼』

 伊達さんの声は実況というより単純な怒りにも聞こえた。が、僕はその声を無視した。

「……でね、乙幡くんに相談したかったのは、乙幡くんの知ってる範囲でいいから、赤坂先輩の好みとか好きなものとか、そういうのを教えてほしいんだ」

 そう語る、新垣さんの瞳にはなんの迷いもなかった。


「私、赤坂先輩のこともっと知りたいんだ。そして、先輩の理想に近づきたい」


 あまりに真っ直ぐにそう告げる彼女を見て、僕は自覚してしまった。

 その無垢で美しい眼差しに、その心根の純粋さに。僕が心奪われているということを。いや、すでに以前から彼女には特別な感情を抱いていたということを。
伊達さんには「想い人」と実況され、バレバレだったのかもしれないけれど……。

 ――きっと僕は、新垣さんのことが好きだ。

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