新撰組に入隊することになりました【タイムスリップ】
光る刀身
斬られる!!
全身に力を入れて目を瞑ったまま、くるであろう衝撃に備える
しかし、いつまで経っても男の刀が私に届くことはなく、代わりにギリっという金属が擦れる音が耳に届いた
「おいおい、誰が斬っていいっていったんだ?」
「危なかった〜」
大丈夫?と俯いていた私を覗き込む男は同い年くらいに見える
…た…助かった…?
地面に座り込んだまま、さっきまで私に刀を振り上げていた男を見ると、腕を背の高い男の人に掴まれ、私に声をかけた小柄な男に刀身を刀で受け止められていた
さっきまでいなかった、見知らぬ男の人達に助けられたらしい
自分が助かったことに気づき、強張っていた体から一気に力が抜ける
咄嗟に息を止めていたようで、今更ながら呼吸が荒くなり、心臓がドクドクと脈打つ
この人達が来てくれなかったら…
想像しただけで体が小刻みに震えた
まさか本当に斬りかかってくるとは思わなかった
だって、この人達はコスプレしているだけで…
そう思いたいのに、現状がそれを許さない
変わってしまった街並み、現代の人とは思えない服装、私を変だと言った時の目は演技なんかじゃなく、本当に不思議そうにしていた
まさか……、アニメとかであるけど、本当に起こるなんてこと…
「顔色悪いけど…「今って、令和ですよね?」
私を介抱しようとしていた小柄な男に質問すると、きょとんとした表情で首を傾げた
「ごめん、れいわ…って何?」
れいわ、れいわ…と連呼して意味を考える男に、認めざるを得なかった
ここは私がいた時代じゃない
信じたくないし認めたくないけれど、私は多分、タイムスリップってやつをしてしまったらしい
いや、馬鹿げたことを考えている自覚はあるよ
でも、それ以外にこの状態を説明できる?
「れいわ…はよくわからないけど、とりあえず目立つし、屯所まで来てくれる?」
地面についていた片膝を軽く払うと、立ち上がって私に手を伸ばした
それを掴むように手を差し出すと、見た目からは考えられないほど軽々と私を引っ張り上げる
「豚(とん)…?」   
聞き慣れない言葉に今度は私が首を傾げた
養豚場…ではないだろうし、どこへ連れて行かれるんだろう
「新撰組の屯所。すくそこだから、背負わなくても歩ける?」
「し、新撰組!?」
男の言葉に思わず声を上げた
新撰組って、あのドラマやアニメでよく出てくる、有名なあの!?
っていうことは、この人も新撰組の一員!?
「そんなに怯えるなって、別にとって食ったりしねぇから。なぁ、平助?」
「左之さん、そういう冗談言ってるから京すずめ達に変な噂たてられるんだろ」
あはは、と呑気に笑う背の高い男は佐野、ため息をついている小柄な男は平助というらしい
これが有名な新撰組か…とまじまじと2人を見つめる
新撰組ってイケメンで描かれることが多いけど、確かに間違った情報ではないのかもしれない
佐野?って人は身長が高いし鼻筋は通ってて、目も切れ長、昔の人の基準はわからないけれど、多分イケメンの部類に入ると思う
平助って人は小柄で、顔は男らしいっていうよりは可愛い系の柔らかい雰囲気がする
年も私に近そうだし身長はこれからに期待かな
なーんて、勝手に顔面評価していると、平助が私の手を掴んだまま歩き出した
急に引っ張られた事もあるけど、足に力が入らず、ズサーッと地面を引きずられる
「えぇ!?だ、大丈夫!?」
目を丸くする二人に力なく笑いかける
「足に力が入らないみたいです…」
どうやら自分で思っていた以上に、さっきの出来事は衝撃的だったらしい
当然といえば当然だ
あんな真っ正面から殺されかけることなんて、私の時代ではあり得ない
「仕方ねぇなぁ」
さっきの男の鋭い眼光を思い出すだけで身震いがする
佐野さんと言い争った結果、どこかへ行ってしまって今は近くにはいないのが救いだ
ほれ、と目の前にしゃがんだ佐野さんに躊躇していると、平助が「頑丈だから安心だよ」と背中に乗るように促した
恐る恐る広い背中にしがみつくと、すくっと軽々と立ち上がられて、後ろに倒れそうになるのを平助が支えてくれた
「お前、飯食ってんのか?」
スタスタと歩き出した佐野さんの背中は広くて揺れもあまりなく、安定感がすごい
首に回した手が小刻みに震えているのがバレないように、ぐっと自分の手と手を握りしめた
誰かに背負われるだなんて、お父さん以来、初めてだ…
怖くて不安なはずなのに、広くて温かい背中に意識が朦朧としてきた
雑談する二人の会話が次第に遠くなるのを感じる
寝ちゃダメ、まだ考えなくちゃいけない事がたくさんあるし、この人達だって安全かどうか……
そう思うのに、目蓋がだんだん落ちてきて視界が狭くなる
タイムスリップをして知らない土地かつ見知らぬ男の背中で、私は意識を手放した
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