魔王様、溺愛しすぎです!
493. 薔薇のお姫様ルックで視察
薄桃色のドレスは幾重にも布が重ねられてふくらみ、花の蕾を下向きにした形のスカートが風を孕んで大きく揺れた。編み込んだ黒髪に共布で作った花飾りが散らばっている。小花を模した髪飾りを追加で差していたルーシアが、手を離して跪礼をした。
「これは……っ、見事なお姫様だ! 綺麗だし、可愛いよ。リリス」
絶句したルシファーは、すぐに歩み寄って手前で膝をついた。リリスの白い手を捧げ持つと、そっと唇を押し当てる。擽ったいと笑う幼女はご機嫌で、床に触れるほど長いスカートの裾をめくって足先を見せた。
「これも可愛いの!」
お揃いで用意されたらしい、薄桃色の踵が高い靴はサンダルに近いデザインだ。しかし爪先と踵を覆っているため、靴の方へ分類されるだろう。正式なパーティーであっても履いていける物だった。
「ルーサルカ、ルーシア、シトリー、レライエ。礼を言う。愛らしいリリスの魅力を引き立てるドレス、サプライズ・プレゼントは確かに受け取った」
「リリスもありがとうした! たくさん言った」
「そうか、立派だぞ」
カーテシーで応じた4人の少女達は嬉しそうに顔を綻ばせる。薄く目元と唇だけ化粧をしたリリスが、ルシファーの頬に唇を押し当てた。キスというには幼い仕草だが、両手でルシファーの頬を掴んでいる仕草は微笑ましい。
「本当にお似合いです」
「贈り甲斐がありますわ」
口々に褒める少女達に、リリスは「ありがとう」と満面の笑みで応える。
まだ膝をついて視線を合わせるルシファーが、思い出したように収納空間から首飾りを取り出した。長さを魔法陣で調整してから、リリスにかける。淡いピンクが輝く『薔薇色』の名を冠する宝石の首飾りに、リリスがはしゃいだ声をあげた。
「きれぇね! リリス、薔薇のお姫様みたい!」
「オレのお姫様だからね」
アスタロトあたりが苦言を呈するだろう高額ジュエリーを平然と子供に与え、ルシファーはリリスの黒髪や額に接吻けを贈る。普段のように抱き上げないのは、折角着せてもらったドレスを皺にしないためだ。
「明日はこれ着てく!」
「うん? 汚れちゃうぞ」
裾は床についているし、淡いピンクは汚れが目立つだろう。街の視察ならともかく、森の中を移動するのに困るのではないか。リリスに諦めるよう言い聞かせるつもりだったルシファーだが、次の言葉でリリスの言いなりになってしまった。
手のひらで転がすどころか、吹けば飛ぶ軽さで転がされる。
「平気よ。パパが抱っこして守ってくれるもん」
「……っ! そうだな、オレが抱いてれば汚れないし危なくない」
気を付けて抱き上げたお姫様はご機嫌で、ルシファーにしがみついた。そのまま連れ帰られるリリスを手を振って見送り、少女達は幸せの余韻に浸りながら甘い吐息をこぼす。
「素敵ね、私も早く恋がしたい」
「ルーシアは幼馴染の婚約者がいたわね」
「羨ましいわ」
ルーサルカが呟き、婚約者のいるルーシアを羨むレライエとシトリーが声を揃える。ずっと魔王とリリスの甘い雰囲気を見慣れているから、自然と異性に求める基準が高くなってしまう。彼女らはそのことに気づいていなかった。
「でも彼は、魔王様のように甘い言葉はくれないわ」
「それは贅沢よ」
「魔王様ですものね。比べちゃいけないと思うの」
「でも……あの髪形はどうなさったのかしら? 今日はいつもと違っていて、その」
常に整えられている純白の髪が絡まって、大量の花が差し込まれていた。リリスが編んでくれたと喜んだルシファーが固定の魔法陣を使ったため、髪形がそれ以上崩れることはない。顔を見合わせた彼女らの中で、唯一事情を知るルーサルカが事実を告げた。
「あの髪形はリリス様のお手によるものよ」
「「「……ああ、なるほど」」」
察してしまった少女達は微妙な顔をしたが、ふと我に返る。明日は早朝から視察の同行があり忙しいのだ。今日のうちに準備を整えておかなくてはならなかった。
「お菓子はルーシア、お茶はシトリーに任せるわ」
ルーサルカの指示で2人が一礼して動き出す。残ったレライエと他の準備を話し合い、ルーサルカ達も部屋を飛び出した。
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