魔王様、溺愛しすぎです!
209. 魔王様は幼女と幼児と行方不明
これで這って進む大きさだったら、発狂レベルの精神汚染がありそうだ。
「この先か」
洞窟の入り口は人工的に作られた丘だったが、中は天然の鍾乳洞だったらしい。奥に進むにつれ、だんだん天井が高くなった。さらに足元も天井も鋭い鍾乳石が並ぶ。
幼女が歩けるような洞窟ではなかった。リリスを置いてきて正解だったと溜め息をついて、足元の鍾乳石にへばりついた腐肉を頼りに進む。通り抜けた魔物ゾンビが押し倒したり壊した鍾乳石に沿って進み、大きな地底湖がある空間に出た。
まるで広間みたいな空間を見回すと、湖の脇に小さな魔力溜りを見つける。瘴気に似た濁った魔力が漂う右側へ歩き、中を覗き込んだ。正体不明の白い湯気か煙が湧き上がる穴は大きく、大人がゆったり横たわれる幅があった。
「なんだ、これ」
記憶にない魔力溜りに眉をひそめる。魔王城を建設した7万年ほど前に、この周辺は徹底的に調査したはずだった。しかし記憶にないし、いつ出来たのかもわからない。
ゾンビの腐肉が穴の縁に残っている事実から、この魔力溜りがゾンビ発生地で間違いなかった。穴を塞いで結界でも張っておけばいいかと軽く考えたルシファーだが、ふと馴染んだ気配を感じて振り返る。誰もいない筈の背後が突然光った。
「え? うそ、ちょ……っ、マジで!?」
光った背後に現れたリリスとルキフェルは、空中に浮いていた。慌ててリリスに手を伸ばして抱き締める。腕の中で嬉しそうに笑うリリスに微笑み返したところで、バランスを崩したルシファーは魔力溜りの穴に落ちた。
リリスを抱いたまま……繋いだ手を離さなかったので、ルキフェルも一緒に。
魔力溜りはどこかへ繋がっていたらしく、腰や背を打たずに吸い込まれる。ドライアイスの煙に似た白い蒸気がぶわっと舞い上がり、彼らを綺麗に飲み込んだ。
それから数分後、追いかけたベールはルシファーと同じルートを辿り、地底湖にたどり着いていた。魔力溜りを発見し、ルシファーと同じように中を覗く。しかしベールは落ちることなく首をかしげた。
「魔力の残り香はありますが、3人ともどこに行ったのやら」
見失った魔王とルキフェル、リリスを心配しながら溜め息をつく。結局、ルシファー達を発見することなく、彼は魔王城の城門へ戻った。
「つまり、陛下は行方不明なのですか」
「……ブレませんね」
呆れ半分でアスタロトの言葉を聞く。アスタロトにとって、自分より大切なのは魔王――次点でリリスだろう。それもルシファーが大切にしている幼女だから、という理由だ。
「陛下のもとへ飛んだリリス嬢とルキフェルは、合流できたはずです」
魔力溜りの周辺は多少空間が歪んでいる感じはしたが、リリスとルキフェルの魔力がわずかに残されていた。無事に魔力を辿って飛べたのだ。問題はその後で何が起こって、彼らが姿を消したのか。そしてどこへ消えたのか、だった。
「リリス嬢は魔力を辿って飛んだとしたら……我々も同様の方法で飛べませんか?」
アスタロトが真剣な表情で提案する。かなり難しい状況だが、魔力同調を何回も繰り返している彼らにとって、魔王の魔力を追うことは不可能ではない。しかし『辿って追う』のと『同化して飛ぶ』のは別物だった。
通常の転移は、魔法陣によって始点と終点を指定する。そこに安全装置として、地上との距離や障害物を避ける記号を足していくのだ。だから安全に転移ができる。
リリスが使ったと思われる方法は、自分とそっくりな魔王の魔力へ重ねるというもの。磁石が引き合うように、凹凸が重なるように、同じ魔力へ自分自身を重ねた。そこに安全装置は存在しない。つまり……何らかの事故があった可能性も否定できない。
「難しいでしょう。リリス嬢は陛下の魔法陣を奪えるほど同化していましたが、私には無理です」
ばっさりと可能性を切り捨てたベールが溜め息を吐く。可能ならば、とっくにルキフェルの魔力と同化して飛んでいる。庇護するルキフェルの不在に、彼も多少苛立っていた。
リリスの非常識な移動、巻き込まれたルキフェル。連絡も寄越さず消えた魔王――顔を見合わせた側近2人は、別の方法を模索すべく頭を悩ませた。
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