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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

【外伝】第9話 少しの苦い感傷(SIDEアデライダ)

*****SIDE アデライダ



 晴れた実家の庭で、美しく色鮮やかな茶菓子に手を伸ばし、私はふと目を細めた。実家で祝い事があると出される菓子が並んだ皿の縁を指でなぞる。

 この国がティタンに名を変えて、すでに10年が過ぎた。

「懐かしいわね」

 王家に嫁いだ後、義務だと割り切って日々を乗り越えた。弟ベクトルは必死に貴族に根回しし、義務を果たした王妃が実家に戻れるよう働きかけを行う。なかなか上手くいかない状況を打破したのは、美しく儚い義妹が産んだ甥だった。次の竜の乙女である妹を守ろうとする甥の姿に、かつて弟と交わした約束を思い出す。

 ――姉上を自由にしてみせる。

 叶うはずがない夢。早々に諦めた私と違い、弟ベクトルも甥エミリオも俯くことはなかった。その姿に、いつか……自由になれるのでは? と期待が胸を焦がした。

 その頃、3人目の子供を産んだ私は夫との同衾を拒む。義務を果たした以上、好きでもない男と体を重ねる自虐趣味はなかった。部屋を分けて、必要最低限の言葉しか交わさずに彼を拒み続けた。

 別の女を連れ込んでいる話も、寵愛する彼女に貢ぐ噂も、すべては私の手のひらの上だ。宮廷内の情報で王妃である私が知らない話の方が少なかった。

 甘やかされて育つ王子を放置し、王女達を近くに寄せない。各貴族家を実家の派閥へ誘導し、少しずつ歯車を狂わせる。それが王妃である私にできる、精一杯の応援で抵抗だった。

 娘達を厳しく育てるのは、可愛い彼女達が嫁家で大切にされるように。王子を愚かに育てるのは、弟や甥が付け入る隙を作るため。

 婚約が解消されて『婚約者のいない竜の乙女』が伝説の通りに実現されるよう、愚かな息子の女遊びに目を瞑る。甘やかされ好き勝手に振る舞う、王子への愛情はない。あの子は最後の王族として滅びるべきだった。

 父親にそっくりの女好きでだらしない性質は、教育のせいではない。持って生まれた性質だ。治しようのない愚かな男達を見限ったのは、私自身だった。

 貴族を繋ぐ道具として扱われる娘達へ愛情を示せば、エミリオやベクトルが動きづらくなる。だから近づけなかった。

 お茶会に呼ばないのも、気持ちが残っているからだ。彼女達も、自分同様に利用される王家の駒なのだから。中途半端に愛情を示して期待させ、それが裏切られた時の痛みを教えたくなかった。私を憎んでくれたらいい。それで楽に生きられるなら、殺したいほど憎んでくれてよかった。

 距離をおいても、娘に関するすべての報告書は私の元へ届けられる。

 直接愛情を注げない分、厳しく躾けた。勉強やマナーに手を抜くことを許さず、放置した王太子と比較にならない良い娘に育ってくれた。今は侯爵夫人であり、伯爵夫人として、夫を支える彼女達を思い浮かべた。

 近いうちに娘2人に声をかけて、みんなでまたお茶を飲めばいいわね。子育てが一段落したフランシスカはともかく、3人目を懐妊したエステファニアは体調が気になる。今までと違い、悪阻がひどいと聞いた。果物やさっぱりしたお茶を用意させなくては……。

 そこで擽ったい気持ちになり微笑む。こんなに幸せな老後を過ごせるなんて、本当に夢のようだった。国の犠牲にされそうだった姪は、竜帝陛下に愛されて幸せな結婚をした。彼女達の子も、エミリオの子も、実の孫同様に可愛い。

 ゆったり流れる空の雲を見上げると、赤い竜が旋回して敷地に降りてきた。はしゃぐ幼女の甲高い声が響き、それを追いかける兄の姿――昔のエステファニアとエミリオを見るようだ。銀髪と緑に金が混じった瞳、どちらの色合いもメレディアス公爵家の特徴だった。

 可愛いミレーラを選んだ、赤い竜の騎士を迎えましょうか。立ち上がった私のいる庭に向け、赤毛のアグニを連れた子供達が走ってくる。両手をミレーラとクルスに掴まれた騎士は、手前で足を止めると軽く会釈した。

「一緒にお茶でもいかが?」

「ぜひ、ご一緒させていただこう」

「大伯母さま、どうぞ」

 まだ子供なのにクルスは気取った所作で、私にエスコートの手を差し出した。もう初老に差し掛かるというのに、レディ扱いをしてくれる小さな紳士に微笑む。気高い銀髪の若き騎士に手を預けたアデライダが腰掛けると、愛しい番を抱き上げたアグニが向かいに座った。

「良いお天気ですこと」

「竜が飛ぶのに最高の好天です。どうですか、一度空を舞ってみては」

「心臓が止まりますわ」

 おほほと笑って断る私に肩を竦めて、アグニは膝の上のお姫様に声をかけた。


「ミラは飛ぶか?」

「うん」

「僕も」

 ミレーラとクルスが声と一緒に両手を上げる。

 まだまだ幼い彼女にとって、いつも遊んでくれる優しいアグニは家族同然だろう。いつか幼女が少女になって乙女になる頃、この感情が愛情に変わっていることを願い、アデライダは幸せな光景に口元を緩めた。

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