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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

【外伝】第8話 言祝ぎを捧ぐ(SIDEアグニ)

 *****SIDE アグニ



「え? うそ、本当に?」

 フランシスカの口調が崩れて、カリンが覗いている。人間初の親友であるエミリオは大きく目を見開き、我が子と親友の俺を交互に見つめた。なんとか笑顔を向けようとした頬を涙が零れ落ちる。きょとんとした顔のクルスが首をかしげた。

「アグニ、どこか痛いの?」

「……いや、嬉しいのだ」

 否定して幼子の銀髪を撫でてから、エミリオと視線を合わせた。立ち直ったのか穏やかな顔をしたエミリオは、肩を竦める。

「竜の番なら、僕に断る理由はないよ。大切な我が子を、僕より年上の親友にやるとは思わなかったけど……ミレーラを誰より愛して、この子が望むなら嫁に出すよ」

 番を得た赤い竜へちくりと釘をさすのは忘れない。今すぐにでも連れ去りそうなほど喜ぶ俺に、誘拐犯で指名手配するのは気が引けるんだからと告げる目は笑っていない。茶化した口調に滲む本気を嗅ぎ取り、俺は大きく頷いた。

 我を失って誘拐するような真似はしない。ミレーラは生まれたばかりで、これから親や兄の愛情を受けて健やかに育つべきだった。その成長を近くで見守り、やがて彼女の隣に立つに相応しい男になればいい。選ばれてみせる。

 俺の決意を見守る夫婦は、複雑な心境を押し殺した。

 赤子のうちに嫁ぎ先が決まるなんて……公爵家であろうと複雑な心境だろう。過去の因縁があるからこそ、ミレーラに選ばせたかったに違いない。わかっていても、他の男に彼女の隣を譲る気はなかった。

「わかっている。ミレーラに望まれる男になろう」

「嫌だわ、なんか背徳的ね。アグニ兄様に私の娘が嫁ぐなんて」

 口調がフランシスカに戻っている。肩を竦めるフランシスカへ、苦笑いして答えた。

「俺だって、かつての妹を義母と呼ぶ日が来るなど予想しなかった」

 竜は番を一生かけて愛し抜く。それは種族の違いがあっても関係なく、相手の意思を尊重したうえでどこまでも甘やかし、愛し、包み込むのだ。

 腕の中の我が子が幸せになる未来に、フランシスカのローズピンクの唇が弧を描いた。信頼できる存在に、愛する我が子を託せる未来がどこか擽ったく表情が和らぐ。

 駆け寄ったクルスの銀髪を撫でてから立ち上がり、俺の手にミレーラを渡した。宝物を優しく扱う逞しい腕で、ミレーラはにこにこと笑顔を振りまく。

 柔らかくて潰れそうな幼子は、ぐずることもなく機嫌がいい。俺と出会った奇跡に、彼女も喜んでいる気がして気分がよかった。

「絶対に幸せにしてやるからな」

 まるで挑戦状のような言葉に、エミリオも含め皆が笑う。クルスは大好きな母に抱き着きながら、涙の乾いた俺を見上げた。

「アグニもミレーラが好きなの?」

 未来の義兄の問いかけに大きく頷いた。竜の逞しい鍛えられた腕は安定するのか、自分の指を咥えたミレーラはうとうとと眠りの船を漕ぐ。軽く揺すって赤子特有の温かさを感じながら、出来るだけ誠実に返した。

「この世界の誰より、好きになる自信がある」

 そこに飛び込んだ共有意識の情報に、ぼそっと零す。

「産まれた?」

「え? もしかしてティファが?」

「予定より早いわ」

 焦るエミリオとフランシスカをよそに、テュフォンから伝わった情報を整理していく。駆け付けた母マリエッラから、無事出産の一報を聞いて安堵の息をついた。

 同様に共有して確認したエミリオもほっと息をつく。自分が人間だからと、彼は普段は共有の輪の外にいた。必要なときだけ加わる形をとっている。顔を見合わせて肩を竦めた。

「安心しろ、無事に産まれた。男の子だそうだ」

「僕、お兄ちゃんだ!」

 万歳して喜ぶクルスに「よかったな」と頭を撫でてやる。クラリーサも妹ミレーラも女の子なので、従弟が出来たのが嬉しいのだろう。

「これから見に行くか」

 俺が背に乗せて運んでやろうと提案すれば、クルスは大喜びした。これからも増えるであろう竜の一族の末っ子の誕生に、他の竜が続々と祝いに駆け付ける。その列に加わり、小高い丘の上の屋敷を目指した。祝いを己の言葉で捧げるために。

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