魔王様、溺愛しすぎです!
849. みっちり叱られました
謝るのが一番被害が少ない。そう学んでいる魔王ルシファーの謝罪に、ベールが腰に手を当てて説教を始めた。ルキフェルがその袖を引いて、中継されている事実を指摘する。しかたなく、説教は叙勲式後に回されることとなった。
そもそもの原因は、ルシファーがリリスの側近達に話しかけるため、壇上から下りたことだ。赤い絨毯の先にいた彼女たちの元へ向かうルシファーの後ろを、うっとりした顔の貴族令嬢がついて歩いた。視線の先でリリスが微笑んだのを見て、ルシファーの表情が柔らかな笑みに変わる。
美形の威力抜群の笑顔にノックアウトされたご令嬢が数人倒れ、慌てたルシファーが支えようとした。反射的に腕で支えたご令嬢の姿に、嫉妬したリリスが頬を膨らませた。放り出すわけに行かず混乱するルシファーだが、パニック状態で魔法陣を作ることを思いつけない。
気づけば倒れたご令嬢に前後左右を囲まれ、動けなくなっていた。唇まで尖らせたリリスに焦って、ご令嬢をすべて魔法で浮かせて壁際へ並べようとしたが、間に大量のテーブルがある。魔法陣を作らず強引に魔力のみでご令嬢の移動を行った結果――ご令嬢たちは空を飛ぶ羽目に陥った。
その際に風でめくれたスカートの裾や袖から素肌が見えてしまい、眼福と頬を緩める男性陣と気遣いが足りないとお冠の女性陣が対立した。おろおろするルシファーをよそに、彼と彼女らの仁義なき言い争いに発展してしまったのだ。
殴りかかる前に止められてよかったが、騒動を起こした責任が誰にあるかと問われれば……ルシファーが謝るのが、遺恨を残さない方法として最適だった。
「陛下は壇上へお戻りください!」
ぴしゃりと言い切ったベールの指先が玉座を示し、すごすごと戻るルシファー。ハウスを命じられた飼い犬のようだ。叱られた彼の後ろに幻影のタレ耳と尻尾が見えるくらいには、肩を落としていた。
「リリス、君も戻ったら?」
さすがに哀れになったルキフェルからの助けに、ルシファーの表情が少し明るくなる。しかしまだリリスは拗ねていた。自分の目の前で、私専用の腕で抱き留めるなんて――彼女の尖った唇はそのままだ。苦笑いしたルキフェルがリリスの黒髪を撫でる。
「ルキフェル、離れろ」
リリスの表情が和らいだのを見て、今度はルシファーの嫉妬が場の温度を下げていく。実際、物理的にも温度が下がったようだ。ひんやりする気温に肩を震わせたのは、リザードマンやドラゴン系の種族だった。爬虫類の特徴を持つ彼らは、寒さに弱い。
ルキフェルが寒そうに両手で肩を摩ったため、ベールの結界が水色の髪の青年を包んだ。安全が確保されたルキフェルの魔法陣が、寒さに弱い魔族を保護する。
「陛下は落ち着いて……ああもう! こんな時にアスタロトは何をしているのです!」
もっとも2人の扱いに長けた男の不在に八つ当たりすると、足元の影を通り抜けて現れた吸血鬼王が溜め息をついた。召喚する強さはないものの、ベールの声はそれなりの魔力を秘めている。苛立ちから漏れた魔力を纏う声に呼ばれたアスタロトは、外にいたため画面越しに状況を把握していた。
「ルシファー様、すぐに魔力を回収して冷気を消してください。民に被害が出ます。リリス様も嫉妬で見当違いのケンカは嫌でしょう?」
言い聞かせるアスタロトの言葉に、冷気を垂れ流していたことに気づいたルシファーが慌てて回収する。漏れ出した魔力が消えたことで、謁見の間の気温が元の暖かさを取り戻した。同時にベールの結界とルキフェルの魔法陣も解除される。
呆れ顔のアスタロトがリリスを側近から引き剥がし、玉座の前まで連れていく。少し強く掴まれた冷たい指に、リリスはアスタロトの怒りを感じていた。
「ごめんなさい、アシュタ」
「……謝るくらいなら、己の感情を制御しなさい」
謝罪を受け入れる気はない、撥ねつけるアスタロトの表情は厳しかった。結局、この場で説教するわけにいかない側近達に促され、魔王と魔王妃は隣室へ移動する。隣の部屋でみっちり叱られた彼らが無事仲直りしたのは、数十分後だった。
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