あの狼たちによろしく
外伝 ー月夜の花澤朱里(ハナザワ・アカリ)ー
外伝 -月夜の花澤朱里(ハナザワ・アカリ)-
道を……間違えた?
大学の後輩が設計に関わったという、この街の市長肝入りの「川沿いライトアップ歩道」。
綺麗だと聞いて、飲み会の帰りに寄ってみようと思ったけど。
暗くて、ライトアップは無いし、道の向こうにはラブホテル……。
絶対に道を間違えた。川を一本間違えたのかもしれない。
早く抜けよう。
早歩きになったその時、前方の草むらから音が聞こえてきた。
大きな背中。男が草むらから体を起こそうとしている。
立ち止まって方向転換しようとしたら、目の端に女性の姿が入った。
男が女性に覆いかぶさっている。
これは……いけない!
私はすかさずスマホに手を伸ばし、警察に連絡する。
住所がわからない。仕方がないので、一番近くのラブホテルの店名を告げた。
すぐに駆けつけてくれるそうだ。早く来て!
見ると男が女性を担ぎ上げている。
—―連れていかれる!
「待ちなさい!」
思わず声が出た。止めなければ。警察が来るまで。
「あ?」
男が振り返ってこちらを見る。
「ジャマすんな」
言うとすぐに歩き出した。
は? ジャマ? ジャマするに決まってるでしょう!
「その人、どうするつもり! 放しなさい!」
「なんだよ、めんどくせぇな」
男が女性を降ろし、携帯でどこかに連絡をする。ガラケー。犯罪用? 仲間を呼ぶ?
「で、何の用だ?」
男はまた首だけをこちらに向けた。女性の腕を掴んだままだ。担ぎ直すつもりだろう。
「何って女性を襲ってたじゃない!」
怖い。この男はとても大きい。早く警察、来て。
「違うって。見りゃわかんだろ」
「何言ってるの、悪い奴はみんなそう言うでしょ!」
「何のことだよ」
男が携帯をポケットにしまった。
こちらを向く。
――思わず構えてしまった。
体が覚えている合気道の構え。
こんな時でもちゃんと構えられる。少しほっとする。
「ふふっ、ははっ」
突然、男が笑いだした。
「何が可笑しいのよ」
女だと思って馬鹿にしてるの?
「また合気道かと思ってな」
また? 何のこと? ふざけてるの?
「警察は呼んであるのよ」
「なんだよ、面倒くせぇことしやがって。俺が怒られるじゃねぇか」
「あたりまえでしょう。捕まるのよ」
「何で捕まるんだよ。まあいいや、警察とやらが来るまで遊んでやるよ。合気道には借りもあるしな」
合気道に借り……?
男が構えた。
とても低い姿勢。開いた両手を前に出して。
襲い掛かろうとしているかのような構え。
怖い。やっぱり怖い。
小学校3年生から20年続けている合気道。人と戦ったことなんて無い。
何か、先生の教えを、何か教えを思い出さなきゃ。
—―戦う相手と友達になりなさい。
これは今は無理。
—―いざとなったら逃げなさい。
これも今は無理。警察が来るまでは女性を置いて逃げられない。
—―男性相手なら、股間を蹴ってしまいなさい。ただし、その後は必ず逃げること。それで怒らせたら大変なことになりますからね。
これかな。警察が来るまで、それまでなんとかしなきゃ。
男が前に出る。
にやけた顔が腹が立つ。
まずは襲い掛かってくる相手をさばいてよける。
「おお、それそれ、同じだな」
男は軽いステップを踏んでいる。
「何のこと?」
「こっちの話だ。行くぞ」
また男が向かってくる。
躱して足を掛ける。
転びそうになった男はきれいに前転して、すぐに立ち上がった。
前転? 違う。受け身だ!
柔道かな? 武道を犯罪に使うなんて許せない。
男が大きく腕を振ってくる。
躱す。
腕をくぐって後ろに回る。
「ふうっ」
男がため息をついて構えを解いた。
「小さ過ぎてやりづらいな」
「いつも自分より小さな相手ばかり襲ってるんでしょ。そろそろ警察が来るわよ」
「襲ってないって。階級制じゃなきゃ大抵の奴は俺より小さい。ほら、行くぞ!」
男が突進してくる。
また躱したが、前進しながらも男は腕を大きく広げて回転する。
視界いっぱいに太い腕が迫る――――ドンッ!
