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あの狼たちによろしく

エイジ・シンジョウ

第6話  師範

 土曜の夜には合気道の稽古がある。
 場所は大型ショッピングモール最上階のカルチャーセンターで行われている。自前の道場で指導ができる人はもうほぼいないらしい。
「こんばんは」
 2人が声をかけてきた。柔道経験者で男性のヤマギワさんと中高時代から合気道を続けている女性のハナザワさんだ。
 ヤマギワさんはとても体が大きい。100kg超級だったのではないかと思うほどだ。
 対して小柄なハナザワさんは、ここで教えているカツラギ師範の元教え子でもある。
 カツラギ師範は高校の教師で合気道部の顧問だった。定年後に始めたのがこの教室というわけだ。
 俺はこの教室を偶然知って5年前から通っている。
「皆さん、こんばんは」
 ボストンバッグを抱えた初老の男性ーーカツラギ師範ーーが姿を表した。少しよれたズボンにジャンパーを着た、どこにでもいそうなおじいさんだ。優しそうな、いつも少し困ったような笑顔を浮かべている。師範が今まで怒鳴ったところを見たことがない。以前にハナザワさんにも聞いてみたが、高校の先生だった頃も一度も見たことがないのだそうだ。
 師範が俺を見て言う。
「どうしましたか? また今日も難しい顔をしていますね、シンジョウさん」
「眉根が寄ってますか?」
 俺はさらに眉根を寄せて聞き返す。
「寄ってます、寄ってます」
 ニコニコと答えられると言い返す言葉がない。
「さあ、準備しましょう」
 学生時代キャプテンだったというハナザワさんが、いつもの落ち着いた調子で言ってきた。落ち着いた、というより少し冷たい感じだ。ハナザワさんが笑うところもあまり見ない。俺が嫌われているだけかもしれない。
「よし!」
 ヤマギワさんが両腕を高く掲げて気合を入れる。
 それは柔道のポーズだよな、といつも思う。

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