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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

最終話 私、とても幸せです

「出てきて、私のお姫様」

 微笑みかけて卵を抱き寄せた途端、大量の水がベッドの上に溢れました。膜が割れて中の羊水がシーツに染みていきます。落とさないように抱き締めた私の腕で、子竜は大きく息を吸いました。

「ぴぎゃぁああああ!」

 立派な鳴き声です。母を呼ぶ竜の声と同じ響きよ、マリエッラ様が教えてくださいました。ぎゅっと胸に指を食い込ませる子竜の必死な姿に、自然と口元が緩みます。

 だって、可愛いわ。この子が私とテユ様のお姫様なのね。

「可愛い……普通にお乳飲ませていいのかしら?」

「構いませんわ」

 夫であるため、テユ様の臨席は許されるそうです。シーツが吸収しきれず流れた羊水に膝を濡らしながら、テユ様はじっと我が子から目を離しませんでした。

 溺愛の片鱗が垣間見えます。あなたは愛されて生まれ、愛されて育つのですよ。

 初めての授乳に、クラリーサが大きな目を瞬かせます。もう見えているのでしょうか。目の前で銀の髪が揺れると、金の瞳が追いかけました。なんて愛らしいのかしら。

「あの子達が生まれた時とは感動が違うけれど、やっぱり出産はいいわ」

 伯母様が感動した様子で両手を組んで覗き込んだ時、ノックと同時に扉が開く気配がしました。待ちきれないのだと思いますが、今はまずいですわ。

「生まれましたか? ティファ、僕にも赤ちゃんを見せて欲しい……っ」

 鳴き声に誘われたリオ兄様とお父様が部屋に入ろうとしたが、素早く立ち上がった夫に阻止されました。外へ追い出しながら後ろ手にドアを閉め、言い聞かせています。

「ステファニーは授乳中だ」

 それ以上の説明は必要なく、察しのいい2人は明るい声で応じました。

「わかりました。少しして出直します」

「今日中には孫の顔を見たいものですな」

 返事をする前に、テユ様だけ戻ってこられました。いくら妻の兄と父であっても、妻の裸体を見せるわけにいかない。ぶつぶつと文句を言いながら、扉に開閉を禁ずる魔法をかけています。少し厳重過ぎますが、助かりました。

 授乳は母性の行いですが、やはり夫以外の異性に裸の胸を見せるのは抵抗があります。

 お腹いっぱいになったのでしょうか。子竜クラリーサは、いつのまにか満足そうに目を閉じていました。そのまま眠りそうなので、テユ様も初抱っこは諦めて見守ることにしました。動かすと起きちゃいそう。ベッドサイドの椅子に腰掛けたテユ様にこっそり囁きます。

「私、卵を産むなんて想像もしておりませんでしたわ」

「すまない、嫌だったか? 人間は人の形をした赤子を産むものだ。もしかして嫌な思いをしたのでは?」

 心配から眉をひそめるテユ様の顔に、もう子供を産むのは嫌だと拒否されたらどうしよう、と書いてあります。うふふ、なんだかテユ様が幼く感じますね。ぎゅっと拳を握る姿に、微笑んで否定しました。

「違いますわ。出産って話に聞くと逆子だったり大変なのでしょう? なのに、つるんと卵を産んでしまって……ずるをした気分です」

 大きな卵を産んだせいで痛みに青ざめていた頬も、今は血の気が戻ってきました。産む時に力を込めて白かった指先もピンクに染まっています。赤ちゃんが元気に泣いたのも聞いて、授乳も済ませたらほっとしました。

 向かい側でベッドの端に腰掛けたフランカが、羨ましいと口にしていますね。

「私も卵で産みたいですわ」

「まだ半年以上も先の話でしょう」

 笑う私が指摘したとおり、フランシスカのお腹にはクラリーサの従弟か従妹になる子が宿っています。人間同士の子なので、当然赤子の形で産むことになるのは間違いありません。

 前世で兄だったアグニ様が、俺も立ち会うと騒いでおられましたね。リオ兄様、ちゃんと排除できるのかしら。

「フランカのお産は私が手伝うわね」

「お願いするわ。手を握っててもらうと安心するもの」

「リオ兄様が手を握るのではなくて?」

 私の指摘通り、義姉フランカを溺愛する兄様は出産に立ち会うはず。手を握って励まし、下手すれば産婆の仕事を覚えて手伝うと言い出すかも。下手に多才な方ですから、本当にやりかねません。

 全員が同じところまで想像したらしく、大きな溜め息が重なりました。

「そういえば、ベクトルとエミリオが我らの宝を見たいと言っていたな。呼んでこよう」

 頷いた私の腕の中で猫のように丸まって、クラリーサはぐっすり夢の中――その愛らしさに頬を緩めながら、テユ様が部屋を出ました。お父様とリオ兄様を迎えに行かれたのでしょう。

 心地よい疲れに私も眠くなり、クッションに埋もれて窓の外を見つめます。今日も空は曇っていて、結婚式前日を思い出しました。あの日雲が割れて、竜の光が降り注いだ祝福の美しさは今も忘れられませんわ。

 きっと、あの日に私達の光であるクラリーサへの祝福を貰ったのだわ。

 半分眠りかけた私の目に、雲を割って竜が舞い降りるのが見えました。共有したテユ様の意識から、竜帝の姫に会いに来てくれたのでしょう。

 最初の出会いの夜と同じ、螺旋を描きながら……くるりくるりと降りてきます。その中央に降り注ぐ竜の光がとても綺麗で。ゆっくりと目を閉じる私の胸にかかる我が子の重さも、「眠るの?」と声をかけた伯母様の声や、上掛けをかけてくれるフランカの指先。すべてが幸福を運んでくれました。

 母になってようやくこの言葉が言えますね。お母様、私を産んでくださってありがとうございます。

 閉じた瞼の裏に竜の光が差し込んだ気がして、心の中で呟く。

 ――竜舞う空の下で、私、とても幸せです。






 ―――END or ?―――









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※明日より外伝が11話あります。もう少しお付き合いくださいませ。


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