大きな衝撃。両腕で防いだがどうにもならない。
体が宙に浮いた。
地面が上? 頭が下にある!
お腹に力を入れて勢いよく膝を曲げる。
大学時代に付き合っていた彼氏に教わった躰道の技。
こんなところで役に立つなんて。
躰道がメジャーじゃなくてダサいって言ったら怒って別れられちゃったのよね。あの時はごめんね。
きれいに足から着地できた。
通り過ぎた男は少し向こうにいる。攻撃は受けないはず。
首だけをこちらに向けてニヤリと笑う。
「やるじゃねぇか。面白れぇよ」
楽しんでる?
何なの? 気持ち悪い犯罪者のくせに。
警察はまだ?
よけ続けるのにも、きっと限界がくる。
腕が痛い。さっきみたいな攻撃は何度も受けられない。
相手を倒す?
私に相手を倒せるの?
いつも一緒に練習をしている、先生やヤマギワさん、シンジョウさん達の顔が浮かぶ。
ヤマギワさんなら相手を投げられるはず。
先生ならきっと、よけ続けて投げ続けることができる。
私も真似をするしかない。
シンジョウさんは……あの人はよくわからない。何を考えているのかわからなくて、ちょっと怖い。悪い人ではないのだけど。でもあの人はきっと、こういうことには強いと思う。
「また遅刻だなカワカミ。ホステスなんか助けてるからだよ、って何やってんだ?」
細面の長身の男が現れた—―仲間だ。警察はまだなの?
「ちょっと面白い相手と出会いまして」
「女じゃねぇか。OLパブの子か?」
ホステス? OLパブ? 私がスーツ姿だから?
「ホステスをどうするつもりだったの?」
しかめっ面の大男――カワカミと呼ばれていた――が細面の男に向き直った。
カワカミは草むらの女性を指さしている。
「コンドウさん、あのホステス、呼吸と脈はありましたが、かなり酔ってて店もわからなくて」
コンドウと呼ばれた男は私に向かって軽く会釈をした。
「そこのお嬢さん、すみませんね。こいつ話が下手でね。飲みすぎて帰り際に倒れてたホステスを介抱してやってたんですよ」
「そうだ、介抱、介抱って言うんだな」
介抱って言葉が出なかったの? それでこの男を呼んだの?
「警察だ、全員動くな!」
二人、男が現れた。
来た! 助かった!
トレンチコートに白髪の男。いかにも刑事風。その後ろにスーツ姿の若い男が一人。制服を着ていない。ちゃんと本当に警察官?
「おう、コンドウちゃんじゃない」
白髪の男は片手をコートのポケットに入れたまま、親しげに右手を上げた。
コンドウと呼ばれた細面の男が姿勢を正してお辞儀をする。
「どうも。マスダさん。お騒がせしてすみません」
「何があったの?」
「すみません、倒れてたホステスを介抱してまして」
「あと一般の方が、それを強姦か何かと間違われたようで」
コンドウが私を指し示す。
「あの、警察の方ですよね?」
こいつらの仲間だったら状況的にはとてもやばい。
白髪の男が若い方に顎で合図する。
若い男は警察手帳を開いて見せてきた。
本物っぽい。
南警察署。
本物か。
手帳の写真をよく見る。
実物は暗くて顔がわかりにくいけど、写真の顔はイケメンだった。
「カワカミ、こちらのお嬢さんに何かしたのか?」
「いやいや、構えてきたんでちょっと遊んだだけですよ。俺は投げられたんですよ、そこのねぇちゃんに。合気道ですよ」
カワカミが顔を向けてくる。
「合気道か。いいね。どこの道場?」
白髪が軽い感じで聞いてくる。
「待ってください!」
状況が整理できない。
皆が驚いた顔で私を見る。
「お二人は刑事さんだとわかりました。そっちの2人は何なんですか。刑事さんのお知り合いですか!?」
白髪の刑事さんが両手を広げて向けてくる。私を落ち着かせようとしているのだと思う。
「こいつらはこの辺で店の経営をしているコンドウとそのボディーガードのカワカミだ。悪い奴らじゃないが、まぁ、ヤクザだな」
ヤクザ?!
