魔王様、溺愛しすぎです!
682. 餌付け禁止になりました
吹き飛んだ私室の修繕が本格的に始まり、ついでなので多少の設計変更も行われた。この際なので、魔王と魔王妃の部屋を一緒くたにする乱暴な計画だ。呪いの品に大公が気を取られている隙に、ルシファーがこっそり手を打ったため、後日騒動の種となることだろう。
「即位記念祭まであと5日です」
アスタロトのこの一言で、現場が阿鼻叫喚の嵐となった。リリスのドレスは7着のうち5着しか仕上がっておらず、アクセサリーもあれこれ足りない。リリスは鼻歌を歌いながらドレスにアクセサリーを合わせ、首をかしげた。
「ねえ、ルシファー。このドレスは首元のレースが素敵だから首飾りをやめて、指輪や耳飾りを派手にしたらどうかしら」
「オレのお嫁さんはセンスがいい。そうしよう」
ほぼ言いなりの魔王は当てにならず、少女達が周囲を固めて助言を始めた。貴族としての嗜みで装飾品に詳しいルーシアとシトリーが提案する。色に敏感なルーサルカが調整し、最後に値踏みが得意なレライエとアムドゥスキアスが口を挟んだ。
「こちらの耳飾りでしたら、指輪はこれね。同じ宝石同士がいいわ」
「それなら、色のグラデーションを楽しんでこちら宝石にしない? 同色系の別石も奇麗よ」
「デザインは最初の指輪がいい」
「価値で言えばこちらの方が高額です」
「なら、宝石を嵌めかえればいい」
提案するルーシア、ルーサルカが色の変更を口にし、シトリーがデザインを選ぶ。宝石の価値や見栄えを翡翠竜が告げたため、最終的にレライエが全部を纏めた。
花デザインの赤い耳飾りに、蝶のモチーフである赤い宝石。ピンクの宝石を選ぶと蝶ではなく、別の花模様になってしまう。宝石の大きさが近いことから、蝶々の赤い宝石をピンクの宝石と交換する案が採用された。
スプリガンが受け取った横で宝石を留める爪を外し始める。彼らの手に掛かれば数時間で完成するだろう。その間に別の日の衣装に合わせて、再び会議が始まった。少女達に頷きながら、リリスも時折意見を挟む。互いに楽しみながら時間が過ぎていく……横で、ルシファーは書類に署名をしていた。
執務室の半分をリリスの衣装部屋として提供したため、同じ室内で一緒の空気が吸えて、姿も見えるし声も聞こえる状態を死守した魔王の勝利である。争う不毛さに気づいたアスタロトとベールが引いたので、意外とすんなりこの状態になった。
「さあ、ルシファー様。あと50枚前後で終わります」
積んだファイルの数に、ルシファーの美貌がひきつる。署名する枚数は50枚足らずだが、署名のために目を通す資料が分厚過ぎた。これらを一瞬で脳裏に焼き付ける魔法陣を開発したいものだと唸りながら、諦めて手前の山から崩し始める。
かなりの速読で内容を詰め込み、最後に添付された承認書類にサインする。隣の印章を掴んで、ぺたんと押した。すると待ち構えたアスタロトが次の書類を差し出しながら、口元にチョコレートを差し出す。普段からリリスによる給餌行為に慣れたルシファーは、ぱくりと口を開けて受け取った。
「ん? どうした」
「いえ、頭を使ったら少量の糖分を補給すると、楽になるそうです」
「ふーん。ありがとう」
素直にチョコレートを食べる横から、頬に手を添えてぐいっと横を向かされた。強引な動きに、首のあたりでゴキッと異常な音がする。
「ぃ……た、リリス?」
「ルシファー、私以外の手から食べてはだめよ」
「ご、ごめん」
口で噛んだチョコレートを除去する。このくらいは魔法で一瞬だが……言われた通り食べるのをやめたら、満足そうな笑顔のお姫様は髪飾りを揺らして頷いた。苦笑いしたアスタロトは見ないフリで書類の整理を始める。その間に唇に、別のチョコレートが押し当てられた。
「はい、あーん」
「あーん??」
意味がよくわからないが、チョコレートは非常に美味しかった。首を擦りながら仕事に戻るルシファーの上で、アスタロトが「申し訳ございません。魔王妃殿下」と謝罪し「あら、今後は気をつけてね。アシュタ」とリリスがやり返す。そのけん制し合う姿に眉を寄せながら、難しい数字が並んだファイルに集中するルシファーだった。
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