魔王様、溺愛しすぎです!
629. 身の程知らずの顛末
魔法陣を目の前にひとつ置いた。用心して取り囲むドラゴンに笑いかけ、ひらりと魔法陣へ手を振った。それが合図だ。くるり回転した魔法陣が起き上がり、平面だった攻撃用魔法陣が発動する。
4つの属性を盛り込んだ円形の魔法陣は、中央に星が描かれている。その真ん中に菱形の石を、指先で押し込んだ。星が立体になり棘のある金平糖に似た形で回り始める。
「君達、バカでしょ……」
呆れ顔で溜め息をついてみせた。煽られて攻撃を仕掛ければ、魔法陣の餌食になる。しかし動かなければ、続く侮辱を黙って受け入れたのと同じだった。彼らにはどちらも耐えがたいだろう。
無駄なプライドだけが肥大した、まさにトカゲ。ドラゴンの名を冠するに相応しくない生き物を、同等に扱うのはルキフェルの矜恃が許さない。
「何をっ!」
「強がろうと1人ではないか」
「そうだ! 貴様などすぐに」
ぶわっと魔力を放出して威圧に変える。よくルシファーが勇者相手に使う方法だった。びくりと肩を揺らした連中が身を竦める。本能が覚える恐怖は、彼らの声を凍結した。
「なんでお前らを片付けるのに、複数の大公が必要だと思うのさ。僕だけだって過剰戦力なのに? 本当に頭がおかしいね。この程度の奴らがルシファーに挑もうだなんて――」
そこで意味深に言葉を切って、無邪気に唇を人差し指で押さえた。黙るよう指示する仕草で、にこにこと可愛らしい笑顔を振りまく。
「身の程知らずにも……限界ってあるんだよ」
我慢できずに動いた1人が魔法を繰り出す。鋭い風の刃が魔法陣に触れた瞬間、強烈な竜巻が返された。属性に合わせて同じ属性で数倍にして報復する、タチの悪い魔法陣は研究結果を応用したものだ。
「ねえ……君達は知らないだろうけど、ドラゴン最強の瑠璃色を纏う僕に攻撃する意味、少し考えてみたら?」
「貴様を最強だと認めた覚えはないっ!」
飛んできた炎が魔法陣をすり抜ける。
「やったっ!」
「うん、弱すぎて魔法陣が反応しないなんて予想外」
火力が足りず、攻撃とみなされなかった炎を、ドラゴンの尻尾が叩き伏せる。一振りで炎が消滅した。
「ドラゴンこそ最強の種族だ! 魔王など……」
「魔王など、何?」
凍るような冷たい魔力が周囲を満たしていく。放出する魔力は、普段ルキフェルが体内で循環させるものだ。大量すぎて周囲の環境を壊してしまう。だから身の中に閉じ込めてきた魔力を、遠慮無く放った。ルキフェルが睨みつけた先から、凍り付いた愚か者の羽が砕けて落ちる。
「うわぁ!」
「化け物だ」
結束が強く同族と共にあることを望む竜族でありながら、ルキフェルがベールに育てられた一因がここにある。ルキフェルの強すぎる魔力に、他のドラゴンは萎縮し、怯え、本能に従い殺そうとした。瑠璃色という希少色を纏う上位種を育てる方法を知らない同族は、赤子のルキフェルを放置し存在を無視する。
もしルシファーの指示がなければ? ベールがルキフェルを見つけられなければ……魔王の養い子にならなかったら。乳を与えられず、他者の温もりを知らない赤子は消滅したかも知れない。溢れる魔力で自らを害して、人知れず葬られた可能性があった。
だからルキフェルは同族を信用しない。赤子だった自分に乳を与えたのは一角獣、一緒に遊んで感情を教える役を虹蛇、空を飛ぶ方法を鳳凰が担った。幻獣霊王たるベールとともに幻獣や神獣が育てたドラゴンは、その秀でた魔力と才能を開花させ、数千年かけて操る術を覚えたのだ。
同族と呼ぶなら、ベール率いる幻獣や神獣の方だろう。
「僕1人に翻弄されるトカゲが、魔王に勝てる気でいるの? 僕が全力で戦っても2日も保てば上出来かな、次元が違うんだよね」
絶望を与える言葉を吐き捨て、魔法陣を最終段階へ移行させる。冷たく凍える魔力を注入された中央の石にヒビが入った。多量の魔力を受け止めきれない核が砕けた瞬間、魔法陣はすべての属性を一斉に外へ放った。注がれた魔力を使い切った空に、浮いているのは瑠璃色の竜のみ。
砕けた大地に大きなクレーターが出現し、そこに叩きつけられたドラゴンが折り重なっていた。地上にいた竜人に至っては、吹き飛ばされ焼かれ裂かれた肉となって転がる。
「……やりすぎた」
惨状に顔を引きつらせ、ルキフェルは肩を落とした。もっと手加減しないとダメだ。これではアスタロトに嫌味を言われてしまう。言い訳を考えながら、息のあるドラゴンを探すため地上に降りた。
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