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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

【外伝】第3話 溺愛に値する妻子(SIDEテュフォン)

*****SIDE テュフォン



 ベッドに入るなり眠ってしまった娘の金髪を撫でながら、妻の話を聞く。歴史のお勉強は熱心だが、ダンスやマナーの授業は嫌いで逃げ出してしまうようだ。

 お転婆なところは、ステファニーそっくりだな。義兄エミリオから聞いた子供の頃の逸話を思い出し、口元が綻んだ。

「テユ様、聞いてますの?」

「ああ。リサはステファニーそっくりだ」

「もう……リオ兄様ったら余計な事ばかり話すんですもの」

 ぷんと拗ねた妻を宥め、優しく抱き寄せる。腹が大きくなってからは、腰が痛いと言うのでクッションを多めに用意させた。埋もれるようにして横たわる彼女の唇が尖っている。キスを強請る仕草に見えて、驚かさないようゆっくり重ねて舌を差し入れた。

 いつも同じだが肩を揺らしたあと、受け入れるために唇を開いてくれる。初めてのキスみたいに、舌から逃げるのも可愛い。最後は甘く絡めて舌を差し出してくれるまで。しっかり甘やかして、ちゅっと音をさせて離れた。

「……っ、誤魔化されませんわ」

 蕩ける顔でそんな誘い文句……この子が腹から出たら、覚悟しておけ。そう囁くと真っ赤な顔を両手で隠してしまった。

「可愛いステファニー、我に顔を見せてくれ」

 懇願する響きに弱い妻がそろりと顔を覗かせる。竜帝の血を引く証である黄金と、初代竜の乙女が持っていた若草色が混じった瞳は潤んでいた。唇を寄せて眦にキスして、もう一度唇を重ねようとしたとき……ごそりと娘が動いた。

 起こしてしまったか? どきっとして動きを止めれば、クラリーサはごろんと転がってまた寝息を立てる。お互いに息を止めて見守ってしまい、ほっと安堵の息をついた。

 それから顔を見合わせて微笑みあう。美しい妻と可愛い娘……ああ。数百年かけた仕掛けの苦労が報われた。オレは世界一幸せな男だ。

 この子のことは、ベクトルから公爵を継いだ義兄エミリオの妻、妻の親友のフランシスカにでも頼もうか。彼女の第一子は男の子だった。クラリーサの1歳年下の幼子は、礼儀もしっかりした子だ。

 甥を呼んでクラリーサを刺激しよう。あの子は「姉」になることに夢を見ている。いいお姉様になるのだと豪語していたから、そこを突けばダンスやマナーも覚えるだろう。物覚えは悪くないが、興味を持たないことを後回しにする。

 この悪い癖は、間違いなくオレからの遺伝だな。黄金の竜という特徴を受け継いだ、美しい光の娘――いつか番を見つけ、この手を飛び立つまで、たくさんの愛情を注いでやろう。愛される子は、愛することを自然に行えるから。この子が幸せになれるよう、オレ達の幸せに溺れさせて育てよう。

 いつの間にか眠った妻エステファニアの頬にかかる銀糸を指先で弄りながら、愛娘を引き寄せた。寝相が悪いこの子がステファニーの腹を蹴らないように。だが夜中に目覚めても、父と母に抱かれる安堵に包まれるように。

 ゆっくりと目を閉じた。



 翌朝、執務の前に手紙をしたためた。執事となったアグニがすぐに配達に飛び立つ。竜の考え方は人間と違い、貴族として楽に暮らすことを拒む者がほとんどだった。アグニが小さい頃に持ち込んだ「働かざる者、食うべからず」の概念が沁み込んでいる。

 このティタン国は、共和制に似た議会が存在する。貴族と民から選ばれた代表者で行われる議論は、身分制度を無視して自由な討論が許された。その議論に参加するために、貴族階級に落ち着いた竜もいる。人間と寿命が違う彼らの長期視点は、国全体の行く末を考える際に役立つらしい。

 逆に、短期の展望は人間の方が得意なのだ。すぐに実践すべき策を作り、提案する人間の迅速さは竜にはない視点だった。この国が僅か6年で急速に繁栄した理由のひとつだ。

 豊かになれば狙われるのも、世の常だった。隣の芝生はいつも青い、だったか? これもアグニが前世から持ち込んだ言葉だ。同じものを持っていても、他人の持っている物の方が立派に見える。

 君主交代の混乱に乗じて攻め込もうと画策した幾つかの国は、竜の圧倒的な武力を見せつけられた。その影響から周辺国を含め、ほぼすべての国で戦争が中断している。

 小競り合いはあれど、大きな戦争がなくなったことで、人々は生活に余裕を取り戻した。予想外だったが、これも怪我の功名と言うらしい。アグニの前世は、いろんな言葉があった。その豊富さは竜の好奇心を刺激する。彼の知識は宝の山だった。

 アグニが空を舞うと、仰ぎ見た国民が手を振る。手を振られた竜達も、旋回して応えるのが挨拶になっていた。おかげで子供も大人も関係なく、誰もが気づくと手を振るのが慣習になりつつある。

 勤勉で人を信じることを躊躇わない民との共存は、現在、こわいほど順調だった。今の一番の懸念は、執務や外交ではない。妻に立派な卵を産んでもらうことだけ――アグニが見えなくなった空から視線を逸らし、執務室の机に積まれた書類を手に取った。

 今日は比較的量が少ない。空も雨の気配はなかった。早く終わらせ、愛しのステファニーや可愛いリサと一緒に庭でお茶でも楽しもうか。

 そう決めると、オレはペンを手に書類との格闘に取り掛かった。

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