新撰組に入隊することになりました【タイムスリップ】
取調べ
---懐かしい香りがする---
夏休みに田舎へ帰ると、この香りがしていた
香りだけでなく頬に感じる畳の感触に、うっすら目を開ける
ぼんやりと見える着物の後ろ姿
「…ハゲて…ない……」
低い座敷用の机に向かって書き物をしている背中に声をかける
「あぁ"?」
おかしい…。
うちのおじいちゃんは頭皮にシールが貼れるほどツルツルだったはずなのに…
「頭皮が…復活してる…?」
ツルツルだったはずの頭が、何故か奇跡的に息をふき返し、長髪という原型以上の成果をあげている
…物心ついた時からハゲてたから、原型は知らないんですけどね?
「…馬鹿にしてんのか」
机の前に胡座(あぐら)をかいている男の眉間には不機嫌そうにシワが刻まれているが、整った顔立ちをしているため、それさえも様になっているように見える
っていうか、髪の毛どころか顔まで
イケメンに改善されている
女神の泉にでも落ちたのか?と聞きたいほどの変化だ
いや、そもそもじいちゃん死んでるわ
「…新撰組屯所に来て挑発するとはいい度胸してるじゃねぇか」
「嘘です、ごめんなさい」
起きて見た瞬間から別人だとは気づいたが、悪ノリし過ぎたらしい
そこは「おじいちゃんだよーん」くらい言ってほしいものだが、鋭い眼光に自分の頬が引きつるのがわかる
整った顔立ちのせいで睨んだ時の怖さが半端ない
先ほど出会った佐野さんもまぁまぁ整っていると思ったけど、この人は現代の人が見てもキャーキャー騒ぎそうな整った顔をしている
切れ長で涼しげな目元にスッと高い鼻、唇は薄めで綺麗な形をしている
態度もなんだか偉そうだし、罵られたい願望がある特殊な女子ならイチコロなんじゃないかな
「…ところで私は何故縛られているのでしょうか」
さっきから相手の顔面評価という名の現実逃避をしているけれど、実際は両手両足を縛られて畳に転がされている
何食わぬ顔してこっち見てるけど、女子中学生連れ込んで拘束プレイとか犯罪ですからね?
そんな顔して、もしかして変態なんじゃ「不愉快なことを想像してそうだから言っておくが、縛ったのは俺じゃねぇし、縛られて当然だ」    
「なにゆえ!?」
縛られて当然って、私、ただ生きていただけですけど!?
新撰組の人に無意味に殺されかけたし、むしろ謝ってほしいくらいなんだが!!
「その訛りからすると、出は江戸か?」  
「え、江戸…?」
多分、どこから来たか聞かれてるんだろうけど…。
江戸ってどこ?
そもそも、江戸って時代の呼び方なんじゃないの!?
えっと…、っと目をキョロキョロさせて打開策を考えている私を見る目が険しくなっていく
待て待て待て、キレるの早すぎない!?
絶対、彼女がデートに遅刻したらブチ切れるタイプの人間だろ
そもそも、神奈川ってこの時代にあるの!?
「…こっ、個人情報なので…」
「あ"?」
「うそです!神奈川であります!」
なんとか答えをはぐらかそうと頑張ったけど、子供なら号泣して失神間違いなしの顔で凄まれて叫ぶようにして答えた
あるよね!?
この時代にも、神奈川あるよね!?
「港の方か、どうりで品がねぇわけだ」
「いや、全国の港町女性に謝れし、ごめんなさい」
現代なら差別発言で大問題になりそうなことをサラッと言ってのけるイケメン
それ以前に目の前で罵られた私の気持ちよ
私が発言するたびに鋭く睨まれるため、語尾が「ごめんなさい」化している
「何しに京に来た?」
新撰組って警察みたいなもんだっけ…。
事情聴取をされているらしく、面倒くさそうではあるが、淡々と質問してくる
「…か、観光に」
「1人でか?」
「…一人旅が趣味でして」
「京まではどうやってきた?」
答えるたびに険しさを増す顔に怯えながら、頑張って答えていたけど…どうやって!?
この時代に新幹線はないし…車もないから…
この時代の移動手段を頭をフル回転させて考える
「ふ、船…とか?」
「船だぁ?」
えぇ!?
この時代、船ないの!?
どうやら船は地雷だったらしく、私は完璧に黒だと認定されたらしい
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