魔王様、溺愛しすぎです!
452. 全員目を逸らせ! お姫様の危機一髪
問題は後方に展開するドラゴンや魔獣達だった。天井を大きく作ってよかったと見当違いの感想を抱きながら、ルシファーは大公達の説明を待つ。公式の場で最上位の魔王が言葉を発するには、それなりの手順が必要なのだ。
「魔王陛下の下命に従い、近隣の公爵、侯爵、伯爵を招集いたしました」
「ご苦労だった」
伯爵位以上のすべてを招集したわけではないので、近隣の貴族だけで構わない。しかし、まるっと無視された後ろの羽が生えた奴や毛皮の者は、どうしたものか。助けを求めるルシファーの視線に、肩を竦めたアスタロトが擁護する発言をした。
「戦闘に貢献した彼らの同席をお許しください」
ああ、つまりは見学か。魔獣達は滅多に魔王城に滞在しない。周辺で生活しているが、謁見の間は初めての者も多いだろう。納得して頷けば、何もなかったようにベールが議題を切り出した。
「異世界より召喚された者の処遇に関し、魔王陛下の恩情で魔王城への滞在が予定されています。異議のある方は挙手で示してください」
「よろしいですかな?」
発言を求めるドラゴニア侯爵家エドモンドに、ベールが頷く。一礼してから、彼は勇者たちを指さした。
「彼らは魔王陛下のお命を狙った輩です。城に置くのは危険ではありませぬか」
「……余は魔王、力を貴ぶ魔族の王ぞ」
穏やかな笑みを浮かべ、着替えたリリスの裾を直しながら答えを示す。
「魔王として強者の頂点にたつ余が、己の命を惜しんで助けを求める弱者を切り捨てるのは愚の骨頂。不意打ちに倒れる程度の魔王など不要だ」
「恐れ入りましてございます。若輩者のたわ言にございました」
感極まった様子のエドモンドに、ルシファーは銀の瞳を向けた。ドラゴンの中では重鎮と呼ばれる年長者だが、長く生きる魔王からみれば赤子同然だ。遜ってみせるエドモンドを柔らかく労った。
「いや、そなたの懸念はもっともだ。余の心配をしたのであろう? 礼を言う」
「有難き幸せ」
どこぞの時代劇のようだと思いながら、アベルは魔族の観察に勤しんでいた。耳が猫だったり狐だったり、大きな尻尾があったり、ファンタジーな光景が広がる広間は、アニメ好きな彼にとってコスプレ広場と同じ。目を輝かせて豊富な魔族の特色を眺める。
「他に意見は?」
ベールが淡々と議事進行を行う中、イザヤは妹アンナを抱き寄せていた。怯えている様子はないが、まだ体調が悪いアンナが倒れないか心配なのだ。出来れば座らせたいが、魔王以外は立っているのが慣習と言われると反論も出来ない。男の自分の方が体力があるだろうと、妹を支える役を買って出た。
「ならば異議なしとして承認します」
終わりを告げるベールの声が聞こえ、リリスがぽんと膝の上から飛び降りた。さきほど着替えたので、今はピンク色のワンピースを着ている。走っていく彼女の後姿に、ルシファーが慌てて立ち上がった。
スカートの後ろが下着に巻き込まれおり、真っ白なパンツが丸見えだ。抱っこしていた時はスカートを巻き込んでいたのに気づかなかった。お姫様の下着が衆目晒されてしまう。
「まて、リリス」
「なぁに? パパ」
次の瞬間、声をかけたことを後悔する。ルシファーの呼びかけにリリスが振り返ったのだ。お尻を貴族の方へ向けたため、ルシファーの厳しい声が響く。
「全員目を逸らせ! 見た奴の目を抉る」
ドラゴンは羽で顔を覆い、魔獣達もゴメン寝状態で目を両手で覆った。貴族達はさりげなく視線を逸らしたり、足元を凝視する。ほっとしながら近づいて、リリスのスカートを手早く直した。
危ない。やっぱりリリスを下ろすのは危険だ。
一番危険な自分の思考を棚上げし、ルシファーはこれからも抱っこ生活を続けさせようと決意した。危険だった自覚がないリリスは首をかしげ、「もう行っていいの?」と尋ねる。黒髪を撫でれば、大きな赤い瞳がぱちりと瞬きした。
「一緒に行こうか」
「うん」
ルシファーの手を引っ張ったリリスが向かうのは、大きな1匹の魔狼の前だった。
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
17
-
-
炎鳥転生~最弱のひな鳥に転生した男の成り上がり冒険譚~
-
14
-
-
彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ
-
12
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
15
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
悪役令嬢と書いてラスボスと読む
-
10
-
-
【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
24
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
61
-
-
【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?
-
20
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
6
-
-
ブラックな魔道具店をクビになった俺、有名な冒険者のパーティーに拾われる~自分の技術を必要としてくれる人たちと新しい人生を始めようと思います~
-
4
-
-
完璧な辺境伯のお父様が大好きな令嬢は、今日も鈍感
-
5
-
-
ループしますか、不老長寿になりますか?
-
2
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
9
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
22
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
17
-
-
異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
-
33
-
-
S級魔法士は学院に入学する〜平穏な学院生活は諦めてます〜(仮)
-
10
-
-
氷花の鬼神って誰のことですか?え、僕のことってどういうこと?
-
87
-
-
外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜
-
12
-
コメント