「俺はヤクザにはなっていません」
カワカミが大真面目に反論をする。コンドウは反論しないのね。
って、そんなことはどうでもいいの!
「刑事さん、ヤクザとお知り合いなんですか?」
「それはちょっと違うが……。まあ顔見知りだわな。それよりお嬢さん、どこの道場? 俺もやってんだよ。南警察署の道場で。広道館のヒロサワ館長の講習会」
ヒロサワ先生! カツラギ先生の兄弟子だ。
「ヒロサワ先生、知ってます! 一度、学生の時の大会でお見掛けしたことがあって」
良かった。広道館の方なら安心かな。
「私も広道館所属のカツラギ先生のもとでお世話になっていて」
急に刑事さんの顔が強張った。
「あの、鬼のカツラギの?」
鬼? 誰のこと?
「いや、あの小柄でいつもニコニコしている先生ですけど」
刑事さんは顔の前で手を大きく振る。
「いやいや、若いころはちょっと違ったから。いやちょっとじゃないわ」
顔が引きつっている。コンドウの表情も先ほどと変わってなんか固い。よく見ると顔にシワもある。白髪に歳が近いのかもしれない。
「おい、マサキ。このお嬢さんを丁重に家までお送りしろ。失礼のないようにな。送り狼とかしたら首が飛ぶと思えよ」
「しませんよ」
マサキと呼ばれた若い刑事が困った顔で返す。
「では、お送りします。もう少し明るい道を通りましょう」
若い刑事さんがエスコートしてくれる。
「じゃあ、あの方、ちゃんとしてくださいね」
ホステス――よく見るととても派手な女性用スーツだ——を指して念を押す。コンドウが頷く。
よかった。悪い人でもないのね。安心すると力が抜けた。若い刑事が心配して近寄ってくる。
「大丈夫です」
支えを断って歩き出す。
無事終わった。帰ってゆっくりお風呂に入りたい。
それにしても……鬼のカツラギって何?
まあいっか。
色々あって大変だったけど、いいこともしたし、今日は楽しかったな。月も綺麗だし。
(外伝 完)
道を……間違えた?
大学の後輩が設計に関わったという、この街の市長肝入りの「川沿いライトアップ歩道」。
綺麗だと聞いて、飲み会の帰りに寄ってみようと思ったけど。
暗くて、ライトアップは無いし、道の向こうにはラブホテル……。
絶対に道を間違えた。川を一本間違えたのかもしれない。
早く抜けよう。
早歩きになったその時、前方の草むらから音が聞こえてきた。
大きな背中。男が草むらから体を起こそうとしている。
立ち止まって方向転換しようとしたら、目の端に女性の姿が入った。
男が女性に覆いかぶさっている。
これは……いけない!
私はすかさずスマホに手を伸ばし、警察に連絡する。
住所がわからない。仕方がないので、一番近くのラブホテルの店名を告げた。
すぐに駆けつけてくれるそうだ。早く来て!
見ると男が女性を担ぎ上げている。
—―連れていかれる!
「待ちなさい!」
思わず声が出た。止めなければ。警察が来るまで。
「あ?」
男が振り返ってこちらを見る。
「ジャマすんな」
言うとすぐに歩き出した。
は? ジャマ? ジャマするに決まってるでしょう!
「その人、どうするつもり! 放しなさい!」
「なんだよ、めんどくせぇな」
男が女性を降ろし、携帯でどこかに連絡をする。ガラケー。犯罪用? 仲間を呼ぶ?
「で、何の用だ?」
男はまた首だけをこちらに向けた。女性の腕を掴んだままだ。担ぎ直すつもりだろう。
「何って女性を襲ってたじゃない!」
怖い。この男はとても大きい。早く警察、来て。
「違うって。見りゃわかんだろ」
「何言ってるの、悪い奴はみんなそう言うでしょ!」
「何のことだよ」
男が携帯をポケットにしまった。
こちらを向く。
――思わず構えてしまった。
体が覚えている合気道の構え。
こんな時でもちゃんと構えられる。少しほっとする。
「ふふっ、ははっ」
突然、男が笑いだした。
「何が可笑しいのよ」
女だと思って馬鹿にしてるの?
