魔王様、溺愛しすぎです!
395. つい心配になっちゃって
「どこからどこまで覚えています?」
曖昧なアスタロトの問いかけに、リリスは黒髪を揺らして首をかしげた。
「全部」
「……わかりました」
後ろでルキフェルが「記憶が残っていたなら、あの行動は……」とここ最近のリリスの記録を読み漁っている。ルシファーが記録した日記だが、研究用に借りていたようだ。詳細に記録されたページを確認するルキフェルの水色の髪を撫でながら、ベールが口を挟んだ。
「リリス嬢が健在となれば、王妃教育の残りを済ませてしまう方がいいでしょうか」
「ですが、手足が短くて無理なのでは?」
3歳児に執務を頼む側近という見た目は、きっと鬼畜の所業と呼ばれるだろう。ダンスや礼儀作法は済んでいるため、残るは執務関連のみだ。
「リリス嬢」
大切な確認を忘れたとアスタロトが気を引くと、まだ鼻血が止まらないルシファーの純白の髪を弄るリリスが振り返った。すでにルーサルカの手は離していて、ルーシアは大慌てでシトリーやレライエを呼びに出ている。
ベールの執務室の扉が開けっぱなしなので、通るコボルトやエルフが中を覗き込んでいく。養女であるルーサルカに扉を閉めるように頼み、アスタロトは女主であるリリスに向き直った。
「ご自分の年齢はわかりますか」
「しゃんしゃい」
今度は指を3本立てなかったが、代わりにまた噛んだ。途端にルシファーの顔がデレる。もう鬱陶しいので無視する側近が少し考えてから、問い直した。
「以前の記憶が残っているなら、13歳ですよね」
「ううん。戻ったから3歳」
今度はゆっくり話したので噛まずに言えた。ほっと頬を緩めるリリスの理屈に、アスタロトは考え込んでしまった。
無言になったアスタロトを押しのける形で、ルキフェルが声をかける。
「リリスは16歳でお嫁さんじゃない? あと何年あるの」
言葉を変えて同じような質問をされたリリスは、「両手とこんだけ」と指を3本立てた。13年あるという意味に聞こえる。つまり外見年齢が16歳にならないと、本人は結婚年齢だと認識していない。過去の記憶はあるが、肉体は若返ったという形だった。
「リリスは戻った理由、わかる?」
研究者らしい質問に、赤い大きな目がぱちぱちと瞬きした。
「知らない」
「戻る前にケガしたのは覚えてるんだよね」
こくんと頷くリリスを、ぎゅっとルシファーが抱き締めた。そのため胸元に顔を埋める形となったリリスが、じたばた足掻く。驚いたのと、ちょっと苦しかったのだろう。ぱたぱた音を立てて叩かれ、眉尻を下げたルシファーが「ごめん」と覗き込んだ。
あの時のケガの話はルシファーの前では禁句だった。反省するルキフェルをベールが引き寄せる。少し乱暴に髪を撫でて旋毛に接吻けた。頬を緩めたルキフェルが上を見上げ「大丈夫」と声に出さずに伝える。
「パパはもっと落ちちゅいて!」
「ごめんね。つい心配になっちゃって」
腕の中で急に大きくなった愛娘の話を聞いている間に、恐怖が蘇った。あのケガの時までまた戻ってしまったらどうしよう。もしかしたら今は夢なんじゃないか。だとしたら腕の中から消えてしまうかも知れない。溢れた感情のままに抱き締めていたのだ。
「リリスがいなくなるのが恐いんだよ」
「……うん。平気」
よしよしとルシファーの頭を撫でてから、リリスはチュッと音をさせて頬にキスをした。
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