魔王様、溺愛しすぎです!
323. 笑いのツボは人それぞれ
魔王ルシファーは一言で言えば、直情的だ。幼い子供に似てまっすぐに感情を示す。もちろん魔王位にあるのだから、多少の策略や謀略は扱うが好きでなかった。そういった分野を補うのはアスタロトの役目だった。ベールやベルゼビュートは表の役割を、裏をルキフェルが担当する。さらに深い闇をアスタロトが担ってきた。
「リリス嬢には期待できそうです」
愛されて育った彼女は素直だ。しかし自分やルシファーに向けられた害意には、非常に敏感だった。それは幼い頃から見受けられた傾向だが、ここ数年でより顕著になった気がする。
「……リリスの話?」
正面から来た水色の髪の少年が首をかしげた。16歳前後の外見まで急成長したルキフェルは、最近手足の関節が痛むらしい。今まで成長を押さえつけてきた反動もあるが、身長が30cm以上伸びたのだから多少の痛みは許容範囲だった。
ずっと書庫の整理をしていたルキフェルの服や髪に、埃がついている。手を伸ばしかけて、ベールの役目だと手を引っ込めた。うっかり世話を焼いてしまうと、ベールに余計な勘繰りをされる。鳳凰もそうだが、幻獣系は嫉妬が激しい種族ばかりだった。
「ええ、舞踏会の話は知っていますか?」
「うん。ルシファーも甘いけど、アスタロト達も甘い」
むっとした口調で呟くルキフェルの手から、半分ほど本を受け取る。ルシファーの執務室にある書棚の中身は、定期的に入れ替えが行われていた。ほとんどがここ百年ほどの出来事を纏めた本だ。執務に必要な内容を確認して並べ替えるのは、本好きなルキフェルの仕事だった。
「ありがとう……なんで許可したの」
本が減って軽くなったルキフェルは、廊下に人がいないのを確認して尋ねる。
リリスが舞踏会を強請ったとして、叶えたいと願うのはルシファーの立場なら当然だった。しかし誓約やら取り決めがある以上、絶対に阻止すると思ったアスタロトやベールが最終的に許可を出したのは、ルキフェルにとって驚きだ。
「リリス姫のご要望だから、ですよ」
魔王妃候補である姫という肩書を使ったことで、ルキフェルは裏を察知したのだろう。眉をひそめて空中を睨み、すぐに思い至った噂を口にした。
「辺境伯のご令嬢の恋愛事情かな」
「さすがによくご存じですね。リリス姫のお耳に入れたのは……ルーシア嬢でしょう」
肝心の部分をぼかしながら続く会話は、執務室の手前で途切れた。部屋の中から何やら声が聞こえる。防音機能のついた扉を眺め、衛兵に目配せした。ノックして到着を伝えてもらい、開いた扉の内側へ踏み込む。
「騒ぎが外まで漏れておりますよ……?」
不機嫌そうなルシファーは机に肘をついて、上に乗っていた書類が足元に散らばっている。よく見れば署名用のペンやインク瓶も床に転がって、印章が見当たらなかった。
「癇癪でも起こしましたか」
ルキフェルの後ろに立って、本を手渡しながら首をかしげる。いそいそと近づいてきたベールが、慣れた手つきでルキフェルの服や髪についた埃を払った。
「…………リリスと、何を話した?」
低く地を這う魔王の問いに、アスタロトは数回瞬きをした。驚きすぎて声が出ない。まさか本当に子供の癇癪さながらに、嫉妬でこの惨状を引き起こした?
「オレを追い出すような話か」
真剣に問う銀の眼差しに、アスタロトは吹き出した。大笑いしながら本を落とし、1冊が足の指に痛みを与えるが笑いが止まらない。数千年ぶりの大笑いが収まったのは数分後だが、不機嫌MAXのルシファーはずっと眉間に皺を寄せていた。
「ふふ…っ、すみませ、……くくくっ」
謝罪しようとしてもまだ笑いが止まらない。珍しく笑い続けるアスタロトは、苦しそうに腹部を押さえながら顔を上げた。しかしルシファーの顔を見るなり思い出して、吹き出す。どうにも収まらない笑いの発作は、その後10分ほど続いた。
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