「また合気道かと思ってな」
また? 何のこと? ふざけてるの?
「警察は呼んであるのよ」
「なんだよ、面倒くせぇことしやがって。俺が怒られるじゃねぇか」
「あたりまえでしょう。捕まるのよ」
「何で捕まるんだよ。まあいいや、警察とやらが来るまで遊んでやるよ。合気道には借りもあるしな」
合気道に借り……?
男が構えた。
とても低い姿勢。開いた両手を前に出して。
襲い掛かろうとしているかのような構え。
怖い。やっぱり怖い。
小学校3年生から20年続けている合気道。人と戦ったことなんて無い。
何か、先生の教えを、何か教えを思い出さなきゃ。
—―戦う相手と友達になりなさい。
これは今は無理。
—―いざとなったら逃げなさい。
これも今は無理。警察が来るまでは女性を置いて逃げられない。
—―男性相手なら、股間を蹴ってしまいなさい。ただし、その後は必ず逃げること。それで怒らせたら大変なことになりますからね。
これかな。警察が来るまで、それまでなんとかしなきゃ。
男が前に出る。
にやけた顔が腹が立つ。
まずは襲い掛かってくる相手をさばいてよける。
「おお、それそれ、同じだな」
男は軽いステップを踏んでいる。
「何のこと?」
「こっちの話だ。行くぞ」
また男が向かってくる。
躱して足を掛ける。
転びそうになった男はきれいに前転して、すぐに立ち上がった。
前転? 違う。受け身だ!
柔道かな? 武道を犯罪に使うなんて許せない。
男が大きく腕を振ってくる。
躱す。
腕をくぐって後ろに回る。
「ふうっ」
男がため息をついて構えを解いた。
「小さ過ぎてやりづらいな」
「いつも自分より小さな相手ばかり襲ってるんでしょ。そろそろ警察が来るわよ」
「襲ってないって。階級制じゃなきゃ大抵の奴は俺より小さい。ほら、行くぞ!」
男が突進してくる。
また躱したが、前進しながらも男は腕を大きく広げて回転する。
視界いっぱいに太い腕が迫る――――ドンッ!
大きな衝撃。両腕で防いだがどうにもならない。
体が宙に浮いた。
地面が上? 頭が下にある!
お腹に力を入れて勢いよく膝を曲げる。
大学時代に付き合っていた彼氏に教わった躰道の技。
こんなところで役に立つなんて。
躰道がメジャーじゃなくてダサいって言ったら怒って別れられちゃったのよね。あの時はごめんね。
きれいに足から着地できた。
通り過ぎた男は少し向こうにいる。攻撃は受けないはず。
首だけをこちらに向けてニヤリと笑う。
「やるじゃねぇか。面白れぇよ」
楽しんでる?
何なの? 気持ち悪い犯罪者のくせに。
警察はまだ?
よけ続けるのにも、きっと限界がくる。
腕が痛い。さっきみたいな攻撃は何度も受けられない。
相手を倒す?
私に相手を倒せるの?
いつも一緒に練習をしている、先生やヤマギワさん、シンジョウさん達の顔が浮かぶ。
ヤマギワさんなら相手を投げられるはず。
先生ならきっと、よけ続けて投げ続けることができる。
私も真似をするしかない。
シンジョウさんは……あの人はよくわからない。何を考えているのかわからなくて、ちょっと怖い。悪い人ではないのだけど。でもあの人はきっと、こういうことには強いと思う。
「また遅刻だなカワカミ。ホステスなんか助けてるからだよ、って何やってんだ?」
細面の長身の男が現れた—―仲間だ。警察はまだなの?
「ちょっと面白い相手と出会いまして」
「女じゃねぇか。OLパブの子か?」
ホステス? OLパブ? 私がスーツ姿だから?
「ホステスをどうするつもりだったの?」
しかめっ面の大男――カワカミと呼ばれていた――が細面の男に向き直った。
カワカミは草むらの女性を指さしている。
「コンドウさん、あのホステス、呼吸と脈はありましたが、かなり酔ってて店もわからなくて」
コンドウと呼ばれた男は私に向かって軽く会釈をした。
「そこのお嬢さん、すみませんね。こいつ話が下手でね。飲みすぎて帰り際に倒れてたホステスを介抱してやってたんですよ」
「そうだ、介抱、介抱って言うんだな」
介抱って言葉が出なかったの? それでこの男を呼んだの?
