魔王様、溺愛しすぎです!
814. いつからこちらに?
血塗れだが一応生きているのは、彼らの持つ売買のルートや顧客をつるし上げる目的が半分ほど。残りはまだ遊びたい気持ちもあり、他の大公からの批判を防ぐためだ。1人で片づけたのを3人に知られたら「ずるい」と騒がれるのは必至だった。いわゆる『ご機嫌伺いの手土産』である。
「ルシファー様、危険なのでお待ちいただくよう、お願いしましたが?」
大人しく待っていろと口にしたはずが、無視して颯爽と現れたルシファーに呆れ顔のアスタロトが苦言を呈する。しかし反論されてしまった。
「人の心配する前に、ルーサルカと話をしろ。あんな言い方したら、彼女が気にする」
わかっているのだ。アスタロトも言い方を失敗した自覚はあった。あれでは義理の娘だからと遠慮しているルーサルカが委縮してしまい、さらに呼びづらくなる。かつての妻達との間に生まれた子もすべて男児だったため、娘という初めての事例に多少戸惑っていた。
可愛い、甘やかしたい。そんな簡単に言葉になる気持ちではなく、もやもやしてドロドロした黒い感情が生まれるのだ。リリスを甘やかし嫉妬しまくったルシファーの反応の理由が、今になって身に染みて理解できた。むっとした顔のアスタロトへ、ルシファーは簡単そうに告げる。
「ルーサルカに『心配だからケガをする直前じゃなく、もっと早く召喚して欲しい』と言えばいい。魔法陣まで持たせたくせに、詰めが甘いのは娘に遠慮があるんじゃないか?」
指摘されて、ルーサルカは驚いた顔で義父を見上げた。整いすぎて怖いイメージの吸血鬼王が、義理の娘が出来て崩れるものだろうか。疑問を表情に出した彼女へ、アスタロトは肩を竦めて肯定した。
「そうですね。次は危険になる前に、私を頼ってくれると嬉しいです」
「は、はい」
これはアデーレ込みのモンペやファザコンになりそうだ。ルーサルカの夫に名乗りを上げる者は苦労するだろう。
「ところで……ルシファー様はいつからここにおられたのですか?」
私が召喚されたと同時に現れなければ、私の最初の発言を知らないですよね? 気づかなくていい場所に気づかれてしまい、こっそり様子見しようと姿を消したまま転移した事実を指摘され、視線を泳がせた。
「いや……その」
濁して誤魔化そうとするルシファーに赤い目を細め、策士アスタロトはターゲットを変更した。ルーサルカが抱っこしたアミーの鼻先を撫でるリリスへ、穏やかに問いかける。
「リリス姫、いつ来られたのですか?」
「アシュタと同時に来たのよ」
けろりと悪気なくリリスは暴露した。礼を言って振り返ったアスタロトの表情が、それはそれは美しい笑みを作る。明らかに作った顔に、びくりと肩を震わせた。
「心配させたようで、申し訳ございません。お詫びにいろいろとご用意させていただきますね」(主に仕事や問題事の解決など……面倒なものからお願いしましょうか)
副音声に気づいたルシファーは肩を落としながら、最愛のリリスの隣に移動した。彼女を取られないよう、きちんと背に庇う。それから結界を1枚増やして口を開いた。
「……礼は不要だ」
「甘えるなど、私の気が済みませんから」
表面だけなら謙虚な部下と鷹揚な主君に見えるやり取りに、魔王城の裏の力関係を読み取ったイザヤはそっと目をそらした。アベルはまったく気づかず、無邪気に「魔王ぱねぇ」とはしゃぐ。日本人でありながら、空気を読まないアベルの頭をポンと叩き、イザヤは強引に彼の視線を森の方へ移動させた。
世界には知らなくていい事情というものが存在するのだから。
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