まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている
第3章 僕は、普通の夏休みを過ごしたい。5
喫茶店を出ると、僕らは商店街に戻る道を黙々と歩いた。
そこは商店街から二本裏通りを入った若干、寂しい通りだった。
昼間なのにあまり日も差さず、人通りも僕らふたり以外になく、より沈黙が際立ってしまう気がして、なんだか気まずさが増した。
相変わらず頭の中には、伊達さんがLINEを聞き出せとうるさく指示するような実況が聞こえる。でも、現実世界の僕は新垣さんのやや後方をとぼとぼとうつむきがちに歩くのみだった。
そして、それは唐突に訪れた。
「痛ってえなぁ――――!」
「だ、こらぁ―――――‼」
突然のドスの利いた叫びに、反射的に顔を上げる。
前方に、声の主と思われる男ふたりが立っていた。
どちらも派手なアロハ、茶髪。わかりやすくガラが悪い。
新垣さんの肩かなにかがぶつかり、言いがかりをつけているようだった。
虐められっ子の本能が、警鐘を鳴らし始める。心臓が早鐘を打つ。
一歩退いた新垣さんの背中は、小さく震えているように見えた。
――どうしよう! このままじゃ新垣さんが……。
男たちは新垣さんとの距離を一歩詰め、追い込むように叫んだ。
「人にぶつかっといて、謝りのひとつもないのかな〜?」
「……ごめん、なさい」
その声は、震えていた。
「ん? よく見りゃ、かわい〜じゃん。お詫びの代わりに、俺らとちょこっとつきあってくんないかなぁ〜?」
新垣さんは自分の両肩を抱き、顔を伏せる。
「ちょっとだけでいいからさ〜。大丈夫、食ったりしないから。ま、食っちゃうかもしれないけど?」
男たちは汚い笑い声を上げた。
一層、新垣さんの背中が小さくなる。
――新垣さんを、守らなきゃ!
頭では理解しているのに、体はまったく動かない。
嫌な汗が背を伝い、喉が奥から乾いていく。
情けなさと焦りだけが増し、泣きたい気持ちになる。
この状況でも伊達さんはお構いなしに、いや、むしろ嬉々として実況を続ける。
『なんと! やはり乙幡剛は持っているのであります‼ いかにもガラの悪い三下どもが、想い人に因縁をつける。こんなわかりやすい勧善懲悪のシチュエーションがあるでしょうか⁉ 時代劇ばりのわかりやすい展開だぞ! 乙幡にとって、これは千載一遇のチャンスであります! さあ、乙幡剛、いかにも頭の悪そうなアロハ野郎たちを撃破し、美しき姫君を救え! その怒れる両拳を三下どもにガツンとお見舞いしていけ! なぜ、動かない? どうして、動かな――』
「――もう黙っててくれませんか!」
気づくと、思わず叫んでいた。
またこのパターンだ……いい加減、学習しろよ、僕。
新垣さんも驚いた様子で、僕を振り返る。その瞳は涙ぐんでいた。
一方、男たちは、新垣さんに向けていた鋭い視線を僕に切り替える。
ですよね……そうなりますよね……。
本当は今の言葉、伊達さんっていう地縛霊に言った言葉なんですけどね……。
僕が声にできないそんな弁明を心の内でつぶやく間、男たちは一歩一歩、距離を詰めてきた。やがて、目と鼻の距離に。
「なんだ、デブ?」
ひとりが告げた。かと思うと、いきなり、
「関係ねえデブは引っ込んでろ、このクソデブがぁあああああああああ!」
という叫びとともに、もうひとりが殴りかかってきた!
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