魔王様、溺愛しすぎです!
417. 懐かしい味
長細いテーブルの先で、いわゆる誕生日席にあたる場所に魔王様が腰掛けていた。両側を巨乳な巻き毛美女と嫌味なほど金髪が似合う美形が固める。城門で見かけた時も思ったが、魔族の役職付は美形が多い。魔王様が一番だが、魔力量が多いと美形になる法則でもあるのか。
魔王様がずっと手放さず抱いている幼女は、血の繋がりはないらしい。顔立ちはあまり似ていなかった。すごく可愛いし、将来美人になるだろうなと思う。タイプの違う美人だが親子という感じはなく、ひたすら甘やかしていた。
膝の上で大人しくお座りした幼女は、艶のある見事な黒髪だ。白いほど強い法則から考えると、魔王様の純白の髪の方が強いとわかる。それでも抜けるように白い肌と赤い瞳が、子供の頃に読み聞かせられた絵本のお姫様と重なった。
実際、彼女は魔族のお姫様という立ち位置なのだけど。見た目は人間の女の子にしか見えない。角や牙などの外見的特徴はなかった。
ルキフェルに言われるまま席に着くと、目の前に湯気の立つ皿が並ぶ。侍女は人族も魔族も気にした様子なく、作法に従い上座から料理を提供していくのみだ。
……最後の晩餐、じゃないよな? お昼ごはんに晩餐という表現はおかしいけど、人生最後の食事の可能性が浮かんで、手が震えた。
「怯えずとも人族を食べる習慣のある魔族は、この場にいない」
言い切られても安心できないのは、魔王様の隣にいる金髪の美人が恐い笑みを浮かべたからだ。緊迫したアベルの様子に関係なく、幼女は我が侭を振りかざし、巨乳美女に何やら説得された。
立場が上の者が手を付けるまで食事をしない。このルールは、異世界に来て早い時期に教えられた。貴族など階級がはっきりした場だけでなく、一般家庭でも適用されるかわからないが、この場では魔王様が最初に食べた。続いて幼女が金のスプーンでかき回すが、魔王様の「あーん」で大人しく口を開ける。
おれが知る世界だと最初に毒見役がいるのだけど、この世界では強い奴が上位だから逆なのかもしれない。同席の人がすべて手を付けたところで、ルキフェルに食べるよう促された。
この食べ物に毒があっても、拒む権利はないのだろう。諦めて口に運ぶ。牛乳のふわりとした甘い香りが広がって、ぽろりと涙がこぼれた。
突然泣き出したアベルに、ルキフェルは首をかしげた。
「熱かった? 火傷なら治そうか」
竜族のルキフェルは熱さが気にならない。そのため尋ねたのだが、アベルは首を横に振ると再びシチューを口にした。勢いよく食べる様子に、侍女のアデーレが追加の皿を持ち込む。空になった皿はすぐに交換され、次の魚料理とシチューが一緒に並べられた。
「落ち着いて食べなさい。のどに詰まります」
心配してくれたのか、銀髪の美形に注意される。頷いてお水を飲み、ひとつ深呼吸してから出来るだけマナーよく食べ始めた。一般中流家庭育ちなので、いわゆる上品な仕草やマナーなんて身についてない。それでも誰にも咎られることはなかった。
「パパ、あの人お腹空いてたの?」
「そうだよ、リリスもお腹すいただろ。ほら、あーん」
ひな鳥のように口を開けて、スプーンからシチューを食べていたリリスは不思議そうな顔をしたが、すぐに次は魚がいいと強請る。自分用の小さなフォークを受け取り、魚料理を突き始めた。小さな手は不器用で、カチャカチャとお皿の音を響かせる。
これが人族の貴族家庭ならば叱られるのだろうが、彼らは微笑ましげに見守るだけだった。ある程度魚を崩したところで満足したリリスに、ルシファーが「口あけて」と器用に掬った魚の身を食べさせる。温かな風景に、今度は鼻の奥がつんとして泣きそうになった。
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