「警察だ、全員動くな!」
二人、男が現れた。
来た! 助かった!
トレンチコートに白髪の男。いかにも刑事風。その後ろにスーツ姿の若い男が一人。制服を着ていない。ちゃんと本当に警察官?
「おう、コンドウちゃんじゃない」
白髪の男は片手をコートのポケットに入れたまま、親しげに右手を上げた。
コンドウと呼ばれた細面の男が姿勢を正してお辞儀をする。
「どうも。マスダさん。お騒がせしてすみません」
「何があったの?」
「すみません、倒れてたホステスを介抱してまして」
「あと一般の方が、それを強姦か何かと間違われたようで」
コンドウが私を指し示す。
「あの、警察の方ですよね?」
こいつらの仲間だったら状況的にはとてもやばい。
白髪の男が若い方に顎で合図する。
若い男は警察手帳を開いて見せてきた。
本物っぽい。
南警察署。
本物か。
手帳の写真をよく見る。
実物は暗くて顔がわかりにくいけど、写真の顔はイケメンだった。
「カワカミ、こちらのお嬢さんに何かしたのか?」
「いやいや、構えてきたんでちょっと遊んだだけですよ。俺は投げられたんですよ、そこのねぇちゃんに。合気道ですよ」
カワカミが顔を向けてくる。
「合気道か。いいね。どこの道場?」
白髪が軽い感じで聞いてくる。
「待ってください!」
状況が整理できない。
皆が驚いた顔で私を見る。
「お二人は刑事さんだとわかりました。そっちの2人は何なんですか。刑事さんのお知り合いですか!?」
白髪の刑事さんが両手を広げて向けてくる。私を落ち着かせようとしているのだと思う。
「こいつらはこの辺で店の経営をしているコンドウとそのボディーガードのカワカミだ。悪い奴らじゃないが、まぁ、ヤクザだな」
ヤクザ?!
「俺はヤクザにはなっていません」
カワカミが大真面目に反論をする。コンドウは反論しないのね。
って、そんなことはどうでもいいの!
「刑事さん、ヤクザとお知り合いなんですか?」
「それはちょっと違うが……。まあ顔見知りだわな。それよりお嬢さん、どこの道場? 俺もやってんだよ。南警察署の道場で。広道館のヒロサワ館長の講習会」
ヒロサワ先生! カツラギ先生の兄弟子だ。
「ヒロサワ先生、知ってます! 一度、学生の時の大会でお見掛けしたことがあって」
良かった。広道館の方なら安心かな。
「私も広道館所属のカツラギ先生のもとでお世話になっていて」
急に刑事さんの顔が強張った。
「あの、鬼のカツラギの?」
鬼? 誰のこと?
「いや、あの小柄でいつもニコニコしている先生ですけど」
刑事さんは顔の前で手を大きく振る。
「いやいや、若いころはちょっと違ったから。いやちょっとじゃないわ」
顔が引きつっている。コンドウの表情も先ほどと変わってなんか固い。よく見ると顔にシワもある。白髪に歳が近いのかもしれない。
「おい、マサキ。このお嬢さんを丁重に家までお送りしろ。失礼のないようにな。送り狼とかしたら首が飛ぶと思えよ」
「しませんよ」
マサキと呼ばれた若い刑事が困った顔で返す。
「では、お送りします。もう少し明るい道を通りましょう」
若い刑事さんがエスコートしてくれる。
「じゃあ、あの方、ちゃんとしてくださいね」
ホステス――よく見るととても派手な女性用スーツだ——を指して念を押す。コンドウが頷く。
よかった。悪い人でもないのね。安心すると力が抜けた。若い刑事が心配して近寄ってくる。
「大丈夫です」
支えを断って歩き出す。
無事終わった。帰ってゆっくりお風呂に入りたい。
それにしても……鬼のカツラギって何?
まあいっか。
色々あって大変だったけど、いいこともしたし、今日は楽しかったな。月も綺麗だし。
(外伝 完)
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